落花生、ピーナッツに旬があるのをご存知だろうか。「ピーナッツなんて1年中食べられるものでしょ?」と思っている人も多いだろう。一般に流通している落花生の多くは乾燥した後、煎るなどして加工が施されている。腐敗の元になる水分がしっかり除去されていれば、1年くらいは十分保存できる。しかし、元は豆なので、収穫期があり、加工しない生落花生は日持ちしない。
落花生の生産地は非常に偏っている。千葉県の生産量が全国の80%超、隣接する茨城県がほぼ10%で、北総から鹿行にかけての非常に限られた地域に、国内生産量の約9割が集中している。この2県の他には、栃木、神奈川、静岡、長崎、鹿児島といった県、愛知・三重・岐阜の東海3県が目に付くくらいだ。こうした限られた生産地では、生落花生を豆として食べる文化があり、収穫期である秋の訪れとともに、店頭には生落花生が並ぶようになる。一方で、限られた生産地以外では、日持ちするよう加工したものが通年で店頭に並ぶという認識になっている。
落花生は南米原産のマメ科の植物。春先に種をまき、9月から11月にかけて収穫する。草の枝が比較的直立する「立性」、枝が地面を這う「ほふく性」、その「中間型(半立)」に分けられ、実は食用となる「大粒」と主に油や加工品に用いられる「小粒」に分けられる。多くは、収穫時期の違いを考え、時期をずらして種をまいて育てる。ちなみにさや入りを落花生、さやから出したものをピーナッツと呼ぶのが一般的だ。
JA富里市の直売所に行くと、落花生売り場には様々な品種の生落花生が並んでいた。現在、千葉県で栽培されている主な品種は5種類。それぞれに特徴があり、適した食べ方も違う。まず、千葉半立(ちばはんだち)は、1932年に千葉県農業試験場で在来品種から選抜育成してできた。半立で、株は横に広がり、晩生で収量性は高くないが、独特な風味があり煎り豆に適している。作付面積では、県内で最も多い品種だ。
ナカテユタカは、79年に千葉県農業試験場で完成した品種。立性で、開花期から収穫適期まで80日前後の中生、多収で、味がよい品種。一方で、収穫適期を過ぎると実の品質、食味ともに低下しやすい。実はやや大きく、色つやや粒揃いが良く、煎り豆の食味もあっさりとした甘みがある。千葉半立に次ぐ作付面積を誇る。
郷の香(さとのか)はナカテユタカと八系192とを交配して、95年に完成した品種。早生の多収品種。立性で、株元にさやが集中する。さやは白く、熟度が揃っており、ゆで落花生に適している。
おおまさりは、ナカテユタカと極めて大粒の品種であるジェンキンスジャンボとを交配し、2008年に完成した晩生品種。実の重さが、一般品種の約2倍にもなる。ゆで落花生に適しており、甘みが強く柔らかく、食味が優れている。
Qなっつは郷の香と関東96号を交配し、13年に完成した。やや早生から中生の多収品種。立性で、株元にさやが集中する。さやは白く、甘みが強く、煎り豆に適している。
こうした品種の中で、生落花生として特に人気が高いのはおおまさり。ジャンボな実は食べやすく、ゆでて食べるとひときはおいしい。実際に産地に足を運び、おおまさりの収穫作業を見せていただいた。千葉県内でも、落花生栽培は八街市、富里市、千葉市など、印旛沼周辺から千葉市にかけての地域が中心で、今回は富里市を訪れた。
茎を手にして引っ張ると、土の中からたくさんの落花生が実った根が出てくる。土から引き抜いたばかりの落花生は意外にきれいだ。泥はこびりついてはいない。土中にじゅうぶん空気を入れているからだろう。
引き抜く作業はもちろん、根から落花生を摘みとるのも手作業になる。さやが大きくても、中の豆が未成熟だったり、すでに腐りかけている場合もある。出荷に適したものだけを一つひとつ選んで摘み取っていく。
摘みとったさやは水洗いする。使っているのは、ニンジンを洗う機械だ。水を切った後は、乾燥へ。
塩ゆで用なので生で出荷するが、さやに水を含んだままでは出荷できない。選別もかねて網の上に広げ、扇風機で風を当てて水分を飛ばす。同時に出荷に適さないさやが次々にはじかれていく。ぶよぶよになったさやはもちろん、一見良さそうでも、未成熟なものがあり、それを除外する。さやを持ってゆすり、からからと音がすれば、豆が未成熟な証拠だ。
引き抜いたときにも相当数、出荷に適さないと判断されたさやが根に付いたままになっており、乾燥の段階でもかなりの数がはじかれる。さらには乾燥を終え、出荷するまでの間にも結構な数がはじかれるため、引き抜いたさやのうち、最終的に出荷されるのは半分くらいだろうか。それほど、選りすぐりのさやだけが出荷されるということだ。国産落花生が安くないのには納得させられる。
最後に、おおまさりの生落花生をゆでてみよう。大きな鍋に多めの水を張るといいそうだ。塩加減は好みだが、水1リットル当たり大さじ2杯が目安で、そこに落花生をさやつきのまま放り込む。ゆで時間は沸騰してから、硬めが好きなら40分、軟らかめなら1時間が目安。ザルにあけ、湯を切ればできあがりだ。
あれだけゆでたにもかかわらず、さやを割ろうとするとけっこう力が要る。さやが割れると、大粒で白っぽい豆がお目見えした。さやのしっかり感に反して、豆の歯触りは非常にソフトだ。枝豆に近い。カロリーが高いので食べ過ぎに注意したいが、ゆで落花生をつまみにビールを飲み出すと止まらなくなる。
落花生産地の一つ、長崎県大村では、生落花生を筑前煮に入れたりもする。また最近では、足の速い塩ゆで落花生を真空パックにする技術も開発された。産地以外でも、ゆでた生落花生が味わえるようになってきている。店頭で見つけたら、ぜひ、試してみてほしい。