日本人は大の餃子好き。宇都宮市と浜松市の餃子に対する年間支出金額の熾烈な首位争いが毎年話題になるが、宇都宮や浜松に限らず、全国各地で餃子は愛され、そしてその土地ならではの餃子も数多い。
製鉄のまち・北九州市では鉄鍋にのせた餃子があり、神戸や長野の伊那地方では味噌だれで餃子を食べるのが人気だ。東京・蒲田の羽根付き餃子も広く知られる。そんな「ご当地餃子」のひとつに、東北・福島の円盤餃子がある。
餃子の人気店ともなると、毎日数え切れないほどの餃子が食べられることになる。そうしたお店にはたいがい餃子焼き器が備えられ、効率的に多くの餃子が焼かれる。しかし、昔ながらのフライパンで餃子を焼くことにこだわる店、地域もある。その代表格が宇都宮と餃子のまちナンバーワンを競う浜松だ。浜松餃子につきもののモヤシは、フライパンで円形に焼いた餃子の中央部分にモヤシを盛ったのがそのルーツだ。
同様にフライパンで焼く餃子にこだわる店が多いのが、東北の福島市だ。福島市では、餃子の人気が高く、2003年には市内の餃子人気店有志が「ふくしま餃子の会」を結成、餃子を福島の新しい名物にしようと立ち上がった。
福島の餃子は円盤餃子と呼ばれ、浜松同様、フライパンで円形に焼くものが多い。ただし、浜松とは違い、同心円に餃子を並べた後、中央の空白部にまでびっしりと餃子を並べる。加えて縁のあるフライパンの形状を生かし、油をたっぷり入れることで「揚げ焼き」にする店が多い。
フランス料理のコートレットをご存じだろうか。カツレツの原型と言われ、たっぷりの油で揚げるカツに対し、フライパンに多めの油やバターを入れ、パン粉の付いた肉を揚げ焼きにする調理法だ。福島の円盤餃子はこれに近いスタイルが特徴だ。そのため、餃子の焼き面は揚げ餃子のようなカリカリになる。
ただし、店によって皮の厚みや油の量には差があり、限りなく一般の焼き餃子に近いものからほぼ揚げ餃子に近いものまでけっこうな違いがある。そうした店ごとの違いを確かめながら食べ歩くのも、福島の円盤餃子の楽しみ方のひとつだ。
では実際に、人気店を中心に何店か食べ歩いてみよう。
まずは、円盤餃子の元祖の店として知られる、福島市中心部に店を構える「満腹」。餃子へのこだわりは格別で、ライスは提供せず、餃子以外のメニューも冷や奴や枝豆など簡単なつまみに限られる。
餃子の皮も、創業以来の手練りにこだわる。あんは野菜多めのさっぱり味。これをやや油少なめでフライパンの形そのものに焼き上げる。1皿30個と、他の店に比べて数はやや多めだが、その分大きさは小さく、いわばひとくち餃子だ。手練りの皮も薄く、30個でも十分に食べられる。
酢は別途頼まないと出てこない。餃子のたれと自家製のラー油で食べるのが基本だ。老舗らしく、福島円盤餃子のデフォルトと言える味わいになる。皮の薄さや焼き加減など、調理のていねいさもあって、くせは少なく、誰にでも受け入れられる味と言える。
一方で、JR福島駅東口にも店舗を構える、飯坂温泉が本店の「照井」は、行列の絶えない人気店だ。現在4店舗を展開するが、いずれも行列店として知られる。
特徴は薄い皮と多めの油だ。油の量が多いため、餃子同士がくっついている部分以外はほぼ揚げ餃子に仕上がる。薄い皮はたっぷりの油で、「餃子の皮チップス」のようにかりっとした食感になる。それがビールとの抜群のマリアージュを生む。あんはやはり野菜多めのあっさり味だ。
餃子専門店では、今回食べた中で最もエッジが効いた仕上がりになっていたのは「山女」だ。まるで一軒家のような小さなお店だが、1階のカウンター席からは調理の模様をかぶりつきで見ることができる。たっぷりの油で、ほぼ揚げ餃子。最後に油を切ってから仕上げる。
皮は厚めで、独特のもっちりとした食感を持つ。何より魅力的なのは、ぱんぱんに膨らんだ餃子のビジュアルだ。たれに置き、箸を入れると「ぷすっ」という音とともに中に閉じ込められた空気が吹き出してくる。油多めのややしつこい仕上がりだが、そのままかじり、口の中で「ぷすっ」と空気がはじけると、得も言えぬ軽い食感になる。あんは野菜多めだが、2店に比べ肉の存在感は高い。歯触りはかりっと、それでいてもちもちした食感の皮も、上記2店にはない、独特の個性がある。
ここまで紹介した3店は、店の正式名称に「餃子」の2文字が入る、いわば餃子の専門店だが、福島では、中華料理店やラーメン店でも円盤餃子を食べることができる。そのひとつ「らーめん石狩」でも円盤餃子を食べてみた。
「東京もん」にとっては、今回食べた餃子の中で最も食べ慣れた味だ。皮は厚めで、もっちりとした食感が楽しめる。あんもしっかり肉の味がする。焼き面は、一般的な焼き餃子に近い食感だった。
先日も、人気テレビ番組「秘密のケンミンSHOW極」で紹介されるなど、知名度も高まってきた福島の円盤餃子。近くに行く機会があったら、ぜひ食べてみてほしい。