冬の定番鍋料理、おでん。日本全国のコンビニエンスストアでも取り扱われるなど身近な料理だが、実は、各地で地域差が鮮明な料理でもある。コンビニ各社も、地域に合わせて味を変えたりしているほどだ。味付けやだし、おでんだねなど、日本全国、各地各様のおでんがある。
おでんだねで、地域差がよく知られているのははんぺん。東京など、関東では白くふわふわしたはんぺんだが、静岡では黒く、歯ごたえのしっかりした黒はんぺんが一般的だ。
「これってはんぺんじゃないの?」と驚かされたのは、金沢おでんの名店「赤玉」で食べたえびしんじょう。東京でえびしんじょうといえば、えびのすり身を加熱したものだが、「赤玉」では、東京のはんぺんのようなふわっとした魚の練り物の中に、真っ赤なえびが入っていた。
すじといえば、西日本では牛すじだが、東京や静岡では魚のすり身だ。すじはすじでも、肉ではなく魚のすじだ。サメのすり身を作る際、裏ごしで除かれたすじや軟骨を使って作る練り物だ。けっこうボリューム感があり、軟骨のコリコリとした食感も楽しめる。
東京ならではのおでんだねにはちくわぶがある。「ちくわ」と名がつくが、魚のすり身ではない。漢字で書くと「竹輪麩」。そう、麩の一種なのだ。小麦粉をこねてちくわ型に成型し、茹でたもの。小麦粉のグルテンを主成分とした麩ともちょっと違う。生麩をモデルに、竹輪の代用品として誕生したというのが一般に知られたルーツだ。いわゆる「コナモン」だが、何度も練り上げるため、強いコシが特徴だ。
本物の麩がおでんに入る地域もある。北陸や新潟などで好んで食べられる車麩は、金沢おでんを代表するおでんだねのひとつだ。一方で、もちもちとした生麩をおでんに入れる地域もある。
金沢おでんは、関東人には驚きの宝庫で、もっとも驚かされるのがカニ面だ。カニは金沢を代表する食材の一つだが、おでんにもカニが入る。殻を剥いたカニの脚を、カニの甲羅にずらり並べておでんだしで煮込んでいる。
かまぼこ類にも地域性が見て取れる。関東では板の上にすり身をのせて蒸す「板付き」のかまぼこが一般的だが、仙台の笹かまぼこのように板を使わないかもぼこ、富山のように昆布で巻いて作るかまぼこもある。金沢おでんでは、北陸では「赤巻」と呼ばれる、目にも鮮やかなオレンジ色に着色された皮で巻いたかまぼこがおでんに入る。
練り物では、さつま揚げにも地域性がある。東京など東日本では楕円形が一般的だが、九州はじめ西日本では正円に近い丸天が一般的だ。また、青森おでんに欠かせない大角天は、薄く長方形のさつま揚げだ。また、静岡では、ラーメンなどに薄く切ってのせるなるとがまるまる1本、あるいは、半分に切っておでんに入っていたりする。
関東煮と呼ばれる大阪風のおでんで特徴的なおでんだねはクジラだ。さえずりというのはクジラの舌、タンだ。コロは、クジラの皮の下の脂肪を鯨油で揚げたもの。揚げて水分を飛ばしているため、おでんにするとしっかりとだしを吸ってくれる。
魚のすり身のイメージが強いおでんだが、豚肉をよく食べる沖縄では、おでんにてびち、つまり豚足が入る。ソーセージを入れるのも一般的だ。おでんにも、豚肉食の文化がはっきりと映されている。
野菜類も各地各様だ。東京では大根くらいしか野菜は入れないが、西日本では青菜類をおでんに入れる。福岡・久留米の屋台では、春菊をさっとおでんだしにくぐらせて食べていた。また、青森ではタケノコを、宮城では根曲がりだけをおでんに入れる。
郷土料理、ご当地グルメ感が薄いおでんだが、実は、各地それぞれに特徴がある。冬の鍋が恋しい季節なら、旅先でぜひご当地おでんを味わってほしい。