味噌カツや手羽先、あんかけスパゲッティ…。一般に「なごやめし」と呼ばれる、名古屋地区ならではの味の数々だ。そんな「なごやめし」の代表格の一つに数えられるのが台湾ラーメンだ。ゆでた中華麺の上に炒めたひき肉とニラがどっさりのり、しょうゆベースの鶏ガラスープにたっぷりトウガラシを加えたものがかかる。その発祥は、名古屋を代表する中華料理店「味仙」と言われ、多量のニンニクを入れるのも特徴だ。
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とにかく辛い。まさに激辛だ。麺料理なのだが、油断して麺をすすると確実に辛さで咽せ、咳が止まらなくなる。とはいえただ辛いだけではない。スープのうまみ、そしてニラなど具の味わいが、細いストレート麺に非常によく合う。
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30年ほど前、「味仙」店主が台湾で小皿に盛って食べる「台仔(タンツー)麺」を、激辛にアレンジしたのがそのルーツだという。店主の故郷・台湾にちなんで、それを台湾ラーメンと命名した。なので、この激辛の味は、台湾には存在しない。あくまで名古屋発祥だ。
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これが折からの激辛ブームに乗り、名古屋には「味仙」に限らず、多くの店が台湾ラーメンを名乗る激辛麺をメニューにのせるようになった。その結果、台湾ラーメンは、「味仙」オリジナルのメニューにもかかわらず、「なごやめし」の一角を占める、いわば名古屋のご当地ラーメンとまで呼ばれるようになった。
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味のポイントは、トウガラシとニンニクだ。「味仙」では、台湾ラーメンに限らず、多くの料理にこのふたつが使われている。一般の中華料理店では、酢豚というと豚肉の唐揚げを根菜などとともに、ちょっと甘めのあんで絡めたものだが、「味仙」では豚肉の唐揚げをシンプルにトウガラシとニンニクを加えたあんで絡めてある。
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ラーメンと並ぶ中華のシメの代表的なメニュー、チャーハンも、「味仙」ではニンニクを効かせて、ピリ辛に仕上げてある。また、これまた「なごやめし」の代表格・手羽先も、「味仙」がいち早くメニューに取り入れたことで知られる。手羽先の唐揚げは「風来坊」で誕生したと言われているが、「味仙」では、手羽先もトウガラシとニンニクで味付けした。ぴりりとした辛さには酒が進む。「味仙」と言えば、トウガラシ&ニンニクというイメージが強い。
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そして近年、同じく愛知県を発祥とするベトコンラーメンとやはり愛知県で生まれ、岐阜で人気を博した岐阜タンメンの注目度も高まっている。興味深いのは、岐阜タンメンもベトコンラーメンも、ニンニクとトウガラシの味を特徴としていることだ。中京圏のみなさんは、どうやらこのふたつの味に目がないらしい。
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ベトコンラーメンは、1969年に愛知県一宮市で開店した「新京」で誕生した。店主は元々満州国時代の新京(現在の長春)生まれ。体調不良の際のスタミナメニューとして食べたニンニクとトウガラシの入ったラーメンに、新京時代の懐かしい味を思い出したという。これを多くの人に食べてもらい、元気になってもらいたいとメニュー化したのがベトコンラーメンだ。ちなみに正式名称は、食べた人にベストコンディションになってほしいという意味で「ベストコンディションラーメン」。これが、常連たちから「ベトコンラーメン」と略して呼ばれるようになった。
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名古屋駅近くの「新京 名駅西口店」で、このベトコンラーメンを食べてみた。台湾ラーメンとは違い、一見、赤みは目立たず。そんなに辛そうには見えない。スープをひとくちすすると、やはり台湾ラーメンのような「一撃」はなかった。
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そこで、テーブルにあった激辛生ニンニクを足そうと手を伸ばしたところで、急にガツンと来た。激辛料理によくある、一瞬のインターバルを置いて来る辛さだ。次第に咽せるまでに辛さを感じるようになる。
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具はニラともやしで、ある意味台湾ラーメンに近いものがある。そしてごろごろとニンニクが丸のまま野菜に紛れている。かつて東京・銀座に「ベトナムラーメン」と呼ばれる生ニンニクのしょうゆ漬けをのせたラーメンがあった。一瞬、類似性を意識したが、ベトコンラーメンは、加熱されたニンニクだった。やはり「ベトナム」ではなく「ベトコン」ラーメンなのだ。
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一方、岐阜タンメンは、愛知県稲沢市の屋台「タンメン専門店 板谷」で誕生。当時はまだ東海地方にタンメンを食べる文化が希薄で、岐阜市に空き店舗が見つかったこともあり、「元祖タンタンメン屋」としてリニューアル、移転後人気店へと成長した。そこで屋号も「岐阜の人に感謝タンメン」略して「岐阜タンメン」と改めた。現在岐阜県内に8店、愛知県内に13店、松本市に1店舗を構える。
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タンメンを名乗るものの、関東地方の野菜たっぷりの清湯タンメンとは趣が異なる。野菜は控えめ。豚肉、白菜、キャベツ、ニンニクから旨みを抽出し、白濁してちょっと脂ギッシュな塩だしのスープと合わせたシンプルな、オリジナルのタンメンだ。通常はここに「辛いタレ」をトッピングする。辛さなしから5辛の範囲内で、好みで辛さを指定する。有料で、後から追加することや死ぬほど辛いという「デス辛」にすることもできる。
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今回は4辛で食べてみた。「辛いタレ」を少しずつスープに溶かしながら食べ進む。しかし、4辛では台湾ラーメンやベトコンラーメンほどの辛さには至らなかった。また、ニンニクのうまみを強調するものの、食べてみるとニンニクのパンチのある味わいや独特の匂いはそれほど強くはなかった。トッピングで、ニンニクを追加したほどだ。全体的にはややあっさりとした味わいだ。
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興味深いのはテーブルに置かれた酢もやし。好みで入れて食べるのだが、ちょっと脂ギッシュなスープにさっぱりとした酢もやしがとても良く合う。たっぷりと入れて食べると美味しさが増す。さらに、タンメンといいながら、博多ラーメンのように替え玉が注文できる点も興味深い。福岡県の老舗製麺所で打ったという低加水の平打ち細麺だけに、博多流の食べ方が取り入れられたのだろうか。
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いずれも東京ではなかなか本場の味に出合えない、台湾ラーメン、ベトコンラーメン、岐阜タンメンだが、現地へ行った際にはぜひ食べてみたい味ばかりだ。「味仙」はもちろん、「新京」「岐阜タンメン」ともに、名古屋中心部にもお店がある。訪れた際には、ぜひチャレンジしてみてほしい。