いい大人になってもなお、たまにお子様ランチが食べたくなるのは私だけだろうか。ケチャップライスにハンバーグ、ナポリタン…。好きな食べものが一緒盛りになったスタイルは、特に洋食屋に入って「あれも食べたいこれも食べたい」となかなかメニューが決まらないときに「いっそ一緒盛りにしてくれないかなぁ」などと思ったりしてしまう。実は、特に地方都市には、そんな「大人のお子様ランチ」的な、複数のメニューを一緒盛りにした「ご当地洋食」がいくつかあるのをご存じだろうか。
例えば金沢市では、ケチャップ味のバターライスの上に、半熟の薄焼き卵と白身魚のフライを乗せ、ケチャップやタルタルソースをかけたハントンライス、福井県の武生には、オムライスの上にカツをのせソースをかけたボルガライスがある。そんなご当地洋食の中でも特に広く知られているのが、長崎のトルコライスではないだろうか。
トルコライスは、長崎市内で広く食べられている洋食メニューだ。ピラフとスパゲッティ、とんかつが一緒盛りになっているのが基本形。ピラフはドライカレーだったり、チャーハンだったり、バリエーションがある。また、スパゲッティもナポリタンが多いが、ミートソースやホワイトソースもある。とんかつも、エビフライだったりすることもある。
名前の由来は諸説あり、これといった定説はない。ちなみにトルコはイスラム教徒が多く、したがって豚肉は好まれない。その意味でも、国としてのトルコとは縁がないというのが、一般的だ。
命名の由来が不明なことからも分かるように、実は長崎のトルコライスがどのようにして誕生したのか、その経緯も定かではない。なので、元祖店もよく分からない。そんな中で、長崎でトルコライスを食べるなら「ぜひここで」という店がある。市内の老舗喫茶店「ツル茶ん」だ。
「ツル茶ん」のオープンは1925(大正14)年。長崎県はもちろん、九州で最も歴史のある喫茶店と言われている。ちなみに、トルコライスと並ぶ長崎のご当地グルメ・元祖長崎風ミルクセーキ、通称食べるミルクセーキは「ツル茶ん」が発祥だ。牛乳に卵やバニラエッセンスを加えるレシピは一般のミルクセーキと同じだが、かき氷を加えて、まさに食べるスタイルになっている。
老舗喫茶店だけあって、トルコライスは人気メニューだ。しかもバリエーションが豊富。一般的にトルコライスと認識されているピラフ、ナポリタン、とんかつの組み合わせは昔なつかしトルコライスというメニュー名になっている。ピラフを基本に、チキンかつ、チキンフリカッセがけパスタと組み合わせたチキントルコ、有頭エビのフライとシーフードクリームソースのパスタを組み合わせたシーフードトルコ、さらにはとんかつの代わりにイスラム教徒も食べられるラムを使った真正トルコライスなるメニューまで、とにかく様々なトルコライスが用意されている。
今回食べたのは、昔なつかしトルコライスとシーフードトルコ。どちらもピラフは、シンプルなバターライスだった。喫茶店のピラフというと、ケチャップ味のチキンライスを想像しがちだが、よく考えると、ナポリタンとケチャップ味がダブってしまう。その意味では、よりシンプルなバターライスの方が、味のバリエーションを楽しみやすいと感じた。
西日本では、ビーフカツもよく食べられるが、トルコライスはやはりとんかつだ。とんかつソースではなく、デミグラスソースなのが洋食店ならではだ。
ナポリタンは、よく炒められたタマネギがスパゲッティに絶妙に絡みつく。それをやはり火の通ったケチャップが包み込む。典型的な「喫茶店のナポリタン」だ。
シーフードトルコは、とんかつの代わりに見た目も豪華な有頭エビフライがのる。シーフード系のフライというとタルタルソースがよくあうが、パスタソースと兼ねた、シーフード入りのホワイトソースがかかっている。赤茶色の昔なつかしトルコライスと全面白いシーフードトルコが絶妙のコントラストだ。
「ツル茶ん」は前述の通り、トルコライスに加え元祖長崎風ミルクセーキもある人気店。しかも多くの客がトルコライスの後にミルクセーキを注文するので、ランチタイムには行列ができがちだ。混雑時を避けて入店するといいだろう。
残念ながら2017年末で閉店してしまったが、長崎市電の車両をそのまま店先に設置した「きっちんせいじ」もトルコライスの人気店だった。念のため、紹介しておこう。
「きっちんせいじ」のトルコライスは、かつもピラフもナポリタンもいずれもボリューム満点だった。サラダもワンプレートで盛り付ける点は「ツル茶ん」同様だ。自家製のマヨネーズがテーブルに置かれていて、それをサラダに付けて食べた。ちなみに、ピラフはカレーピラフだった。
ご当地ワンプレート洋食の中でも比較的知名度の高いトルコライスは、東京でも提供店が複数ある。秋葉原のガード下「CHABARA」内にある「長崎トルコライス食堂」では、定番のとんかつ+ピラフ+ナポリタンだけでなく、ハンバーグやカレー、アジフライなど様々に組み合わせてトルコライスを食べることができる。今回は、スタンダードなトルコライスに長崎名物、エビのすり身をパンで挟んだハトシと揚げかまぼこを追加でトッピングした。ちなみにピラフはカレーピラフだった。
お子様ランチの基本は「好きなもの、いくつか一緒盛り」。それはトルコライスも同様だ。その意味でルールはない。とんかつでもシーフードでもピラフでもカレーでも、食べたいものを好きなように組み合わせて食べるのがおすすめだ。