小腹を満たす郷土食「秩父の小昼飯」

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「腹が減っては戦はできぬ」というが、建築現場や農作業では、10時と3時など、作業の間にしっかりと休憩を取り、その際に軽い食事で栄養補給するケースは多い。埼玉県秩父市では、そうした農作業などの合間に食べる郷土料理を「小昼飯(こじゅうはん)」と呼び、地元ならではの食文化として発掘・継承する取り組みを行っている。

秩父に限らずうどんなど小麦は埼玉のソウルフード

秩父商工会議所が、「ちちぶの和点心 小昼飯」として認定しているのは、ずりあげ、おっきりこみ、たらし焼き、つみっこ、ねじ(あずきすくい)、炭酸まんじゅう、そばまんじゅう、つとっこ、手打ちそば、みそポテト、みそおでん、中津川いも田楽、えびし(ゆべし)の13種の料理だ。

ずりあげは小麦食の代表格

この中で目立つのは、やはり小麦を使った料理の数々。埼玉県は、香川県に次ぎ、日本で2番目にうどんをよく食べる県としても知られる。米の裏作で麦を作るため、庶民は麦を、麺をよく食べた。その代表格と言えるのがうどんだ。以前、冷たく締めたうどんを、熱々の具だくさんのつけ汁に浸して食べるのが埼玉県民のソウルフードと紹介した。

ゆであげうどんをずりあげる

ずりあげは、香川県で言えば釜揚げうどんのような食べ方だ。ゆであげ熱々のうどんを湯を切らずにそのまま盛り付ける。つけ汁はなく、椀に生じょうゆやだしじょうゆを注ぎ、それをうどんのゆで汁を加えて濃度を調整する。そこにゆであげのうどんを「ずりあげ」て浸して食べる。実にシンプルなうどんの食べ方だ。

卵やごま油、マヨネーズが加わると禁断の味に

西武秩父線芦ヶ久保駅前にある「道の駅果樹公園あしがくぼ」で食べてみた。テーブルにはだしじょうゆの他にごま油、すりごま、かつおぶし、七味とうがらし、さらにはマヨネーズまで用意され、これを好みで加えて食べるのだ。しょうゆにごま油やマヨネーズといった油が加わると、なんともジャンクで中毒性の高い味になる。「下品」と言われる方もいるかもしれないが、後を引く味だ。

「秩父食堂」のおっきりこみ

おっきりこみは、群馬県のものを以前紹介した。基本的には肉類は使わず、根菜類中心に煮込んでしょうゆで味付ける点は、群馬県のものとほぼ同じだ。秩父地方は埼玉県内でも山深く寒さの厳しいところ。体が暖めるようにして食べるうどんだ。国道140号線沿いの「道の駅ちちぶ」内にある「秩父食堂」で食べられた。

たらし焼き ソースを塗って二つ折りに

たらし焼きは小麦粉を水で溶いて鉄板で焼いたもの。いわゆる粉もんだ。ただし、西日本のお好み焼きのように、あれこれ具材は入らない。しその葉やネギなどを散らして薄く焼いたものだ。焼き上がったものにしょうゆやソースなどを塗って食べる。同じ埼玉県内行田市のご当地グルメであるフライとほぼ同じ感覚だ。おっきりこみもそうだが、手に入る食材や気候風土が似通っているため、近隣のまちと共通している食文化も多い。写真は、ずりあげと同じく「道の駅果樹公園あしがくぼ」で販売されていたもの。紙袋に包まれて売られていた。

秩父鉄道秩父駅内「茶房レストラン春夏秋冬」のつみっこ

つみっこは、「とっちゃなげ」や「すいとん」とも呼ばれている。小麦粉を水で溶いてだんごにし、鍋に入れて煮込んで作る。秩父郡に隣接する本庄市のご当地グルメとしても広く知られている。秩父鉄道の秩父駅内ある「茶房レストラン春夏秋冬」で食べられる。しょうゆ味ながら煮込んだすいとんから溶け出した小麦粉で、汁は味噌味のようにちょっと濁って見える。この汁がなんとも味わい深い。やけどしそうなほど熱々の汁だが、残さず飲み干してしまった。海から遠い内陸の埼玉県では、夏の暑さも厳しいが、冬の寒さもまたひとしおだ。川島町のすったてに代表される冷たい汁で食べるうどんとこうした鍋物にして食べるうどんがほぼ同じ地域で並立しているところに、埼玉ならではの気候風土が感じられる。

あんとからめたねじ

ねじは、秩父のスイーツだ。太くて平たいうどん麺にあんをからめたもの。汁気の多い、いわゆるお汁粉風になるとあずきすくい、あるいは小豆ぼうとうなどとも呼ばれる。麦を食べる地域ではよく見かけるパターンで、東北の南部地方では、板状の麺・はっとを小豆とからめたあずきばっとがある。写真は、秩父の中心市街地の人気そば店「手打ちそば武蔵屋」で食べたもの。

ふっくら炭酸まんじゅう

炭酸まんじゅうは小麦粉を使ってつくるまんじゅう。重曹を使うことがその名の由来。重曹を加えて蒸すことで皮が膨張し、ふかふかになる。調理に時間がかからないため、田植えなどの繁忙期などによく食べられていた。写真は、秩父の中心市街地から荒川を越え、けっこう山を登った場所にある「あらやしきまんじゅう」のもの。地元では、人気の甘味店だ。

ほんのりそばが香るそばまんじゅう

そばまんじゅうは、小麦粉にそば粉を加えた蒸しまんじゅう。炭酸まんじゅうと同様にベーキングパウダーなど膨張剤を使うため、ふっくらとした仕上がりになる。秋にそばがとれることから、冬定番の小昼飯だ。写真は「手打ちそば武蔵屋」のもの。

今ではそばは1年を通して手に入るようになったが、秩父の小昼飯の中でも、とりわけ季節性が高いのがつとっこだ。葉でくるんで蒸す、秩父仕様の「ちまき」なのだが、栃の葉を使うため、新緑の季節限定の小昼飯となる。もち米とうるち米を混ぜたものにゆでた小豆を加え、栃の葉で包み、わらで縛ってから蒸して調理する。秩父地方の中でも、特に山深い地域で、山仕事や野良仕事の弁当、あるいは子供のおやつとして食べられてきた。希少さもあってか、残念ながら食べることはできなかった。秩父の商工会議所に問い合わせたところ、「ゆの宿和どう」で、事前に予約すれば宿泊時の食事として食べることができるという。

手打ちそば 抜群の歯ごたえ

秩父に限らず、山深く、水田に適した平地が乏しい地域でよく食べられているのが手打ちそばだ。秩父には正月三が日の朝にそばを食べる習慣がある。そばどころだけに秩父にはそば店が多いが、写真は「手打ちそば武蔵屋」のせいろそば。しっかりとした歯ごたえのそばで、さすがそばどころと思わせる味だった。

秩父を代表する味みそポテト

みそポテトは、小昼飯というより、秩父のご当地グルメとして結構知名度の高い存在だ。中心市街地はもちろん、西武秩父のエキナカなどで、盛んに秩父の名物グルメとして扱われている。ゆでたジャガイモを水で溶いた小麦粉をつけて揚げ、甘い味噌だれをかけたもの。北関東では、群馬のジャガイモ入り焼きそばや栃木のいもフライなど、ジャガイモが好んで食べられている。

こんにゃくのみそおでん

秩父から県境を越えた群馬県は、全国有数のこんにゃくの生産地。冬になると、どこの農家でもこんにゃくづくりに精を出す。そんな群馬県と県境を接し、今は町村合併で小鹿野町の一部になっている両神村はこんにゃくの里として有名だ。そんなこんにゃくを、みそポテトなどからわかるように、秩父の人たちが好むみそで味付けしたのが、みそおでん。写真は、「手打ちそば武蔵屋」で食べたものだ。

こんがり焼けた中津川いも田楽

中津川いも田楽は、奥秩父旧大滝村の名物料理。中津川いもはジャガイモによく似た食感、味わいだが、中津川特有の品種とのこと。小ぶりでいもの皮がやわらかく、皮ごと食べられるのが特徴だ。写真は、三峯神社境内にある「三峰お犬茶屋山麓亭」で食べたもの。店先で炭火で焼かれている。

上野原のせいだのたまじ

旧大滝村は秩父市内とはいえ、中心市街地とはなかり離れ、山梨県や東京都の奥多摩と境を接する。奥多摩を越えた山梨県上野原市の山中には、やはり小芋を味噌で味付けして食べるせいだのたまじがある。山深い地域特有の食文化なのだろう。

くるめたっぷりのえべし

最後はえべし。一般にはゆべしと呼ばれるものだ。今でこそ甘味のイメージが強いが、そもそも戦国時代に保存食として食べられていたもの。くるみなど、山中でも手に入る栄養価の高い食材を取り入れた点に、その来し方がうかがえる。山深い、秩父らしい小昼飯といえる。

素朴な味が魅力のつみっこ

ずりあげうどんやつみっこが典型だが、シンプルで素朴な食材を味わい深く食べさせるのが、秩父の小昼飯の共通点だ。高級食材を使ったごちそうもいいが、こうした素朴ながら滋味深い味わいこそ日本の食文化の魅力ではないだろうか。

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