夏の風物詩「スーちゃん」の揖保乃糸 播州手延べそうめん

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いよいよ夏が近づいてきた。スイカ、かき氷、冷やし中華…、夏の味が恋しくなる。そんな気温の上昇とともにおいしさが増す食べもののひとつにそうめんがある。元々は西日本で生産されることが多かったが、くせのないその味は全国で広く受け入れられ、今では東北から九州まで、広く全国で生産が行われている。富山県の大門そうめん、奈良県の三輪そうめん、徳島県の半田そうめんなど、全国的知名度を誇るそうめんも多い。そんな中でも、特に広く知られているのが、兵庫県西部、播州地方でつくられる播州そうめんではないだろうか。

氷を浮かべて涼しげに

播州そうめんは、揖保乃糸のブランドで知られる。県内のたつの市、揖保郡太子町、宍粟市、佐用郡佐用町、姫路市で生産されるそうめんで、兵庫県手延素麺協同組合が商標を保有し、各業者の生産する手延べそうめんを厳格に管理し、集約して販売している。つまり揖保乃糸は、個別業者の「商品名」ではなく、組合に加盟する多くの生産者が手がけるそうめんの総称だ。

たつの市にあるそうめんの里

夏になると放映される、元キャンディーズのスーちゃんこと田中好子さんの出演するテレビCMを覚えている方も多いだろう。1992年から、スーちゃんが亡くなる2011年まで、約20年にわたって放映され続けてきた。そんな揖保乃糸の魅力を探りに、たつの市にある揖保乃糸資料館そうめんの里を訪ねた。

そうめんの里のすぐ近くには素麺神社もある

そうめんの里は、JR姫新線東觜崎(はしさき)駅から15分ほど、のどかな田園風景の中を歩いた先にある。そうめん工場に隣接し、2階の展示室では、そうめんの歴史やその製法を学ぶことができるとともに、ガラス越しにそうめんをパッケージして出荷するまでの工程も見学できる。さらに1階のレストランでは、様々なそうめんを使った料理を味わうとともに、売店でおみやげを買って帰ることもできる。さらに、懐かしいスーちゃんのCM映像まで視聴できる。

すだちをたっぷり入れて、より涼やかに

そうめんは、菓子「索餅(さくべい)」として、1200年前に遣唐使によって伝えられたとされる。当時は、宮中のおもてなしの料理として食べられていた。その後、今から800年ほど前、中国では索餅を伸ばして麺状にした「索麺(さくめん)」が誕生、間食として食べる習慣が広がり、これが日本にも伝わる。この「さくめん」が「そうめん」の語源になったとされる。

館内に展示されていた索餅(中央)の模型

小麦粉に食塩水を加え、よくこねて生地をつくる。これをていねいに伸ばしながら、1本のそうめんに仕上げる。しかし、生地を一気に細く延ばそうとすると当然切れてしまう。そこで、ねじってよりを掛けながら、無理のない範囲で伸ばし、しばらく寝かせて熟成させてはまた引き延ばす、を何度か繰り返すことで、最終的にあの細さにする。さらに、乾麺として完成し、木箱に収めた後も、倉庫でさらに熟成させる。揖保乃糸では、生地からそうめんになるまで、実に11工程を要するという。その結果、小麦粉に含まれるグルテンが縄状に、丸いでんぷんを包み込むようになり、茹でても伸びしにくく、滑らかな舌触りで、コシのある食感になる。

そうめんを揚げて中華風のあんかけに

しかも、揖保乃糸の生産は例年、10月から4月(最盛期は12月から2月)にかけた、限られた時期にしか行われない。約600年前から続く、この伝統的な手延べ製法だからこそ、揖保乃糸ならではのおいしさが実現できるのだという。

ナスなど夏野菜との相性は抜群

そんな手間暇かけてつくられた揖保乃糸には、小麦粉の質や原材料、めんの細さ、製造時期などの違いによって、いくつかの等級があるのをご存じだろうか。見分ける秘訣は、そうめんを結束する帯の色にある。

帯の色で等級の違いが分かる

黒帯の「三神(さんしん)」は、上質の小麦粉を使い、組合が選抜指定した数軒の熟練者だけがつくる最高級品。製造量は極めて少ない。麺の太さは0.55~0.60ミリ。同じく黒帯の「特級」は、上質の小麦粉を、組合が選抜指定した熟練者が製造する。麺の太さは0.65~0.70ミリ。紫帯の「縒(より)つむぎ」は、国内産小麦だけを使用。ゆがいた後の麺のつやが良く、もちもちとした食感、小麦本来の風味が味わえる。麺の太さは0.70~0.80ミリ。緑帯の「播州小麦」は、地元産の、粘りが持ち味の「ふくほのか」と弾力性のある「ゆめちから」をブレンドした小麦を原料に使う。麺の太さは0.90~1.10ミリ。

金帯の「熟成麺」は、厚生労働省認定の国家資格「製麺技能士」を持った製造者がつくる。製造後1年間、組合の専用倉庫でゆっくりと熟成させる。麺の太さは0.70~0.90ミリ。赤帯の「上級」は、伝統製法でつくられたそうめんで、全生産量のおよそ80%を占める、最もポピュラーな揖保乃糸。麺の太さは0.70~0.90ミリ。そして赤紫の帯の「太づくり」は、原料に北海道産の「きたほなみ」を使用。少し太くすることで、心地よい歯切れを実現した。麺の太さは1.10~1.50ミリ。いずれも1階の売店で購入できるので、食べ比べてみるのもいいだろう。

「レストラン庵」の鯛そうめん

最後は館内にある「レストラン庵」で、本場のそうめん料理を味わおう。冷たいそうめんや、温かい汁で食べるにゅうめんなど多くのメニューを取りそろえる。この日は、同店の名物メニューの鯛そうめんをいただいた。

館内に展示されていた鯛そうめんの模型

鯛そうめんは、地元では昔から慶事に欠かせない料理なのだとか。尾頭付きの焼き鯛に、だしに浸したそうめんを様々な具材とともに盛り付けるもの。鯛を一匹丸ごと使うことで、見た目のめでたさを演出するものだ。同店では、そうした伝統料理をモチーフに、そうめんに鯛のかぶと煮を添えた。温かいにゅうめんも選べるが、今回はひんやり冷たいそうめんを選択した。

かぶと煮で鯛そうめんを再現

かつては東京にも直営店があったが、現在はここ「レストラン庵」が組合唯一の直営店という。ここを訪れれば、揖保乃糸がいかに手間暇掛けてつくられ、それがどうおいしさに結びついているかを知ることができる。姫新線はローカル線で、あまり列車の本数も多くない。クルマなら、姫路や相生から30分ほどかかる。決して足の良い場所ではないが、近くに行く機会があったらぜひ一度足を運んでみてほしい。

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