酢じょうゆとからしで「とり天」

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総務省統計局が発表した2020~22年平均の品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市のランキングによれば、大分市の1世帯当たりの鶏肉の消費量は、年間で21.9キロと全国平均の18.4キロを大きく上回り、全国でも6位の消費量を誇る。そう、大分の人は鶏肉が大好きなのだ。

鶏めし

大分県では、鶏肉を使ったまぜごはん「鶏めし」や鶏のだしを生かした「鶏汁」といった多くの鶏肉料理が伝統的に愛されている。近年では、宇佐や中津のからあげと並び、鶏肉を天ぷら粉で揚げたとり天も、沿岸部に限らず大分全県で愛されている。

とり天発祥の店「東洋軒」

とり天は、鶏のモモ肉の皮をはぎ、平らにそぎ切りにし、しょうゆとニンニク、ごま油で味付けし、卵と小麦粉、片栗粉の入った衣を付けて160~170℃の油で3~4分揚げたもの。昭和初期に、別府市にある中華料理レストラン「東洋軒」で「鶏ノカマボコノ天麩羅」として誕生した。これを「東洋軒」の創業者、宮本四朗氏が和風にアレンジして、晴れてとり天が完成した。

「東洋軒」のとり天

ブロイラー誕生以前、鶏肉は贅沢品だった。肉の硬い地鶏が多く、平らにそぎ切りにすることで歯触りを優しくした。からあげげより早く揚がり、サクサクと柔らかい「鶏ノカマボコノ天麩羅」は、評判を呼び、「東洋軒」以外の店にも広がっていき、家庭でも食べられるようになった。高価な鶏肉だけに、家庭では衣をたっぷりつけた「衣かさ増し」のとり天が広がっていく。

大分全県で愛されるとり天

大分市では、2015年にとり天の魅力を全国に発信するため、とり天PRソング「好きっちゃ!とり天」をつくり、そのミュージックビデオも配信するなど、魅力の発信に努める。大分市役所のホームページ内にある「大分の郷土料理を食べよう!!」でも、とり天が堂々の最上位を務める。

夕食どきの「東洋軒」

実際に発祥店の「東洋軒」を訪れ、自慢のとり天を食べてみよう。向かったのは週末の午後6時。さすがは人気店だけあって、店頭は空き席待ちの客たちでごった返していた。店頭の紙に名前を書いて待つのだが、目の前のサインボードには「60分待ち」の表示が掲げられていた。

「東洋軒」の本家とり天定食

1時間ちょっと待って、ようやく店内へ。注文はもちろん、自慢のとり天。定食で注文した。サラダとスープ、そしてお新香が付く。まずは何もつけずにそのままいただく。そのままでもじゅうぶん美味しい。

かぼすをぎゅっと絞って

続いて大分といえばのかぼすをぎゅっと絞って。柑橘の香りが、揚げ物を爽やかにしてくれる。酒の供なら、かぼすとの組み合わせがベストだろう。

酢じょうゆとからしで

最も一般的な食べ方は、酢じょうゆとからし。かぼすにしろ酢じょうゆにしろ、揚げ物をさっぱりといただくという意味で、酸味はとり天に良く合う。そして、白いご飯にぴったりだ。写真を見れば分かるとおり「東洋軒」のとり天はボリューム満点だが、白いご飯と一緒に掻き込むといくらでも食べられてしまうから不思議だ。

しっかり辛い「東洋軒」の麻婆豆腐

和食のイメージがあるとり天だが、「東洋軒」はそもそも中華料理店。ニラ豚で知られる大分市内の中華料理店「王府」でもとり天は人気メニューの一つだ。せっかくなので、中華料理の味も確かめておこう。とり天と合わせるなら、麻婆豆腐&とり天のセットメニューがおすすめだ。

定食のスープも中華風

辛さが選べるので辛口を注文したが、かなり本格的に辛い麻婆豆腐だった。この辛さがまた白いご飯を誘う。セットのとり天の裏にはチャーシューも潜んでいる。定食のスープも中華風の卵スープで、とり天が中華料理に源流を持つことを改めて認識できた。

佐伯「味愉嬉食堂」のとり天

しかし、とり天活躍の場は中華料理店だけではない。居酒屋など、大分県内では様々なジャンルの外食店でとり天が提供されている。実は前回紹介した、佐伯の「味愉嬉食堂」でもとり天をいただいた。とり天に添えられていたのは、そうハリッサだ。佐伯ごまだしにベストマッチだったハリッサが、とり天も美味しくしてくれる。

とり天にもハリッサ

薄くそぎ切りにすることで、からあげに比べ揚げ時間が短く、手軽に調理できる点が、家庭をはじめ幅広いジャンルのお店にとり天が広がった背景にあるという。東京などでも、とり天をメニューに加えるお店も増えてきた。つい最近、大手外食チェーンのメニューにも登場した。とはいえ、本場・大分は提供店も多く、それだけ切磋琢磨が進んでいる。大分を訪れた際には、ぜひ本場の味を確かめてほしい。

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