日本人はまぐろが大好き。毎年、正月の初セリではビックリするような高値で取引される。山梨県では、海なし県なのに、まぐろの消費量が突出していたりもする。好んで食べるのは主に刺し身で、お造り、あるいはにぎり寿司で食べるのが定番だ。
![まぐろの解体ショー](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/5c52abad811640e25a58d069b1ed61db.jpg)
しかし、まぐろの水揚げ港ともなると、新鮮な刺し身はもちろんだが、頭や骨、内臓など、普段はあまり食べない部位も豊富にある。当然、そうした食材を使った地元ならではのまぐろ料理が食べられる。
一方で、まぐろの寿司と並ぶくらい、日本人はラーメンが大好きだ。となれば、まぐろの水揚げ港に、まぐろのラーメンがあってもおかしくないはずだ。ところが、実はまぐろ、加熱をすると臭みが出やすい。焼いたり煮たりして食べるには、それなりの加工が必要になる。
![串木野のまぐろラーメン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/edc3c3d355c0cab9aae471a0df2dc08c.jpg)
鹿児島県串木野のまぐろラーメンは、まぐろの頭でだしをとったスープを使い、具にまぐろの切り身をトッピングする。だし用に手を加えた頭はともかく、熱いスープの上に生のまぐろをのせると、スープの熱でまぐろが加熱され、特有の生臭さが出てしまう。そこで、ラーメンにのせるのは、刺し身ではなく漬け、しょうゆ漬けのまぐろだ。各地各様、臭み消しに工夫を凝らす。
![三崎はまぐろのまち](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/48fd98710ffa256cd52d564f1c5b1854.jpg)
神奈川県の三崎も、まぐろのまちだ。肉体労働者が多い港町・三崎では、古くから漁師たちに油を使う中華料理が愛されてきた。ただし、本格中華というより、気軽に食べられるラーメン屋のような業態だ。身近な食材・まぐろを使ったメニューが中華料理にも取り入れられる。その代表格がラーメンだ。
実はまぐろラーメン、一度は三崎から消えてしまっていた。料理人がそれぞれ独自のレシピでまぐろラーメンを調理していたため、時代とともに、料理人が亡くなったり、閉店したりが続き、いつしか提供店がなくなってしまっていた。
![夜の三崎港](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/a10c7138b2b062b30346996e621e0823.jpg)
そんなまぐろラーメンが復活したのは2007年。有志が地元ならではの食べ物で地域を活性化しようと検討を重ねる中、「幻のご当地グルメ」に注目が集まる。中華に限らず、和食の店主などもレシピづくりに参加し、新たなまぐろラーメンを作り上げ、まちおこし団体「三崎まぐろラーメンズ」の共通メニューとして完成させた。
![三崎の人気店「港楽亭」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/feee485be6e1d55f793a3c5cac6d951d.jpg)
復活したまぐろラーメンの調理法を、地元の人気店「港楽亭」で教えていただいた。
まぐろに限らず、魚を出しに使う場合は、焼いたり煮たり干したり、あるいはかつおぶしのように薫製にしたり、発酵させたりすることが多い。うまみを引き出すとともに、魚特有の生臭さが出ることを避けるためだ。
![まぐろの頭の骨でだしをとる](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/7494f59f2c1e32448360275d06a08f3d.jpg)
三崎まぐろラーメンは、皮や肉をそいだまぐろの頭をバーナーであぶって香ばしさを高めて、出しをとる。これに各店それぞれ、店の味のベースになる鶏ガラや豚ガラでとったスープと合わせ、まぐろラーメンの出しにする。
串木野と違い、具にはまぐろの中華あんがのる。これも、生臭さ対策から誕生した。
![あんに使うのはまぐろの尾の身](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/c262efffdbb0dc012c0845a3d88e0bd7.jpg)
あんに入れるのは尾の身。すじが多く刺し身などには適さないが、煮込むと柔らかく食べやすくなる。尾の部分を骨からそぎ取ってサイコロ大に刻んでいく。これを熱湯に入れ、加熱する。けっこうな量のあくが出るのでていねいに取っていく。
![下茹でして身が白くなったら水で洗う](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/801d15f01fc0b9d019b04fec0dd4a1e3.jpg)
表面が白くなったら取り出して水でよく洗う。すじのゼラチン質は煮込むと特においしくなる。
![ニンニクやショウガを入れて煮込む](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/ca58fc168b39fe837d60a68e048b529c.jpg)
まぐろあんの煮込みに使うのは、やはり店の中華スープ。味が濃くなる前に、事前に煮込み用に取り出しておいたものだ。一度沸騰させてあくを取り、ニンニクとショウガのすりおろしを入れて、塩コショウで味を調える。さらにあく取りをしてしょうゆや砂糖、オイスターソースなどを加える。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/93661213a7ed02eb41df722485449b01.jpg)
水で戻した干しシイタケのみじん切り、ネギとセロリをざっくりと刻んだものを加える。すでに湯通し済みなので、臭い消しというより香り付けだ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/e7a2ed8889be7b8b8d9022e900d0fb6c.jpg)
十分に煮込んだら、火を止めて1日寝かす。和食の「含め煮」の手法だ。中華出しとオイスターソースの組み合わせは、これぞ中華の味わいだ。
![「港楽亭」の三崎まぐろラーメン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/b6111730ba8896cd817154a6a10af552.jpg)
提供直前に、片栗粉を入れてとろみを付け。麺は県内の製麺所で打った細麺を使う。最後は水菜とネギをのせて完成だ。好みでまぐろラー油をかけて食べる。
港楽亭ではまぐろラーメンのほかにも、まぐろを使った中華メニューがある。
![幸楽ラーメン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/658417f2eb9dc916deeb1494acceb58a.jpg)
港楽ラーメンは、まぐろラーメンと同じスープを使い、具にはまぐろの身のさんが焼きがのる。さんが焼は、房総の郷土料理として知られる、味噌などとともに魚をたたきにした「なめろう」を焼いたもの。いわば、まぐろのハンバーグだ。残念ながら、現在はリニューアルのため、一時提供を休止中。
![鮪じゃんじゃん麺](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/2fd57ad394edc32238b79d6acb9343c1.jpg)
鮪じゃんじゃん麺は、まぐろ版の炸醤麺(ジャージャーメン)だ。ほんの少しまぐろラーメンのスープを張り、そこに水でしめた冷たい麺。その上に、中華風のまぐろそぼろ味噌がのっている。よくかき混ぜて食べる。やはりまぐろラー油をかけるとひと味変わる。
![港楽丼](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/a350207cbc40a106c9b31d4c7fdd60e6.jpg)
港楽丼は和中折衷のどんぶり飯だ。漬けまぐろをベースに、牛タタキ、キムチ、ニラ、カイワレダイコンなどをご飯にのせ、ピリ辛だれをかける。よく混ぜて食べる。和食の漬け丼にはない、味の深みが魅力だ。
![まぐろシューマイ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/8cd71be4fcd29932bd1f2d756a3656df.jpg)
まぐろラーメンや港楽丼にもう一品加えたいときは、まぐろシューマイがおすすめだ。マグロの肉を使ったシューマイだ。マグロのくせはまったくない。素直においしいシューマイだ。
![](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/09/f6067862d3e5178f6aba61eb15e16611.jpg)
お土産にはまぐろの角煮が人気。じっくり煮込まれ、味のしみたまぐろは、ちょっとした酒のつまみに最適だ。
三崎では、中華に限らず、和食からイタリアンまで、さまざまなまぐろ料理が食べられる。定番のすしや鉄火丼もいいが、まぐろ好きなら、ぜひ三崎ならではのまぐろ料理を堪能してほしい。