圧倒的ボリュームに「味変」で対抗 秋田チャンポン

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かつて、長崎で発祥したチャンポンが各地へと伝播していく過程で、その土地のくらしぶりや手に入る食材によって様々に変容していったことを紹介した。その中でも、九州から関門海峡を渡り、本州へと伝播していったチャンポンは特に変容度が大きかった。麺を煮込まず、ラーメンのように茹で上げた麺にあんをかける「あんかけラーメン」が「本州ご当地チャンポン」の定番だ。そんな本州ご当地チャンポンの中でもとりわけユニークな存在なのが、雪国・秋田のチャンポンだ。

一部「決壊」するほどのボリューム

秋田市内には、全国的知名度を誇る「チャイナタウン」をはじめ、いくつものチャンポンの人気店があるが、その共通点はまずボリューム感だ。特にあんのボリュームがすごい。とろみがかなり強く、それだけでもお腹いっぱいになりやすいのに、そのあんが丼からあふれんばかりに山盛りになっている。「チャイナタウン」に至っては「表面張力」で丼の縁から盛り上がっているほどだ。

たっぷりの野菜と海鮮

そしてたっぷりの野菜と海鮮。チャンポンなのだから、野菜と魚介がふんだんに入っているのは当然と言えば当然だが、これだけ粘りの強いあんだと、長崎チャンポンのイメージとはかなり違ってくる。第一印象は、チャンポンというより、海鮮が入ったあんかけやきそばの感覚だ。ゆでた中華麺に、あんかけ海鮮焼きそばのあんを丼いっぱいかけた、そんなイメージが分かりやすいだろう。

「チャイナタウン」の辣醤

そして辣醤(ラージャン)という、辛み調味料を使って味変しながら食べること。とにかくボリューム満点なので、さすがに途中で味に飽きてくる。そんな時こそ辣醤の出番だ。真っ赤なその色が物語るように、少量でもすごく辛い。入れる量を間違えると、その先食べ進めなくなるほどの辛さだ。ただでさえ、あんかけは体が温まりやすい。その上の辛みで、カラダがポカポカになる。夏なら汗でシャツがびっしょり濡れてしまうほどだ。その意味では、寒い秋田の冬にはぴったりのご当地チャンポンと言える。

1階が駐車場、2階が店舗の「チャイナタウン」

では実際に店を訪れて各店自慢のチャンポンを食べてみよう。まずは人気、知名度ともにナンバーワンの「チャイナタウン」から。秋田県の幹線道路、国道13号線に面し、周囲には郊外型の大型店が並ぶまちなかに位置する。敷地は狭く、1階が駐車場で、その真上が店舗になっている。

「チャイナタウン」のみそチャンポン

同店は、みそ、塩、しょうゆと3種類の味のチャンポンがあるのも特徴。その中でも特に人気が高いのはみそ味だ。そもそも九州では白濁の塩味スープが特徴のチャンポンだけに、しょうゆ味でさえ異色。みそは特にレアと言える。しかもとろみの強いあんかけだ。スープに沈まないゲソやエビ、タケノコなど具も大きめで、あんの中でもしっかりその存在感を主張している。もちろん、みその味が、どんな店のチャンポンとも違う「チャイナタウンの味」であることを声高に叫んでいる。

チャンポン麺にも似た太麺

麺はチャンポン麺にも似た太麺。ボリューム感満点だ。一般に太麺にはあんやスープはからみにくいとされているが、あんのとろみが強い分、しっかり麺にまとわりつく。

辣醤で味変

半分ほど食べ進んでから辣醤を入れるべしと記されたプレートがテーブルに置いてある。その通りにみそあんに真っ赤な辣醤を溶き入れる。一気に味の緊張感が高まり、舌がリフレッシュする。プレートには、塩はこしょう、しょうゆはこしょうと酢を、やはり半分ほど食べたところで投入すべしと書かれている。

お土産用の箱入りも

「チャイナタウン」のみそチャンポンには、お土産用の箱入りも用意されている。秋田県内の道の駅や東京の秋田県アンテナショップでも購入可能だ。どうしても秋田までは行けないという人でも、自宅でみそチャンポンを味わうことができる。

屋号より大きなあんかけチャンポンの看板

続いては、地元では「チャイナタウン」と並ぶ人気店という「五右ェ門」を訪ねた。店頭には屋号より大きな「あつあつとろ~り あんかけチャンポン」の看板が掲げられている。まさにあんかけチャンポンが「看板メニュー」だ。

「五右ェ門」のあんかけちゃんぽん(正油)

「五右ェ門」のあんかけチャンポンはしょうゆ味。とろみのついたしょうゆあんの中には、エビやゲソといった定番の海鮮の他にカキやホタテといった高級感のある海鮮も入っていた。特に濃厚なカキの味が、しょうゆ味のあんに負けない存在感を発揮していた。

太麺ではない

麺はごく一般的な中華麺。太麺ではない。「本州のチャンポン=あんかけラーメン」のご当地チャンポンの法則を、見事に具現化している。テーブルにはもちろん、辣醤が用意されていた。すりおろしニンニクもある。

「五右ェ門」のチャンポン(しお)

実は「五右ェ門」には、「チャンポン(しお)」というメニューも存在している。確認のため、こちらも食べてみた。「あんかけ」と付かない通り、スープにとろみは付いていない。では、秋田版の長崎チャンポンかというとそうではない。兵庫県尼崎の尼崎チャンポン、通称あまチャンの人気店「天遊」には、あんかけのチャンポンと長崎風の長崎チャンポンの2種類のチャンポンがあるが、「五右ェ門」の「チャンポン(しお)」は長崎風とは別物。スープも澄んでいて、東京で言うところのタンメンといった味わいだ。

「ごうん棒」のあんかけチャンポン(正油味)

「チャイナタウン」「五右ェ門」とはやや離れた場所に位置するのは「ごうん棒」だ。味付けは「五右ェ門」同様のしょうゆ味。これまたボリュームが凄い。あんのとろみが強く、麺の量もかなり多い。やはり太麺ではない、一般的な太さの中華麺だ。テーブルにはお約束の辣醤の他、すりおろしにんにくと紅ショウガが用意されていた。

濃いしょうゆ味のあんと紅ショウガの組み合わせが絶妙

地元客と思しき周囲の客の食べ方を観察すると、みなこの紅ショウガをあんに添えて食べている。そして、けっこう多めに酢もかけている。確かに「五右ェ門」よりやや濃いめのしょうゆ味のあんに紅ショウガがよくあうのだ。もちろん辣醤で味変もするが、強めのとろみと圧倒的な量で苦しくなってきたところに酢を加えると、口の中がリフレッシュされる。とはいえ、少食の人なら普通盛りも食べきるのが困難なほどのボリュームだった。

酢で「味変」

寒い冬は、体が温まるあんかけ麺がおいしくなる季節。あえて雪の秋田を訪れ、秋田チャンポンの魅力を体感してみるのもまた一興だろう。

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