日本人はカレー好き。もちろんそれは本格インドカレーではなく、小麦粉でとろみの付いた「うちのカレー」だ。各家庭ごとに「おふくろのカレー」があるはず。そして日本人はもつ好きでもある。居酒屋に行けば、とりあえず一杯の供に、スピードメニューのもつ煮を選ぶことは多いだろう。そんな誰もが好きな、日本のカレーともつが合体したメニューが、静岡・清水にある。もつカレーだ。
清水のもつカレーは、戦後、JR清水駅前にある「金の字本店」の初代、故・杉本金重さんが、名古屋の土手煮込みにヒントを得て考案したご当地グルメだ。「金の字」は串に刺したスタイルだが、やがて周辺の店に広がり、煮込み風、鍋風…と進化を続け、今では清水の居酒屋定番メニューになっている。そのおいしさを広めようと、2008年11月に設立された清水もつカレー総合研究所によれば、もつが柔らかく煮込んであること、もつに肉のうまみが残っていること、もつの臭みがないこと、もつにカレー味がしみこんでいるもの(もつとカレーを和えたものではない)が清水もつカレーの定義だ。
まずは元祖店「金の字」のもつカレーを確認しておこう。そもそも「金の字」は、店先に串を焼く煙がもうもうと上がるやきとりのお店。名物のもつカレー煮込みも、竹串に刺して提供される。注文も本単位だ。とにかく人気店で、あっという間に満席になる。静岡電鉄新清水駅前にある支店は午後4時開店だが、まだ明るいうちから客席は埋まってしまう。もつカレーを味わうなら、早めのスタートが肝心だ。
肝心のもつは、東日本スタイルの豚もつだ。結構歯ごたえのある部位のはずだが、しっかりと煮込まれていてとても軟らかい。一般的なもつ煮から想像するに、もつをカレー粉で煮込むものかと思っていたのだが、もつが浸っていたのはとろみのついた、まさにカレーライスのカレーだった。このカレーが抜群においしいのだ。できればこのカレーを炊き立てのご飯にかけて、カレーライスとして食べたいと思ったほどだ。実は最初、駅前のアーケード街にあるすし店のランチメニューにもつカレーライスを発見し、それを目指して訪れたのだが、コロナ禍のせいか営業していいなかった。
もう1軒、元祖から派生したもつカレーを味わいたいと、そのアーケード街を歩いてみた。すると「居酒屋まる両」の店頭に掲げられたメニューにもつカレーを発見、のれんをくぐった。早速注文すると、カレーたっぷり、スプーン付きで登場した。見た目は、まるっきりご飯のないカレーだった。
一見カレーばかりに見えるが、もつは器の底に沈んでいて、スプーンで掘り起こすと、たっぷりと出てくる。そこはやはり、ごはんにかけるカレーではなく、つまみのもつカレーだ。「金の字」に比べ、若干は歯ごたえがある。もつ焼のもつに近い感覚だ。そして、カレーはスパイシー。舌にぴりりとくる。これもやはりご飯がほしくなる味だ。
今は同じ静岡市になった隣町の静岡にも清水もつカレーはあった。駅ナカにある、静岡おでんの「海ぼうずアスティ店」で、「おすすめ静岡グルメ」のひとつとして提供されていた。
さすがにアウェーとあってか、量は控えめの小鉢だった。もつは、「居酒屋まる両」同様、やや歯ごたえのあるもの。やはりスプーンがついていて、カレーをメインに味わう感覚だった。もつは、ポークやビーフ、シーフードといったカレーの具のようなイメージだ。
おみやげ用、あるいは家庭で清水もつカレーを食べたい向きには缶詰も用意されている。実は静岡県、全国有数の缶詰王国なのだ。特にマグロの缶詰では、静岡県のシェアは95%を超える。シーチキンで知られるはごろもフーズの創業地は清水だ。さらに、家呑みの供として定番のほていのやきとりを手掛けるホテイフーズは、今も清水に本社を置く。その両社からもつカレーの缶詰が発売されている。
はごろもフーズは、2種類のもつカレーをラインアップ。セット売りも行っている。黄色い缶の清水もつカレーは、はごろもフーズと清水もつカレー総合研究所が連携して開発、2009年に発売された。パッケージに表記された「もつカレさまです」は、清水もつカレー総合研究所の公式挨拶だ。非常にスパイシーで、カレーのおいしさが光る味だった。
一方、青い缶は2014年に発売された清水もつカレーおそば屋さん風だ。和風だしにスパイスを効かせ、おつまみにぴったりなおそば屋さん風に仕上げたという。カレーをひとなめしただけで「あぁ、そば屋のカレー南蛮」と実感できる味だ。だしを効かせつつもスパイシー。缶詰ながら、メインを張れる味だ。
ホテイフーズのもつカレーは、はごろもの170グラムに対し、85グラムと「適量サイズ」がセールスポイント。晩酌の「あとひと品」として、手軽に清水の名物が味わえる。
居酒屋メニュー、おつまみと強調される清水もつカレーだが、もちろん酒の供にも最高だが、やはりたっぷりのカレーはどうしてもカレーライスにしたい衝動に駆られる。最後に自宅で缶詰をご飯にかけて食べてみた。その選択は間違いでなかったことだけは、最後に付記しておきたい。