鳥取を代表する食というと何だろう。2017~19年の都道府県庁所在市および政令指定都市を対象にした家計調査の1世帯当たり品目別年間支出金額および購入数量(2人以上の世帯)のデータをひもとき、鳥取市が消費日本一を誇る食べ物を探してみた。
まずは、まさに鳥取を代表する食である梨。同じくトップなのが、これまた鳥取の冬の名物、カニ。果物ではスイカ、魚介ではイワシとカレイもトップになる。最近注目されているところでは牛乳とカレールウ。東京でも地元ブランドの「白バラ牛乳」を見かけるようになり、鳥取カレーも注目度が高まっている。意外なところでは、食パンと即席麺、卵、モヤシ、マヨネーズ、まんじゅう、スナック菓子、チョコレート菓子、冷凍調理食品といったところが消費量日本一だ。そして最後にもう一つ。ちくわだ。
2位徳島市の2873円、3位松山市の2415円に対し、鳥取市は3566円と金額で大きく上回る。鳥取市民は全国でも有数のちくわ好きなのだ。そうだ、鳥取と言えばとうふちくわがあるではないか。
地元名産のとうふちくわを全国にPRすることはもちろん、とうふちくわをもって、地元・鳥取を楽しむことを目指して活動する鳥取とうふちくわ総研(とーそーけん、植田英樹所長)は、日本最大級のまちおこしイベント「B-1グランプリ」にも2006年の第1回大会から参加するなど、全国的知名度は高い。同総研では、地元民を対象に「とうふちくわはとうふかちくわか」のアンケートを実施したが、そこでも、とうふちくわをちくわとする回答が圧倒的に多かった。
しかし実はとうふちくわ、その配合は魚3に対してとうふ7の割合だ。家計調査では、とうふちくわは「大豆加工品」に分類される。つまり、とうふちくわを入れずに、ちくわが消費量日本一なのだ。いかに鳥取の人がちくわ好きかが分かるだろう。
全国各地のちくわは原料の魚種を明示しないものが多いのに対し、鳥取のちくわは「あごちくわ」「鯛ちくわ」など、商品名に魚種を表示したちくわが多い。原料の違いを味わうことにも、ちくわへの愛の深さが表れる。
その中でも特に愛されているのが、とうふちくわなのだ。
とうふちくわは江戸時代に誕生した。鳥取では漁港の開発が遅れていたため、魚はぜいたくな食べ物だった。そこで、鳥取藩主・池田光仲公は、城下の民に、質素・倹約のため、魚の代わりに豆腐を食べるよう勧める。
鳥取には、現在でも名水が多くあり、大豆の生産も盛んで、質の高い豆腐が多く食べられていた。そこで、魚3に対し、豆腐7の割合でちくわを作るようになる。とうふちくわの誕生だ。
3対7の割合は、素材の特徴を引き出し、生かすための工夫だ。上質の豆腐の風味が感じられ、かつ食感も柔らかく仕上げるため、この比率になった。魚も、たんぱくな味のものにこだわり、豆腐の風味を最大限生かす。
厳選した素材を合わせて練り込んだ後、ちくわの形に成型し、蒸せばとうふちくわの完成だ。香ばしさが引き立つ焼きとうふちくわもある。
とうふちくわのトップメーカー「ちむら」の、製造工場も併設する「とうふちくわの里(布袋店)」を訪ねた。広い店内には、多種多様なとうふちくわ、ちくわが並ぶ。原料用の豆腐も自家製造しているため、とうふちくわだけでなく、豆腐も販売する。
ちくわは、山陰を代表するあごちくわや焼きサバちくわなど、原料の素材感を生かしたものが並ぶ。
とうふちくわは、豆腐の味と食感を生かしたあっさりした味わいが特徴だ。
平成の時代に入り、新しい味わいも出てきた。そのあっさりたんぱくな味わいは、様々な味とのコラボレーションを可能にする。鳥取の県民食とも言えるカレーとコラボした「カレーとうふ」はその代表格だ。他にもショウガやネギ、枝豆、ゆず、レモンなどと合わせたとうふちくわもある。
イタリアンな「トマトとチーズのとうふちくわ」も注目だ。味のくせのなさが生み出す何でも受け止める懐の深さは、和食だけに止まらない。チーズやスパイスといった和食にはない味わいまでも受け止める。
東京でも、新橋にある鳥取県と岡山県のアンテナショップ「とっとり・おかやま 新橋館」で、常時買うことができる。原料の7割がとうふということは、とてもヘルシー。健康が気になる人にもおすすめの酒のつまみだ。