あんかけスパゲッティといえば「なごやめし」の一角をなす名古屋のご当地グルメだが、名古屋を飛び出し、ローカライズされて独自のご当地グルメとして愛されている地域がある。静岡県東部の沼津だ。名古屋スタイルをベースとしながらも、沼津ならではのボリューム感、そして味が魅力だ。
本格イタリアンのパスタ料理は茹で上げのパスタをソースと絡めるのが基本だが、あんかけスパゲッティーは茹で置きのスパゲッティーを油で炒め、そこに具をのせ、あんをかける。スパイシーな名古屋に対し、沼津のあんかけスパゲッティーは甘辛いあんが特徴。刺激が少なく、甘みもあるので、子どもにも人気のメニューだ。長年「マルコ」「ボルカノ」「伊太楼」の3店が人気を集めていたが、惜しくも「マルコ」は閉店。現在は、JR沼津駅を挟んで南北に2店が並立する。
名古屋では、ウインナー・ハム・ベーコンをメインにしたミラネーズ、タマネギ・ピーマンをメインにしたカントリー、そして2つを合わせたミラカンといったメニュー構成だが、沼津では名古屋のミラカンに近いものをミラカンではなくミラネーゼと呼ぶ。ピカタやとんかつをトッピングする点も名古屋同様だ。では、あんの味付けだけが名古屋との違いかというとそうではない。名古屋にはないメニューもけっこうあるのだ。
その代表格がランチだ。名古屋では、サラダやパンとセットメニューにできるが、基本はあんかけスパゲッティの単品だ。ところが沼津では、ご飯とコールスローサラダが一緒盛りになったセットの人気が高い。あんかけスパゲッティーをおかずにご飯を食べるのだ。
そして、沼津ならではのメニューがカルーソだ。アメリカでは、イタリアのオペラ歌手、エンリコ・カルーソーにちなんだパスタ料理として知られる料理。沼津では、タマネギと炒めたレバー焼きがあんかけスパゲッティーの上にのっている。
沼津では特に人気が高く、ワンプレートのランチでもBランチのカルーソとCランチのミラネーゼを一緒盛りにしたBCランチの人気が高い。どれにしようか迷うなら、このBCランチがおすすめというわけだ。
他にもショウガ焼きとあんかけスパゲッティーとライスを組み合わせた焼肉ランチ、ベーコンをベースにしたあんかけスパゲッティーを組み合わせたオリエンタルランチというメニューもある。とにもかくにもボリューム満点なのだ。
ご飯なしでボリューム満点のメニューもある。例えばパルメザン。メニュー名からチーズを使ったものだとは想像できるが、登場したのは、チーズを絡めた大きなとんかつが鎮座したあんかけスパゲッティーだった。とんかつ屋のような厚みのある、食べ応え満点のとんかつだった。
「伊太楼」には鉄板スパゲッティーもある。ただし、名古屋とは違い、薄焼き卵は入らない。個人的に非常に気に入ったのがカチャトニ(チキン野菜鉄板焼き)だ。せっかく鉄板で食べるなら、これまで食べたことないようなスパゲッティーを食べようと思い、野菜山盛りでスパゲッティーが見えないメニュー写真に誘われて注文した。
「あちちち」。運ばれてきた熱々の鉄板からは沸騰したあんがいきなり、半袖の腕を直撃した。ピーマン、タマネギ、生トマト…驚くほど野菜が大きい。そして山盛り。一見して野菜とスパゲッティーの間にあるであろう鶏肉が見えない。「伊太楼」では、他のあんかけスパゲッティーでも、マッシュルームではなく生シイタケを使う。この熱々の生シイタケが抜群にうまいのだ。
そして熱々のあんと野菜とのマリアージュもすばらしい。茹で置きを炒めたスパゲティーを熱々の鉄板で…本格イタリアンでは考えられないパターンだろうが、これこそが「他では食べられない味」なのだ。あまりの熱さに鼻水に加え涙まで出てきた。でも、おいしくて一気に食べてしまった。
ちなみに「伊太楼」では、パルメザンも鉄板で提供されるとのこと。あんかけスパゲッティー、鉄板スパゲッティーを「なごやめし」と決めつけることなかれ。一度は沼津で食べてみるべしだ。