広島というと、お好み焼きはじめご当地グルメにはこと欠かない。最近では、汁なし担々麺や激辛つけ麺が、東京でも食べられるようになった。そんな中で、関東ではなかなかその存在がクローズアップされてこなかった広島ご当地グルメがある。ホルモンの天ぷらだ。
ホルモンを好んで食べるまちには、鉱山はじめ、額に汗して働く人が多いのが一般的だ。軍都として栄えた広島では、軍需を背景にした製造業が発達し、そこでは多くの労働者が働いていた。そうした人たちに、安価でスタミナの付くホルモンが愛されていたことは、想像に難くない。
ただ、煮込みやホルモン焼はあちこちで見かけるが、天ぷらにして食べるのは、あまり聞いたことがない。しかも広島では、大ぶりのホルモンを天ぷらにし、それをテーブルで切りながら食べる。もちろん、ナイフとフォークではない。包丁とまな板があり、それで切って食べるのだ。
今回、7年ぶりに広島市西区福島町にある「あきちゃん」を訪ねた。あいにくとコロナ禍で長居はできなかったが、久しぶりに本場のホルモンの天ぷらを堪能した。これも時代なのかなと思ったが、以前はテーブルセットよろしく、着席する前から並べられていた包丁とまな板が、ホルモンの天ぷらと一緒に運ばれてくるようになっていた。包丁も、以前はプロっぽい、刃の厚い、握りも太いものだったが、今回は刃の薄い、家庭用のものになっていた。
かつては「仁義なき戦い」で知られていた町にもかかわらず、カウンターにずらりと包丁が並んでいたのには驚かされたが、さすがに、時代なのだろう。
ホルモンは白肉(第一胃袋)、ハチノス(第二胃袋)、センマイ(第三胃袋)、ピチ(赤センマイ)、オオビャク(大腸)、チギモ(脾臓)といったところが定番だ。特に人気は白肉。それぞれ、大ぶりのサイズで天ぷらにする。
皿に乗って運ばれてきたホルモンの天ぷらは、自分で一口大に包丁で切る。初めから一口大に切ってから揚げてもよさそうだが、これが広島流。郷に入っては郷に従う。
たれは、ポン酢にたっぷりのトウガラシを入れたもの。こんなにトウガラシを入れて食べられるのかと思うが、店のトウガラシは激辛ではない。酒のつまみにはちょうどいい辛さだ。
カウンター脇にはおでんもあるのだが、おでんだねも実にユニークだ。今回食べたのは、いずれもホルモンのおでん。まずはのどの部分の軟骨。コリコリとした部分と硬めのゼラチンのような部分が幾重にも重なり、独特の食感を醸し出す。いまだかつて食べたことのない食感だ。
そしてもう一つのおでんは肺だ。ふわっとした食感もこれまた斬新だ。前回紹介した津山もそうだが、古くから肉食に親しんできた土地では、都市部では食べられないようなホルモンの部位が普通に食べられる。そこに肉食文化の歴史を感じる。
ホルモンの天ぷらで知られる「あきちゃん」だが、実は広島ラーメンも人気メニュー。とんこつの茶褐色に濁ったスープが特色だ。
7年ぶりのホルモンの天ぷらということで、定食スタイルが人気だった「たかま」を探したが、すでに閉店してしまっていた。テーブルには包丁は置かず、切ったホルモンの天ぷらを皿に盛ったスタイルは、ランチにぴったりだっただけに残念だ。
広島駅前の市内電車乗り場もすっかりきれいになり、新幹線口側も再開発で大きく姿を変えるなど、時代とともに変わっていく広島市。きれいに、便利になるのは大歓迎だが、昔ながらの味も、しっかり受け継いでいってもらえるとうれしい。