東日本は納豆好き、西日本は納豆嫌い──。納豆は食の地域性を語る際によく引き合いに出される食品だ。現在NHKで放映中の朝の連続テレビ小説「エール」でも、福島県出身で納豆好きの夫と愛知県出身で納豆嫌いの夫婦がコミカルに描かれている。確かに、総務省が発表する家計調査(2017~19年)によれば、県庁所在地と県庁所在地以外の政令指定都市でのランキングで、日本一の納豆消費量を誇るのは福島市だ。愛知県では、名古屋市が30位となっている。ドラマ通りの結果だ。
愛知は納豆県?
ところが、納豆生産のシェアを見ると首位は、「おかめ納豆」で知られる「納豆と言えば」の茨城県に本社があるタカノフーズだが、2位は愛知県に本社があるミツカンだ。
ミツカンが納豆市場に参入したのは1997年、平成に入ってからのことなので、ドラマで描かれた時代にはもちろん、愛知県は納豆の大生産地ではなかった。しかし、参入から20年余で、ミツカンは急激にシェアを伸ばしている。
ミツカン快進撃のカギとなったのが「金のつぶ におわなっとう」だ。納豆嫌いの人の多くは、その理由に、納豆独特の香りを上げるはずだ。そう、納豆嫌いの地であったからこその商品が、愛知県の納豆生産拡大を支えたのだ。ミツカンは、食酢で圧倒的なシェアを持つだけに、食品小売りに対する営業力は折り紙付きだ。シェア拡大もうなづける。
では、納豆の本家本元は手をこまねいているのかというと、そうではない。規模で勝るミツカンに対抗すべく、納豆本来の魅力を前面に押し出した商品を多く市場に投入している。
隠れた納豆県、秋田
全国的には「納豆=茨城県」のイメージがあるが、実は茨城県と並び「納豆発祥県」を標榜する県がある。秋田県だ。
納豆の発祥は平安時代後期にさかのぼる。きっかけとなったのは、後三年の役。奥州を支配していた清原氏の内紛に、陸奥守(むつのかみ)源義家が介入。結果的に、鎌倉幕府誕生につながった戦だ。最終決戦の地となった現在の秋田県横手市へ各地から軍勢が軍馬と共に移動する。当時、馬のかいばは煮た大豆だった。馬を休ませるために敷いた藁の上で、馬に煮豆を与える。この煮豆に藁の納豆菌が付着し、納豆ができあがったというわけだ。この現象が秋田県と茨城県でほぼ同時に起こった。
そのため、秋田県でも納豆が多く作られ、食べられている。メーカー別のシェアでも「おはよう納豆」で知られる、秋田県仙北郡美郷町に本社があるヤマダフーズが第4位だ。秋田県大仙市のご当地グルメ、大曲納豆汁がB-1グランプリでも注目を集めるなど、秋田県の納豆食文化は奥が深い。
ちなみに、米どころで、江戸時代には北前船による貿易で潤った秋田県はとても裕福な土地柄で、当時は贅沢品だった砂糖をたくさん使った甘い味付けで知られる。実は納豆にも砂糖を入れるのが秋田の食べ方だ。
1パック2000円の高級納豆
そんな「納豆県」の秋田と茨城で、最近よく目にするのが高品質高価格の、いわゆるプレミアム納豆だ。「におわなっとう」とは逆の戦略で、納豆本来の味を追求し、豆にこだわり、製造法にもこだわっている。
秋田市に納豆専門店「二代目福治郎」を構えるふく屋は、高級納豆を前面に押し出す。きっかけは、ミツカンの全国展開で価格競争に巻き込まれ、取引先から大幅な値下げを迫られたことだ。これに対し、「価格競争には加わらず、最高級の素材で最高級の納豆をつくる。そして、それを理解してくれるお客様に直接お届けする」ことを決断する。
大豆を吟味し、使う納豆菌は60年前から純粋培養されているものだ。これを昔ながらの経木の容器に入れ、ていねいに発酵させる。最高級品の「丹波黒納豆」は2食分1パックが何と2000円だ。「鶴の子納豆」は「日本一高い納豆」として話題にもなった。
毎年成人の日の3連休に横浜・八景島で開催する秋田県の観光イベント「こでられね~秋田大集合」でも、昔ながらの藁納豆など、秋田の様々な納豆製品が人気を集める。
たれにもこだわる舟納豆
茨城県でもプレミアム納豆市場への参入が相次いでいる。その中でも知名度が高いのが舟納豆。東京・銀座の茨城県アンテナショップでも特に高い人気を誇る。ショップのリニューアルで、一時店頭から姿を消した際には、舟納豆を熱望するファンの声が多く寄せられ、販売を再開したほどだ。
舟納豆は1パック180円と、スーパーなら3パック100円前後の納豆の中では高級品だが、他にわっぱ状の容器に詰め、さらにプレミアム感を増した商品を多く取りそろえる。残念ながら、舟納豆のプレミアムのラインナップは、銀座では扱っておらず、常陸大宮にある工場に隣接したショップや通販で購入することになる。
秋田同様、黒豆を使うのは黒粒納豆。1パック530円だ。北海道産黒豆を使った舟納豆の最高峰だ。厳選した丹波産黒豆の納豆に、香り高い宇治抹茶パウダーとミネラル豊富な藻塩を添えた宇治抹茶黒粒は1パック800円。
わっぱ入りのシリーズは豆に加え、たれにもこだわる。わっぱ納豆梅味(1パック400 円)は、うす塩ねり梅のたれが付いてくる。わっぱ納豆(1パック400 円)には、金山寺味噌のたれが付いており、豆と合わせてたれによる味の違いも確かめられる。
夕食に、酒の友に納豆を
これらプレミアム納豆は、朝ごはんに食べる納豆ではなく、夕食の、ごちそうの納豆だ。酒のつまみにして食べたい味だ。
舟納豆では、ワインに合う納豆も用意する。ワインdeナットーネ<チーズ>とワインdeナットーネ<トマト&バジル>だ(各1パック300円)。舟納豆は事前予約すれば工場見学もできるので、見学とセットで、家族連れで納豆を買いに行くのもいいだろう。
他にも、地域や畑、生産者が違う6種類の大豆を、職人が大豆ごとの特性に合わせて製造した菊水食品の「いばらき 農家の納豆」や道の駅しもつまのくろまめの塩切納豆など、茨城県には味と品質にこだわった納豆が多い。
茨城県のアンテナショップ「IBARAKI sense」では、7月10日から「納豆の日」に合わせた「納豆月間」を開催中。納豆好きなら、見逃せない催事だ。
納豆は朝食で食べるもの、という既成概念を壊してみると、納豆はもっとおもしろく、おいしくなるはずだ。