鉄砲漬とは、瓜の中を鉄砲の銃身のようにくり抜き、しその葉を巻いた唐辛子を弾丸に見立てて詰め、しょうゆやみりんでつくった調味液で漬け込んだもの。成田山新勝寺のお土産としても有名で、新勝寺に向かう参道には多くの漬物屋が軒を連ね、材料や漬け込み方など、それぞれに工夫を凝らして参拝客を誘う。
農林水産省が発表する令和2年産地域特産野菜生産状況調査結果によると、千葉県のしろうりの出荷量は、徳島県の1800トンに次ぐ708トンで全国2位を誇る。3位の愛知県が72トンなので、徳島県と千葉県が突出して多いことになる。鉄砲漬は、冬の農閑期に備え、地元の特産野菜を保存するためにつくられるようになった。
つくり方は、まずしろうりを塩漬けする。漬け上がったら、水を時々換えながら2日ほど塩出しする。水気をよく切ったら、しょうゆやみりんを合わせた調味料を煮立てて冷まし、そこに瓜を漬け、軽く落し蓋をする。次の日に瓜を取り出し、調味料を再び煮立てて冷ましてから、再度瓜を漬け、落しぶたをする。こうした作業を4~5日繰り返せば1週間ほどで完成する。
鉄砲漬けを探しに、京成とJRが隣接する成田駅から新勝寺へと延びる参道を歩いてみた。週末の参道は多くの参拝客でごった返していた。沿道にはそんな参拝客目当ての土産物屋が並ぶ。成田と言えばの「なごみ米屋」を筆頭に、せんべい店などが軒を連ねる。そんな中で一定間隔で目に入るのが漬物屋で、その看板商品が鉄砲漬だ。
武器の鉄砲には大砲から拳銃まで様々あるように、実は鉄砲漬とその弾丸には大砲級から拳銃級まで様々なバリエーションがある。まずは鉄砲漬の基本形とも言えるしろうり。「銃身」は瓜としてはかなり太めだ。中心部分の種を抜いて塩漬けにして戻したものに「弾丸」を込めて味付けする。
店頭では、この「弾丸」のみでも販売されている。商品名は「志そ巻唐がらし」。とうがらしを赤紫蘇の葉でくるんで漬け込んだもの。これだけで食べると、けっこうな辛さだ。しかし、その辛さが結構いい酒のつまみになる。
この「弾丸」が「銃身」と見事なマリアージュを見せる。しろうりだけではどこにでもあるような漬物の感覚だが「弾丸」のピリ辛がそこに一気にパンチを加える。しろうりだけとも、紫蘇の葉巻きのとうがらしだけとも違い、1+1以上の味の膨らみを与えてくれる。
しろうりの鉄砲漬が「ライフル銃」なら「拳銃」級なのはきゅうりの鉄砲漬だ。同じ瓜の仲間だが、きゅうりはしろうりに比べかなり「銃身」が細い。その細い銃身に紫蘇の葉巻きのとうがらしの「弾丸」を込める。しろうりと同じ「弾丸」を使っているので、身が細い分、この「拳銃」の方が辛さにはパンチがある。
「拳銃」にさらに大きな「弾丸」を込めた鉄砲漬もある。ごぼう入りのきゅうり鉄砲漬けだ。ごぼうなので辛さはないが、半面、硬いごぼうは噛み応えが増す。また、ごぼう特有の味わい深さも加わる。「殺傷力」こそ小粒の紫蘇の葉巻きとうがらしには劣るものの、ひと味違ったきゅうり鉄砲漬が味わえる。
ごぼうの「弾丸」は、一風変わった「銃身」にも込められる。こんにゃくてっぽうは、瓜ではなくこんにゃくを「銃身」に使ったもの。煮物にも最適のこんにゃくだけに、ていねいに漬け込むと「銃身」にいい塩梅で味が染み込む。こんにゃくのくにゅっとした食感とごぼうの歯ごたえが、いいコントラストだ。
最後は「大砲」級のたけのこだ。たけのこの芯をくりぬいたものに「弾丸」を込め、じっくり漬け込んである。写真は「弾丸」に山くらげが使われている。メーカーによっては、千葉の県花・菜の花など多様な「弾丸」を込めたものもある。いずれにせよ竹の皮を巻いて漬け込むのが一般的だ。
瓜類は漬物の味わいだが、こんにゃくとたけのこに関しては、漬物というよりは一品料理の装いだ。主菜に添える副菜としてもいい仕事をしてくれる。こんにゃくてっぽうで一杯やりながら、合間にしろうりの鉄砲漬をつまむなんていうのも良さそうだ。
岩手の金婚漬や三重・伊賀の養肝漬など、鉄砲漬に近い製法の漬物もあるが、バリエーションの豊富さでは、やはり成田の鉄砲漬がダントツだ。千葉県内を中心に各地で千葉県産品を扱うショップ「房の駅」などでも店頭に並ぶ。見つけたらぜひ一度味わってみてほしい。