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羊羹にあらず、名古屋にもあらず 小田原のういろう

投稿日:2026年10月16日 投稿日: (更新日:)

ういろう、と言うと名古屋の和菓子というのが一般的なイメージではないだろうか。しかし、ういろうが名古屋の名物となったのは、鉄道開通以降、駅で販売されるようになってからだ。事ほどさように、ういろうとは何かをきちんと説明できる人は、そう多くはないはずだ。そもそも、羊羹とういろうは何が違うのか?

外郎家の家紋、十六の菊と五七の桐を形取った菊桐ういろう
外郎家の家紋、十六の菊と五七の桐を形取った菊桐ういろう

ういろうは、米粉や小麦粉に砂糖と水を混ぜて蒸して作るもの。もっちりした食感が特徴だ。一方、羊羹は小豆あんと砂糖を寒天で固めて作るもの。滑らかな口当たりが特徴だ。そして、そもそもういろうは名古屋名物ではなかったし、さらにいえば、お菓子でもなかった。

「薬のういろう」こと「透頂香」
「薬のういろう」こと「透頂香」

はてさて、ういろうとはいったい何なのだろう? 現在もういろうを製造する株式会社ういろうは、1368(応安元)年に、明によって滅ぼされた元朝の役人が博多に亡命したことに始まる。当初手がけていたのは菓子ではなく、中国から伝わった痰咳などの薬「透頂香(とうちんこう)」で、元朝時代の官職名(員外郎)から薬を「ういろう」と呼ぶようになった。

ういろう本店の店内のあちこちにカマキリが鎮座
ういろう本店の店内のあちこちにカマキリが鎮座

日本は室町時代。外郎家は、足利義満将軍の招きで京都に屋敷を構え、医薬師や外交で活躍した。そんな外郎家で、外交役として仕えた際に、大陸から来た外国使節団の接待のために考案したのが、お菓子のほうのういろうだ。そう、薬とお菓子、ういろうは2つあるのだ。ちなみに京都の屋敷が京都市中京区蟷螂山町にあったことから、現在でも外郎家は京都・祇園祭で、からくり仕掛けの「カマキリ(蟷螂)」を載せた「蟷螂山(とうろうやま)」を巡行する。

小田原城天守閣
小田原城天守閣

京都を拠点としていた外郎家だが、応仁の乱の混乱から、1504年、小田原に居を移す。ここで晴れて「小田原のういろう」が誕生する。外郎家は、北条家と共に関東に根を下ろすものの、1590年、豊臣秀吉の小田原攻めにより武家の地位を奪われてしまう。しかし、医薬師および商人としての評価は高く、その後も現在に至るまで小田原の発展に寄与することになる。

株式会社ういろう本店
株式会社ういろう本店

実は現在でもなお、薬のういろうとお菓子のういろうは同じ店舗内で併売されている。小田原では、「透頂香」の歴史を受け継ぎ、菓子だけでなく薬の販売と合わせて手がけている点が、名古屋など他の地域のういろうとの違いになっている。かつては砂糖を精製する技術がなかったことから、高価な原料の黒砂糖が、貴族の栄養薬としても重宝されていたことも「薬扱い」の背景にあるようだ。

店の奥は薬売り場
店の奥は薬売り場

ちなみに名古屋にういろうの製法が伝わったのは江戸時代初期のこと。外郎家が小田原で医薬師および商人として再スタートを切った後のことだ。広く知られるようになったのは、昭和初期に青柳総本家が名古屋駅構内で販売を開始、1964年の新幹線開通をきっかけに車内販売もされるようになったことが背景にある。ちなみに現在、ういろうが名物とされているのは名古屋の他、山口、徳島で、日本三大ういろうとも呼ばれている。

(左から)小田原、名古屋、山口、徳島のういろう
(左から)小田原、名古屋、山口、徳島のういろう

名古屋ういろうは、米粉を原料に使い、もっちりとした強い弾力としっかりした甘さ、日持ちの良さが特徴だ。山口ういろうは、ワラビ粉が主原料で、独特のぷるぷる感と滑らかな口どけが特徴。そして徳島ういろう(阿波ういろう)は、米粉やもち米、和三盆糖などを使い、ふんわり、もっちりした食感が特徴だ。小田原は、米粉を使う点は名古屋と同様だが、弾力が少なく、ぎゅっと締まった硬めの食感が特徴だ。

(左から)小田原、名古屋、山口、徳島のういろう
(左から)小田原、名古屋、山口、徳島のういろう

東京でも名古屋、山口、徳島の各ういろうがアンテナショップなどで手に入るので、小田原のういろうと食べ比べてみた。まずは小田原から。かなりしっかりとした食感だ。手に持つと、ずっしりとした重さがあり、それが食感にも表れている。名古屋の力を入れて持つと変形してしまうような柔らかさとは好対照だ。山口はワラビ粉特有のぷるぷるとした食感が特徴で、徳島はあんをそのまま固めたかのような味わいがあり、粉感が少ない。同じういろうだが、それぞれに個性があって興味深い。

蔵を再利用したういろう博物館
蔵を再利用したういろう博物館

話を小田原に戻そう。創業650年を誇る小田原の株式会社ういろうは、現在もなお小田原城そばで営業を続けている。本店では、商品の販売だけでなく、1885(明治18)年築の蔵を利用した、小さな博物館を公開している。独特の店構えの理由や「ういろう」の名の由来、お菓子と薬の起源、歌舞伎十八番「外郎売」との関係などを紹介する。常時公開はしていないが、店員に声をかければ、気さくに店舗裏の博物館に案内してくれる。

(左から)小豆、黒砂糖、抹茶、白砂糖
(左から)小豆、黒砂糖、抹茶、白砂糖

さっそくういろうを食べてみよう。店頭に並んでいたのは、黒砂糖、小豆、抹茶、白砂糖の4種類で、これが基本。さらに、別シリーズで栗ういろうや杏仁ういろうもある。杏仁ういろうは土日限定、本店のみで販売する。元祖的存在は黒砂糖だ。そもそもういろうが誕生した当初は精糖技術が未発達で、砂糖と言えば黒糖だった。その黒糖の味を生かしたのが黒砂糖だ。わかりやすく言うと、きな粉餅などに掛けるあの黒蜜の味だ。

黒砂糖
黒砂糖

同じ黒系だが、やや小豆色をしているのが小豆だ。一見区別が付きにくいが、食べてみるとまるで違う。いわゆるあんこの味で、黒蜜に比べて甘さは控えめだ。

小豆
小豆

そしていかにも和菓子な味わいなのが抹茶だ。食感的には米粉の感触を最も味わえる気がした。この舌触りの違いが、ういろうと羊羹の最大の違いだろう。歯にまとわりつくようなねっとりとした食感は、羊羹では決して味わえないものだ。

抹茶
抹茶

名古屋のういろうでも定番になっている白いういろうは白砂糖だ。精製された砂糖を使っているため、洗練された甘さになっている。黒砂糖のガツンとくるワイルドな甘さとは、大きく違う。見た目も含めて、ういろうらしさを味わうには白砂糖が最適かもしれない。

白砂糖
白砂糖

歴史的な経緯はどうであれ、やはりういろうというと名古屋のイメージが強いことは確かだ。しかし今回、山口や徳島のういろうを食べ比べてみて、優しい甘さ、柔らかい食感は共通するものの、それぞれ特徴があると分かった。特に小田原は「本家本元」でもある。近くを訪れた際には、ぜひういろう本店を訪れて小田原のういろうを食べてみてほしい。

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