【みちのくひとり食べ】⑥「納豆県福島」に納得 

投稿日:2026年1月10日 投稿日: (更新日:

2020年度後期のNHK朝の連続ドラマ「エール」で、主人公のモデルとなった作曲家の古関裕而が毎朝、納豆をうまそうに食べ、それを妻の金子(きんこ)が微妙な表情で見つめる場面があった。古関は福島市出身で妻は愛知県豊橋市の出身だ。

総務省の家計調査(2人以上の世帯、2020~24年平均)によると福島市の世帯当たり年間納豆購入額は6865円で全国1位。2019~22年は4年連続で1位だったが23年に9位になったものの、24年には7830円と過去最高額を算出し1位に返り咲いた。

この数字は福島市のものだが、スーパーをのぞくと様々なローカル納豆が並んでいて、メーカーは県内各地に点在している。体感で言えば、福島県は間違いなく全国最大の納豆県だ。

その実力を確かめるため、あまたあるローカル納豆の中から4つを選んで購入した。最も驚いたのは「会津 高田納豆」だ。発砲スチロールのカップではなく、昔ながらの経木に包まれている。小分けされていないので人数分に分けて食べることになるが、透明なラップをめくって箸を入れると、それだけで粘りが生まれる。小皿に移して混ぜてみれば、粘る粘る。そのくせ、匂いがない。逆にさわやかな香りが漂ってくる。豆は柔らかく噛むと大豆の味がしっかりと伝わってくる。

買ってきた翌朝、納豆を温泉卵と一緒によく混ぜ、醤油代わりの昆布の佃煮で味付けしてみたら、立派な一品に仕上がった。ご飯のお供にも酒のつまみにもなる。

メーカーは会津美里町の「(株)新田商店」で、創業が大正12(1923)年というから100年以上続く老舗だ。

次に「みのり納豆 ほのか」を食べてみた。北海道産の小粒大豆をつかっており、これも臭みがまったくない。包装紙には「第28回全国納豆鑑評会 最優秀賞 令和6年11月22日」と誇らしげに印刷されている。全国の納豆メーカーでつくる団体が2024年に大阪で開いた鑑評会で70メーカー、187点の中から最高賞(農林水産大臣賞)に選ばれた。

メーカーは郡山市の「(有)ミドリヤ」。この会社も昭和28(1953)年創業の長寿企業だ。

こちらは大根おろしとともにいただいた。醤油をちょっと垂らしてかき混ぜる。大根は近くの産直市場で買ったもの。朝どれの大根の瑞々しさと納豆の優しさがベストマッチだった。ご飯代わりに納豆餅で朝食を整えてみた。東北に移住した実感がわいてきた。

新田商店の従業員は7人。ミドリヤは6人。この人数で100年以上、あるいは70年以上もひたすら納豆をつくり続けてきた。この数字を見ただけでも大量生産の納豆との違いがわかろうというものだ。

値段は2パックのものと3パックのもので多少の違いはあるが、高くて150円、最安値は120円だった。

家計調査を見ていて改めて土地柄の違いを感じた。納豆購入額の多い順番にならべると1位福島、2位盛岡、3位秋田、4位水戸、5位青森と東北勢が圧倒的な存在感を示す。反対に少ない順だと52位和歌山、51位高松、50位大阪、49位高知、48位堺となり、四国や近畿で納豆はいまいち人気がない。

野瀬泰申(のせやすのぶ)/ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会(愛Bリーグ)会長

1951年福岡県生まれ。食文化研究家。東京都立大卒後、日本経済新聞入社。東京・大阪社会部、大阪文化部長、特別編集委員・特任編集委員を歴任。大阪勤務時代に「ウスターソースで天ぷらを食べる」人々を見て「食の方言」に気づき、取材を続けている。2008年までは日本レコード大賞の審査委員・副審査委員長も務めた。「ご当地グルメでまちおこしの祭典!B-1グランプリ」主催団体「ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会の設立に関与。2018年より現職。著書に「天ぷらにソースをかけますか?」(ちくま文庫)、「食品サンプルの誕生」(同)、「文学ご馳走帖」(幻冬舎新書)など。


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