中毒性高いあんかけ麺 「小田原タンタンメン」

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辛みを効かせたタンタンメンは、中華の人気メニューのひとつだ。一方で、胡麻を使わずラー油をたっぷり使った千葉県の勝浦タンタンメンや溶き卵を入れた神奈川県川崎市のニュータンタンメンなど「ご当地タンタンメン」も数多く存在する。そんな「ご当地タンタンメン」のひとつが神奈川県小田原市の小田原タンタンメンだ。

芝麻醤を使ったタンタンメンも実は日本独自

全国的には、ラー油と芝麻醤の風味を効かせたスープで食べるタンタンメンが一般的だが、実はこれも日本で編み出された創作料理だ。麻婆豆腐同様、日本の四川料理の父と呼ばれる陳建民氏が、日本人向けにアレンジしたのが始まりだ。本場・四川のタンタンメンは汁なしで、かん水を使わない白い麺を茶碗に盛り、豚肉のそぼろやザーサイ、ネギなどをのせ、ラー油をきかせたタレをかけたものだ。そうした背景もあってか、全国各地で、地元流にアレンジされた多種多様なタンタンメンが食べられている。

汁なしが本来のスタイル

小田原タンタンメンの最大の特徴はあんかけだ。スープ麺ではなく、かといって汁なしというわけでもない。スープに匹敵する大量のあんを麺と一緒に食べるのだ。あんかけ麺というと、汁麺に野菜などを使ったあんをのせる、さいたまのスタミナラーメンや横浜のサンマーメンもあるが、それらはあくまで汁麺の上に水溶き片栗粉でとろみをつけたあんを具としてトッピングしている。小田原タンタンメンはスープをすべて、具と一緒に片栗粉でとろみをつけてしまったというと分かりやすいだろう。

小田原タンタンメンの元祖店「中華四川」

実際に小田原に行って小田原タンタンメンを食べてみよう。訪れたのは元祖店と言われる「中華四川」だ。1975(昭和50)年に中華料理店としてオープン、その後、現在のJR御殿場線上大井駅と下曽我両駅のほぼ中間点のロードサイドにタンタンメン専門店として移転、再開業した。

メニューはタンタンメン専門店

その人気は高く、日曜日午前11時の30分程前に店に入ると、すでに18組50人待ちだった。店内に置かれた用紙に名前と人数を書いて待つシステムだ。人気店らしく、店の前には待ち客用の椅子なども用意され、電話番号を告げれば、順番が来れば呼び出してもくれる。かなり「行列慣れ」している印象だ。結局、店に入れたのは12時過ぎ。約1時間半待ちだった。

温麺と冷やし、つけ麺のバリエーション

メニューはタンタンメンの他は、替え玉とライス、そしてトッピング用のザーサイ、メンマ、チャーシューしかない。まさにタンタンメン専門店だ。「特製タンタン麺」のバリエーションは3種類。温麺とつけ麺、そして冷やしだ。辛さは、甘口のA、一般向けのB、辛口のC、そして特別辛口のスペシャルCから選べる。

脂身と赤身のバランスがいいチャーシュー

辛いもの好きだが、まずは手探りでCとネット上で評判の良かったチャーシューを注文した。まず、チャーシューが登場した。バラ肉だが、脂身と赤身のバランスがいい。味付けはちょっと甘めだが、味そのものは控えめだ。歯触りはとても柔らかかった。

特製タンタン麺C

続いてお待ちかねのタンタンメンの登場だ。挽肉の入ったたっぷりのあんの上にというか、半分沈んだ形で麺がのせられている。今は閉店してしまったが、神田に「白蘭」というお店があり、そのタンタンメンがまさにあんかけタンタンメンだった。「白蘭」では、麺の上にあんをかけ、配膳時には麺が一切見えなかったが、「中華四川」はその逆のパターンだった。

神田「白蘭」のタンタンメン

もち豚半丸を店で捌いた挽肉とザーサイ、ニンニク、オリジナル豆板醤、ネギが入ったスープにとろみがついている。麺は、あんがよくからむようにしつらえられた玉子入りの自家製縮れ麺だ。

よくかき混ぜてからいただく

よくかき混ぜてからいただく。あんはちょっとゆるめだ。しっかり片栗粉をきかせてはいないが、もちろん液体ではない。麺をほぐしながらまぜると、次第に麺とあんとが絡み合ってくる。麺の間にじゅうぶんにあんが行き渡ったら食べ頃だ。麺を引き上げて、口の中へと運ぶ。

あんは意外に甘め

あんは意外に甘めだった。Cでこの甘さなら、Aなら小さな子どもでも食べられるだろう。とはいえ、辛さもはっきり効いている。ベースのあんが甘めに味付けしてあり、そこにトウガラシだろう、辛味成分を加えて調味しているようだ。独特の甘辛さが後を引く。

食べ進んだところで酢を入れて「味変」

しばらくその甘辛さを楽しんだら、次は「味変」だ。店のホームページには「お酢を入れると美味しく、ご飯もよくあいます」とある。酢をかけてみる。独特の甘辛さに酸味が加わると、さらに味が引き立つ。酢をかけて以降は、ひとくちごとに酢をかけて食べるほどだった。

テイクアウトや持ち帰り用のレトルトも

場合によっては2時間待ちの可能性もある大行列店だが、立ちっぱなしではなく順番が来れば連絡してくれるシステムや、会計時、すべての客に「お待たせしてしまってすみません」のひと言が付くなど、「長時間待ってでも食べたくなる」雰囲気作りが、人気店の秘訣でもあるのだろう。

南足柄市にある「玄や」

あんかけスタイルの小田原タンタンメンを提供する店は小田原市内だけでなく、箱根町や南足柄市にもある。その中のひとつ「玄や」も訪ねた。こちらは、自販機で食券を買って待たずにタンタンメンが食べられた。辛さは「激辛」をチョイスした。

あんのとろみはやや強め

味はほぼ「中華四川」同様。ただし、「激辛」は小田原タンタンメン独特の甘さと辛味のバランスに少し難点がある気がした。あまり辛くすると、甘さと辛さが互いに自己主張をして打ち消し合うような印象がした。元祖店はどうなのか。次回はぜひ「中華四川」でスペシャルCを試してみたいと思った。

中毒性の高い「やみつきの味」

大行列、長時間待ちには少し気が引けるが、一方でそれは、そこまでしてでも食べたいと思う人が多いという証でもある。確かに中毒性というか、ぜひまた食べたいと思わせる味だった。一度は食べてみることをおすすめする。

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