しょうゆからみそ、濃厚みそへ 「札幌ラーメン」

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全国に点在するご当地ラーメン。東京では鶏ガラベースのしょうゆラーメンが主流だが、九州・福岡の塩味のとんこつ、青森では煮干しを粉末にしてスープにするなど、全国各地に様々なラーメンのスタイルがある。そんな中でも、福岡の塩とんこつ、福島・喜多方のとんこつ清湯と並び「三大ご当地ラーメン」の一角を成すのが、みそ味の札幌ラーメンだ。しかし、札幌ラーメンがみそ味になったのは、実は戦後のことだ。

すすきのにあるラーメン横町

札幌ラーメンを代表する製麺所「西山製麺」のホームページによれば、札幌のラーメンの歴史は大正時代末期、中国料理「竹家」から始まるとされる。その後、昭和の初めには、札幌にラーメンが広がり始める。しかし、太平洋戦争が始まると、食糧難から配給制が導入され、ラーメンも廃れてしまう。

元祖を標榜する「だるま軒」ののれん

終戦とともに札幌のラーメンも息を吹き返す。まずはすすきのに「龍鳳」そして「だるま軒」が屋台でオープンする。当時の札幌ラーメンは、みそ味ではなく、しょうゆ味だった。「龍鳳」の消滅に伴い、現存する最古の札幌ラーメンの店と言われているのが「だるま軒」だ。二条市場の一角にある古い店舗は、確かに風格を感じさせる。

「だるま軒」の主力はしょうゆスープ

メニューにはみそ味、塩味もあるが、その筆頭に表記されているのはしょうゆ味だ。店内には「創業七十有余年 本物札幌ラーメンの元祖」との張り紙がある。「麺はかん水と小麦粉だけの自家製麺。スープは、頑固に基本を守り、生の味を大切に生かした毎日食べ続けても飽きのこない味」を標榜する。

「だるま軒」のしょうゆラーメン

店を訪れる客の多くも、その歴史をリスペクトするかのように皆しょうゆラーメンを注文する。伊達巻きが入り、チャーシューも脂身が少ないなど、実にあっさりした味わい。全体的に主張は控えめの、あっさりライトなしょうゆラーメンだ。一方で、もちもちした麺が実に美味しい。実はここ「だるま軒」が、西山製麺のルーツでもある。

西山製麺の源流は「だるま軒」

1953年に「だるま軒」の製麺部門を独立させる形で創業したのが西山製麺だ。今では、この後紹介する、みそラーメンの元祖店「味の三平」をはじめ、札幌の多くのラーメン店で西山製麺の麺が使われるだけでなく、東京など、全国の「サッポロラーメン」を標榜する店の多くで西山製麺製の麺が使われている。

文具店の中にある「味の三平」

札幌ラーメンの代名詞といえるみそラーメンが誕生したのは、その後54年のことだ。編み出したのは「味の三平」の先代・大宮守人氏だ。「みそは体にいい」が持論だった守人氏は、みそ汁をヒントに工夫を重ね、「味噌味メン」を生み出した。これが、後に「みそラーメン」と呼ばれるようになる。

「味の三平」のみそラーメン

そんな札幌のみそラーメンが全国に知られるようになるのは、さらに10年後の1964年のこと。「熊さん」が東京と大阪の百貨店で開催された北海道物産展でみそラーメンの実演販売を行い、評判を高めた。そして東京・上野に札幌ラーメン店が開店、札幌ラーメンが全国的なブームになった。

スープが絡む縮れ麺

札幌みそラーメンで一般的な縮れ麺も守人氏が発案したもの。ストレートが一般的だった麺を西山製麺とともに改良、濃厚なスープがよくからみ、食感も楽しめる麺を開発した。現在では、開発当初よりも麺の太さを細めにしつつ、変わらぬコシと弾力を保つべく、原料の小麦粉や茹で方にもこだわっているという。

あっさり目のスープに辛味噌を後入れ

現在では濃厚な味わいを売り物にすることが多い札幌みそラーメンの中にあって、「味の三平」はさっぱりとシンプルだ。野菜を多く使うのも栄養のバランスを考えてのこと。長ネギ、タマネギ、モヤシ、キャベツをたっぷりと炒め、そこにスープを注いだのも守人氏のアイデア。食事としてのバランスを考えたが故だ。また、スープににんにくを入れたのも守人氏という。他店に比べれば控えめのにんにくだが、そこには元祖なりのチャレンジがあったのだろう。

「すみれ」の味噌チャーシューメン

現在の札幌では、「純連(じゅんれん)」「すみれ」を代表格とする濃厚なみそラーメンの人気も高い。それぞれ初代「純連(すみれ)」の長男と三男が営む両店は、さっぱりした味わいのラーメンが主流の時代から、濃厚な味わいを追求。94年に新横浜ラーメン博物館へ出店すると、その人気と知名度は一気に全国区になった。店頭はもちろん、カップ麺やコンビニエンスストアのチルド麺など様々な派生商品も販売されている。

「けやき」の味噌ラーメン

すすきの新旧「ラーメン横丁」の近くに、ぽつんと小店を構える「けやき」もまた人気店だ。「五感に訴える一品料理としてのラーメン」をキャッチフレーズに、カウンターのみのわずか10席。1杯ずつていねいに中華鍋でつくり上げるその味は、常に長い行列を店の前に作り上げる。

行列が絶えない小店の「けやき」

長い行列を誇る有名店だけでなく、札幌市中心部には実に多くのラーメン店がある。競争が激しく切磋琢磨が求められるのだろう、どの店もおしなべてクオリティーが高い。首都圏など、札幌以外にも多くの店舗で食べられている札幌ラーメンだが、やはり、地元で食べる美味しさは格別だ。魚介や肉など魅力的な食材に事欠かない札幌だが、やはり1食はラーメンを食べてから帰りたいものだ。

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