岩手県釜石市は「鉄と魚とラグビーのまち」として知られる。釜石ラーメンは、そんなまちのくらしの中から生まれたご当地グルメだ。
![駅前にある近代製鉄発祥150周年の記念モニュメント](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/34d8210758afec44e60360d29e86b805.jpg)
製鉄と漁業で賑わった昭和30年ごろ、釜石にはハモニカ長屋と呼ばれる製鉄所の社宅が多く軒を連ねた。そこでのたまのぜいたくがラーメンだったという。給料日には、家族でラーメンの出前を取って食べた。そんな釜石のラーメンは、せっかちな漁師のために、細麺ですぐにゆであがる、待たずに食べられるラーメンだった。
![待たずに食べられる釜石ラーメン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/20736895e367375be34025b5ce24e549.jpg)
あっさり鶏ガラのだしに魚介の風味を生かした、だしの風味を味わうようなスープも漁師町ならではだ。ゴム産業のまち・久留米で誕生したとんこつラーメンに代表されるように、工場の町では、こってりハイカロリーなご当地グルメが誕生しがちだが、釜石では、そこに漁師のくらしも交錯し、中華料理ながら、あっさりヘルシーなラーメンが誕生した。
![あっさりと味わい深いスープ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/d9bad74ef4fb434a50914ffab893be13.jpg)
具もメンマとチャーシューが基本。しかもチャーシューは脂身がなく、あっさり味が特徴だ。
![釜石駅前にある「駅前食堂」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/9fe60a557d1dfff0d5e818343caf8fa6.jpg)
まずは、駅前の特産品・生鮮食品店、飲食店が並ぶ「サンフィッシュ釜石」に入ってすぐの所にある「駅前食堂」で釜石ラーメンを食べてみよう。「駅前食堂」は朝7時から営業しているので、朝ラーメンも可能だ。
![「駅前食堂」の釜石ラーメン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/027e4ea43144aa6d8759e8aebe3bfd93.jpg)
スープの透明度の高さは、見ての通りだ。東京のしょうゆラーメンの倍以上は透明だろう。浮いている油も少なめだ。塩味も含め、味付けは控えめで、その分、だしを味わう。非常に繊細な味で、調味料など加えようものなら、一瞬で味が変わってしまう。ほんの少しのコショウが限界だろう。
![極細の麺](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/6a726b0fec0f41e66cc2ab6c350f5d1c.jpg)
麺は九州ラーメンのような細麺だ。こちらも繊細な歯触り。脂身のないチャーシューでも、チャーシューと一緒に口に含むと負けてしまいそうなほどの味わいだ。具としては、チャーシューよりもメンマとの相性の方がいいように思うほどだ。
![まち中にある「新華園」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/9e226d14636c40edb8cd463cb1e8c554.jpg)
まち外れにある駅から、中心街へ移動する。そこには、釜石の多くの人が「釜石ラーメンを食べるならここ」と口を揃える「新華園」がある。タクシーの運転手に「どこがおいしい?」と問うたところ、即答で「新華園」だった。
![「新華園」の野菜炒め](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/393a018bc6d8ec128ba4c2ca20a72e05.jpg)
「新華園」はラーメン店ではなく中華料理店。点心などもあり、夜には中華料理を肴に宴会客も多い。しかし、わいわいと酒を酌み交わす隣では黙々とラーメンをすする客もいる。地元の人たち誰もが認める、釜石ラーメンの名店だ。
![「新華園」の釜石ラーメン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/e96a9b92a8be805b692e4c127007ef4f.jpg)
早速、地元を代表する釜石ラーメンを食べてみよう。スープの繊細さ、味わい深さは「駅前食堂」とは段違いだった。普段、魚粉をたっぷり使ったつけ麺を食べ付けているような人なら「薄い」とさえ思うだろう。それほどに繊細な味付け。しかし、薄味の向こうに、しっかりとだしのうまみを感じる。
![少し縮れた細麺](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/98ac9f46fc0f6cc7f8f2e39418b937bb.jpg)
少し縮れた細麺も、繊細な歯触り。ゆっくりスープを味わって食べていたら、後半には少し伸び気味になってしまったほど。漁師流にささっと食べるのが、釜石ラーメンのおいしい食べ方かもしれない。
![脂身皆無、下味をしっかりと感じるチャーシュー](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/44a7176c3d2151d70e57a0f97fbaa6a0.jpg)
チャーシューも出色だった。脂身皆無は「駅前食堂」同様だが、下味がしっかり付けられている。かみしめると、肉のうまみとしょうゆの味わいが口じゅうに広がる。スープがより繊細だからだろうか、チャーシューの下味を舌が鋭敏に感じ取る。
![思わず飲み干したくなる「新華園」のスープ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/4d6ddbeee440bb4778bbfcfb01f268dd.jpg)
「新華園」は東日本大震災に伴う津波の被害で店が半壊した。営業を再開した際には、料理の盛りを抑えて価格を下げ、ひとりでも多くの客になじみの味を堪能してもらおうと工夫した。そうしたところも、地元民から愛されている理由なのだろう。薄味と言うこともあり、また、抜群のおいしさに惹かれ、スープは飲み干してしまった。
![鵜住居にある「こんとき」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/1ae4a7a33d14946d987ec7f08611941a.jpg)
ラグビーワールドカップの会場となった釜石鵜住居復興スタジアムの近くにも釜石ラーメンの人気店がある。「こんとき」だ。東日本大震災で店が全壊、長く仮設店舗での営業が続いたが、三陸鉄道鵜住居駅のすぐ近くに新店舗がオープンした。
![「こんとき」の釜石ラーメン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/d0665b55945f0483aff71c960000f115.jpg)
「こんとき」のスープは、「新華園」に比べ、少しパンチがある。出しの風味、味わいの深さは「新華園」同様だが、ほんの少しだけ味が濃いように感じた。普段味の濃いラーメンを食べ付けている人なら「こんとき」の方が食べやすいかもしれない。
![「こんとき」も細麺だ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2020/12/da7bb8883505d11ff4e0a0978458764f.jpg)
市内には釜石ラーメン以外のラーメンを出す店もある。本場の釜石ラーメンを味わいたいなら、食べる前に「釜石ラーメン」の幟は要チェックだ。