東海道、国道1号線の三重と滋賀の県境に位置する鈴鹿峠は、畿内への入り口となる交通の要所だ。高速道路網が発達する以前、まだ道路状況が良くなかった時代、トラック運転手たちは、難所・鈴鹿峠の手前で休息を取り、精を付けてから峠道に向かった。そんなトラック運転手たちの空腹を満たし、難所に挑むパワーの源となったのが、亀山みそ焼きうどんだ。
精を付けるには肉、特に値段が手頃なホルモンがトラック運転手たちに愛された。亀山みそ焼きうどんは、ホルモンのシメに食べたうどんがルーツだ。
中京地区らしく、味付けは赤味噌。トウガラシや日本酒、みりん、にんにく、ゴマ、豆板醤、ラードなど、各店の秘伝の配合が施された赤味噌だ。焼き肉というと網焼きのイメージが強いが、亀山では鉄板が一般的だという。この赤味噌が、したたるホルモンの脂とともに落ちてしまうからのようだ。
豚のホルモンや正肉をキャベツのぶつ切りとともに鉄板に乗せ、この赤味噌で炒めて食べる。鉄板焼きだが、調理の課程で野菜や肉から水分が染み出て、鉄板にはうっすらとみそだれが広がる。この肉の味をたっぷりと含んだみそだれにうどんを入れ、水分を飛ばして食べるのが亀山みそ焼きうどんだ。
高速道路網の発達で、一時、このトラック運転手をターゲットにした食文化にも暗雲が立ちこめた。そこで、やきそばで町おこしを成功させた静岡県富士宮市を参考に、亀山市内でもみそ焼きうどんを旗印にした町おこし運動が始まった。その際に、焼き肉のシメのうどんは、晴れて「亀山みそ焼きうどん」と名付けられた。
まちおこし運動の成果もあり、亀山市内の国道1号線沿いには、現在でもトラックをとめられる広い駐車場を持つ食堂がいくつも点在する。そのうちの一つ「川森食堂」で実際に「亀山焼肉鉄板みそなべ」とそのシメの「亀山みそ焼きうどん」を食べてみる。
テーブルにはコンロがセットされ、その上にはちりとり鍋にも似た美しい輝きを持つ鍋がセットされる。たっぷりの野菜の上には豚肉が乗り、鉄板の四隅には、みそだれをまとったホルモンが並ぶ。先代の時代にはトラック運転手向けらしく、無骨な鉄板で調理していたというが、当代・川森篤さんの代になって、盛り方にもこだわったこのお洒落なスタイルになったという。
コンロに火を付け、全体的に温まってきたら、野菜と肉の山を崩し、全体を炒めていく。すると、みるみるうちにきれいな鉄板に茶色のみそだれが、具材の水分とともに広がっていく。全体に火が回れば食べごろだ。
味の強い赤味噌はご飯のおかずにも良く合うし、もちろんビールも進む。現在、運転手たちの多くは、昼時が終わった頃に来店し、「亀山焼肉鉄板みそなべ」で飲み、腹をふくらませて、運転席後方にあるベッドで体を休めて、夜、鈴鹿峠を越えていくという行動パターンだそうだ。なので「川森食堂」には、ランチタイム終了後の休憩時間はなく、通して営業している。
肉と野菜を食べ進んだらいよいようどんの登場だ。今回はあまりのおいしさに、肉と野菜を食べ尽くしてしまい、改めて肉と野菜を追加して亀山みそ焼きうどんを作ってもらったが、本来は適度に食べ残し、そこにうどんを入れて食べるものだという。
まっしろだったうどんはみるみるうちにみそ色に染まっていく。適度に汁の水分を飛ばせばできあがりだ。肉のうまみをまとったうどんに箸が止まらない。
B-1グランプリに出展するなどして、全国的にも知名度が高まった亀山みそ焼きうどん。現在では、定食を用意するなど、フライパンで調理することも多くなったが、本来は、こうして「亀山焼肉鉄板みそなべ」のシメとして食べるものだとのこと。
店から車を走らせれば、すぐに急しゅんな峠道なる。広い駐車場も圧巻だ。亀山みそ焼きうどんを味わうなら、ぜひ地元で、その歴史とともに味わってほしい。