みそラーメンは、寒い冬にカラダを暖めるのにはぴったりのラーメンだ。全国的に知られているのは、北海道札幌のみそラーメンだが、実は雪国・新潟でもみそラーメンは愛されている。新潟5大ラーメンのひとつに数えられる新潟濃厚みそラーメンが有名だが、実は、もうひとつユニークなみそラーメンが新潟県内には存在する。
妙高・上越のとん汁ラーメンだ。
寒さの厳しい妙高・上越地域では、古くからとん汁が愛されてきた。市内にはとん汁専門店もあるほど。そのとん汁をラーメンにしたのが、とん汁ラーメンだ。
元祖といわれているのが、妙高市の「松茶屋らーめん亭」。他にも、妙高市、上越市内の複数の食堂で提供されている。中華料理店ではなく、食堂メニューのひとつというイメージだ。
まずは、テレビなどでも紹介され、土産物の「とん汁ラーメン」も販売している「とん汁たちばな」を訪ねてみた。看板メニューのとん汁からいただこう。
「たちばな」のとん汁へのこだわりは、大量のタマネギに現れる。大ぶりの豆腐と豚肉はもちろんだが、とにかく椀の中にはこれでもかとタマネギが入っている。砂糖は加えず、タマネギが本来持つ甘さを生かしたというその味は、野菜特有のまろやかな甘さを持つ。
一般のとん汁ではよく見かける根菜やこんにゃくはなく、豚肉と豆腐、そしてタマネギを白みそでまとめ、シンプルかつ、深みのある味を実現する。
味わいは、まさに和食。たっぷりの豚肉だが、タマネギで中和されているのか、脂っこさは感じない。白みそとタマネギの柔らかな甘みが、どこかほっとする味だ。少しトウガラシをふって食べると、さらに体が暖まる。
そしてこのとん汁を使ったラーメンが、とん汁ラーメンだ。文字面だけ見ると、とん汁の中に中華麺を入れたようにも思えるが、そうではない。きちんとニンニクを利かせたみそラーメン上に、とん汁がかかっているのだ。いわば、とん汁はみそラーメンの具なのだ。
その味は、とん汁とは対照的なしっかりみそラーメンの味わい。スープも白みそのとん汁に対して、茶色が強い色合いだ。れんげでスープをすくって飲むと、紛れもないみそラーメンの味。
麺の上には、具としてとん汁が乗る。みそラーメンのスープが強いので、あまりとん汁のスープは感じない。特にたっぷりのタマネギとくたくたに煮込まれた豚肉が、みそラーメンの具としてうまくマッチしている。
対照的なスープの味わいは、最初は全部飲みきれるのかなと心配していたが、結果的には全て飲み干してしまった。結構な量だったが、決して飽きさせない、好対照の味わいだった。
では、妙高・上越のとん汁ラーメンはみそラーメンにとん汁をかけたものなのか? もう1軒、別の食堂でとん汁ラーメンを食べてみることにする。上越市の中心都市・高田にほど近い「七福食堂」を訪ねた。
ここのとん汁ラーメンを見て驚いた。「たちばな」とは違い、丼に入っていたのはとん汁そのものだった。豚肉と根菜がたっぷりと入った、まさにとん汁だ。大ぶりの豆腐とたっぷりのタマネギは「たちばな」同様だ。ただし、たっぷりの具の上に盛られたメンマがラーメンであることを強く主張する。
スープをひとくちすすると…。あれっ。
ニンニクが効いた、明らかに和風のとん汁とは違った味わい。味付け、具の構成はとん汁なのだが「和食ではなく中華だ」とスープが強く主張する。
ちなみに「七福食堂」、地元ではどか盛り店として知られた存在だとか。隣のテーブルでは、地元の若者だろうか、びっくりするほど巨大なオムライスと格闘していた。普通盛りのとん汁ラーメンもけっこうな量だった。
気さくなご主人に疑問をぶつけてみると「とん汁ラーメンだからとん汁じゃないとね。店によってそれぞれ違うようだが」とのこと。どうやらとん汁ラーメン、ルーツこそとん汁に中華麺を入れて食べたことらしいが、明確なレシピは決まっておらず、店によって味が違うらしい。
それを確かめるべく、妙高市と上越市の市境にある「食堂ニューミサ」を訪ねた。地元ではみそラーメンの人気店というが、ここでもとん汁ラーメンが提供されている。「麺ハーフ」の注文ができることから、みそラーメンととん汁ラーメンをそれぞれ麺ハーフで注文した。
予想通り、とん汁ラーメンのビジュアルは「たちばな」とも「七福食堂」とも違うもの。ここで初めて、とん汁の具の定番であるこんにゃくが登場した。ニンジンも妙高・上越初だ。大ぶりの豆腐とタマネギが、どうやらとん汁ラーメンのアイデンティティーのようだ。
見た目は和風のとん汁だが、味はやはり違った。ニンニクやショウガの刺激はおさえられているが、白みその向こう側に、明らかに動物系の出しの存在が感じられる。おそらくとん汁のベースとなる出しがラーメンと共通なのだろう。
一方で、人気のみそラーメンは白みそベースの、とん汁の影響を感じさせるスープだった。とん汁ラーメンとは対照的に、これでもかとニンニクパンチが炸裂する味だった。また、具のモヤシに結構な量のタマネギが加わっていた。これも、妙高・上越地域ならではなのだろう。どことなく、とん汁ラーメンとの共通項を感じる。
2杯並べて食べてみて気づいたのは、とん汁ラーメンのスープの熱さ。みそラーメンが時間がたつにつれて冷めてきたのに対し、とん汁ラーメンは最後まで熱々のままだった。そもそも寒い中で暖を取るために好んで食べられたというとん汁のルーツがしっかり生かされたラーメンだった。
元祖の「松茶屋」はじめ、他の店はどんな味なのだろう? また来て食べ比べたい衝動に駆られた。妙高・上越のとん汁ラーメン、なかなか奥が深そうだ。