家庭でも簡単、産地の味 「大分ニラ豚」

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中国原産で、中華料理や韓国料理には欠かせない緑のニラ。日本でも広く好んで食べられているが、その生産地は意外に限られている。農林水産省が公表した令和2年産野菜生産出荷統計によれば、県別出荷量が計上されているのは、高知県をトップに、栃木、茨城、宮崎、北海道、大分、群馬、山形、福島、千葉、熊本、福岡、長崎、兵庫の1道13県に限られる。他の都府県では出荷量が計上されていない。中部、中国両地方、さらには兵庫で少量されているものの近畿地方もほぼ生産がない。一方で、九州では佐賀・鹿児島を除く5県で生産されており、大分・宮崎両県(計6230トン)は、広域で見ると栃木・茨城両県(計15770トン)、高知県(13200トン)に次ぐ生産量を誇る。九州、特に大分・宮崎はニラの一大産地なのだ。

「王府」のニラ豚とニラチャン

そんな「ニラどころ」大分のご当地グルメがニラ豚だ。1971年に大分市内に開業した中華料理店「王府(わんふ)」が考案、その後、大分各地に広がった。大分県内でニラの生産が始まったのは、その3年前。「大分市の特産品を使って安くておいしい料理を作ろう」と誕生した。現在では、大分市による「ニラ豚PR大作戦」のホームページには、実に93店もの市内提供店が紹介されるほど、地元で幅広く愛されている。

看板に「元祖」の字が躍る

「王府」の繁盛ぶりは、市民の「ニラ豚好き」の映し鏡でもある。JR日豊本線高城駅そばにあるお店は、広大な駐車場を持つものの、ランチタイムなどは満車状態。入り口を入ってすぐには椅子が置かれ、席が空くのを待つ人々が行列を作っている。とはいえ、店内は広く、料理の提供スピードも速いため、思っていたほどは待たされない。席に着けば、周囲のテーブルでは、多くの客が看板メニューのニラ豚、そしてニラチャンに舌鼓を打つ。

「王府」のニラ豚

まずはそのニラ豚から。実にシンプルな炒め物だ。ニラと同量の豚肉、キャベツを炒め、九州ならでは甘い醤油をベースに味付けしてある。「王府」では豆板醤だろうか、辛味も加わる。口に入れるとまず甘み、その後から辛味が追いかけてくる。ビールにもよく合うが、白いご飯にもぴったりだ。

「王府」のニラチャン

そして、ニラ豚に次ぐ看板メニューのニラチャン。ニラ入りのちゃんぽんといったところだろうか。ニラ豚とは違い、ニラと豚肉を炒めたものがラーメンの上にのっている。キャベツはなく、代わりに半熟卵が加わる。ちゃんぽんというよりは、ラーメンに近い感覚だ。

広い「王府」の店内 回転は速い

両メニューともとにかくあっという間に出てくる。ゆっくりビールを飲んでいる暇がないほどだ。さっと食べて席を立ち、待っている人たちに席を譲るのが大分市民のマナーのようだ。

東京で食べたニラ豚

大分市役所では、市外でもニラ豚のPRを積極的に展開している。これまでにも、銀座にある高級大分料理店「座来」でPRイベントを開催したり、有楽町駅前で無料でニラ豚を振る舞ったりと、その魅力を都心でも訴える。

キャベツと豚肉をニラの幅にそろえる

「王府」のニラ豚を「シンプルな炒め物」と紹介したが、実は家庭でも簡単に調理できるのがニラ豚だ。素早い調理の秘密は、食材の切り方にある。ニラは5~6センチの長さに、豚肉とキャベツはニラの幅を参考にして刻む。細かく刻むことで、火が通りやすくなる。

家庭でも大分の味を

問題は味付けだ。甘い九州のしょうゆがあればいいが、みりんや砂糖を加えることで、ニラ豚ならではの甘みは再現できる。中華だしやオイスターソースも加えて中華の風味を加えれば、なお中華料理っぽさを演出できるだろう。「王府」風を再現したければ、豆板醤を入れるといい。なければ、少量の一味唐辛子やラー油でも代行できるだろう。

ニラ豚のタレも

味付けに自信のない人には専用のタレもある。大分市内のユワキヤ醤油や臼杵市のフンドーキン醤油から専用のタレが発売されている。首都圏で店舗展開する「日本百貨店」やデパートの物産展などでも扱われている。もちろんネットでのお取り寄せも可能だ。ニラと豚肉、キャベツはいずれも入手しやすい食材だけに、これさえあれば、簡単に自宅でニラ豚が調理できる。

家庭で簡単に調理できる

なぜこの味が全国区でないのだろうと不思議に思うほどオーソドックスな中華料理だ。ビールのつまみにもご飯のおかずにもぴったりで、ニラ豚が嫌いという人はそう多くはないだろう。大分を訪れた際にはぜひ食べてほしいが、全国各地、家庭でも調理して味わってみてほしい。決して損はさせないので。

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