高知県のぼうしパンや滋賀県のサラダパン、青森県のイギリストーストなど、全国に点在するご当地パン。地元では誰もが知っている、それこそソウルフードのような存在にもかかわらず、いざ地元を離れると、とたんに全く消えてなくなってしまう個性的なパンたちだ。群馬県沼田市にもそんなご当地パンが存在する。みそパンだ。
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みそパンは、群馬県に限らず、北海道や福島県、長野県などにも存在する。それらの多くはパン生地にみそを練り込んであるものだ。しかし、群馬県では、フランスパンなどに包丁を入れて開き、そこにみそ味のたれを塗り込んだものだ。いわば「みそサンド」といった体裁になっている。
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群馬では、小麦粉を好んで食べることが知られている。埼玉県北部から群馬県にかけては、米の裏作として麦が作られており、それが故に小麦粉をよく食べる。うどんは全県でよく食べられているし、高崎は近年パスタのまちとしても知られる。そんな群馬の小麦粉好きの象徴的な存在である焼きまんじゅうが、実はみそパンのルーツになっている。
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まんじゅうといいつつ、焼きまんじゅうのまんじゅうは、小麦粉やもち米にどぶろくを加えて発酵させたものだ。パンに使うイースト菌同様、生地を発酵させることでふかふかの食感になる。食べたことがある人なら分かるだろう。焼きまんじゅうの食感は、限りなくパンに近い。そして焼きまんじゅうの味付けはみそが基本だ。つまり焼きまんじゅうのテイストをそのままパンで再現すれば、みそパンになるのだ。
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では実際にみそパンを食べてみよう。群馬で、沼田でみそパンといえば、誰もがまず「フリアンのみそパン」を思い浮かべるはずだ。フリアンパン洋菓子店は沼田市内に本社・工場があり、「地方色豊かなパン造り」「地方色を背景にしたもの造り」そして「名物はその土地の気候風土人柄によって発生する」を指針とする地元のパン屋さんだ。
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地産地消をめざし、地元農家と契約、素材の鮮度にもにこだわっている。小麦も農家と契約、地元産にこだわる。仕込みに使う水は、尾瀬の名水だ。沼田市周辺は水が良く、造り酒屋やワイナリーも多い。そんな質の高い水をパン作りにも取り入れる。しかも手作り。ベーカリー調の直営店だけでなく、地元スーパーにも「フリアン」のコーナーを設けて、大手パンメーカーの製品と並んで袋入りのパンを販売する。
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実際に「フリアン」のみそパンを食べてみよう。パンを切って開き、そこにあんこやジャムなどを塗り込む場合、一般的にはコッペパンが使われることが多い。しかし、「フリアン」のデフォルトのみそパンに使われているのは、特製ソフトフランスパン。バケットではなく、ちょっと柔らかめの歯触り優しいパンだ。石窯でていねいに焼いているという。
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みそだれは、甘じょっぱい味付けで味は濃いめだ。これがシンプルで口当たりの柔らかいソフトフランスパンに良く合う。甘みと塩味のバランスで、いくらでも食べ進められる。ちなみに、みそだれに加えマーガリンが塗られた「フランスみそバター」も店頭に並ぶ。
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胡麻みそコッペもある。その名の通り、特製ソフトフランスパンではなく、コッペパンを使ったみそパンだ。フランスパンバージョンとは対照的に、ややしっかりした歯ごたえのコッペパンを使用。中に塗られているのは、通常のみそだれと胡麻。しっかりした歯ごたえでパンを噛みしめていると、口の中に胡麻の香りが湧き上がってくる。
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味噌パンのバリエーションはさらにある。バネットみそは、フランスパンの一種であるバネットにみそだれを塗り込んだもの。ソフトフランスパンやコッペパンよりパン自体に厚みがあるため、食べ応えがある。
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「フリアン」だけで、ここまで色々とバリエーションがあると、みそパンは「フリアン」ならではの商品のようにも思えてくるが、決してそうではない。「パディベーカリー」「パン工房すとうさんち」「パン工房UTAKANO」など沼田市内の多くのベーカリーでみそパンが作られ、販売されている。みそパンは、沼田市民に広く愛されているのだ。
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ユニークなのは、沼田市を本拠に水上や月夜野などに店舗展開する地元スーパー「サンモール」。店内のベーカリーコーナーにオリジナルの自家製みそパンを並べている。その隣には、味噌まんじゅうパンもあった。いかに沼田のみそパンの裾野が広いのかを実感できた。
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ちなみに、沼田市以外ではどうか。ネットで調べて太田や伊勢崎でみそパンを販売している店舗を尋ねてみたが、いずれもすでに閉店しているようだった。やはりみそパンと言えば沼田なのだろう。ただ、高崎や前橋ではその姿を確認できた。高崎市が発祥とも言われるご当地パン・バンズパンにみそだれを塗ったみそバンズだ。バンズパンは、高崎市内の学校給食にも使われるという、ふんわりとした生地を甘いビスケット生地と合わせたドーム型のおやつパンだ。
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焼きながらみそを塗る焼きまんじゅうは独特の香ばしさがあるが、上手に食べないと手や口の周りがみそでべたべたになってしまう。しかし、みそパンならそんな群馬ならでは甘じょっぱい味を手や口の周りを汚さずに食べることができる。そんな手軽さも、群馬の人々にみそパンが愛される理由の一つかもしれない。