シンプルイズベスト「横浜のサンマーメン」

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横浜のご当地ラーメンというと、現在では濃厚スープの「家系ラーメン」を思い浮かべる人が多いだろう。しかし「家系ラーメン」が誕生したのは1970年代のこと。それ以前は、横浜のご当地ラーメンと言えばサンマーメンがその代表格だった。サンマーメンとは、モヤシや白菜、豚肉などが入った野菜炒めにスープを入れ、とろみをつけてトッピングしたラーメンだ。

戦後に誕生

そのルーツは肉絲(ルースー)麺と言われている。戦前から横浜中華街ではよく食べられていた肉そばたが、高価だったため、戦後になると、まかないとして野菜をたっぷりに入れた「サンマーメン」が作られるようになった。あんかけにすることでスープが冷めにくく、ボリュームもあり、腹持ちもいいことから人気となり、やがて県内各地の中華料理店に広がっていた。

横浜の町中華には必須のメニュー

横浜中華街で1884年に操業した「聘珍楼横浜本店」が、1930年に当時の料理長がサンマーメンを考案、メニューに掲載したとされる。しかし日比谷や大阪などの店舗の営業は続くものの、残念ながら、横浜本店は2022年にその歴史に終止符を打った。

モヤシのしゃきしゃき感が魅力

漢字で「生馬麺」あるいは「生碼麺」と表記することも多いが、これは広東語の読み方で、やや甘めの味付けも広東風だ。「生=サン」は「新鮮でしゃきしゃきした」と言う意味で、「馬=マー」は「上にのせる」と言う意味があるという。つまり新鮮な野菜や肉をしゃきしゃき感が残るように、さっと炒めて麺の上にのせた料理がサンマーメンという訳だ。

味付けは店によって様々

地元飲食店によるかながわサンマー麺の会のホームページによれば、サンマーメンの明確な定義はなく、具や調味料も店によって様々で、しょうゆ味が多いものの、スープとあんともにしょうゆ味の店、スープはしょうゆ味だが具は塩味という店、さらにはスープ・あんともに塩味という店もあるという。そんな中でも特に存在感を発揮しているのがモヤシだ。価格が安く、シャキシャキとした口当たりも良く、ボリュームもあるのでサンマーメンには欠かせない食材となっている。モヤシを多く使うラーメンは、札幌味噌ラーメンなど他にも多いが、モヤシを多く使い、さらにとろみをつけてあんかけにすることが、いわゆるモヤシラーメンとサンマーメンの違いと考えればわかりやすいだろう。

「玉泉亭」

実際にサンマーメンをお店で食べてみよう。まず最初に訪ねたのは、1918年創業と100年超の歴史を誇る伊勢佐木町の「玉泉亭」。西洋料埋、中華料理、日本料埋の意味で「三国料理」と銘打って開業している。サンマーメンは2代目時代に提供を開始、同店の看板メニューで、元祖店との声もある。中国風の脂っこさを和らげ、あんかけにすることで、日本人の舌や好みに合わせたという。

「玉泉亭」のサンマーメン

やや濃いめの色が特徴のスープの上に、モヤシをたっぷり含んだ真っ白な塩味のあんがのっている。あんはしょうゆスープに溶け込むことなく、しっかりとその存在感を保っている。札幌みそラーメンやモヤシラーメンでは、モヤシがスープと渾然一体になっていることが多いが、スープとあんがしっかり役割分担しているところに「サンマーメンらしさ」が主張されている。

麺があんをまとって上がってくる

あんの下から麺を引き出すと、しっかりと麺があんをまとって上がってくる。スープもあんも決して自己主張せず、互いにその存在を補完し合っているかのようだ。日本人の舌に合わせたというその味わいは、あっさりしつつもしっかりうまみを感じ取ることができる。

「龍味」

続いて訪れたのは、横浜駅地下・エキニア横浜の地下1階にある「龍味」。サンマーメンに限らず、横浜を代表する町中華の名店だ。週末の昼時に訪れると、店の裏手にある搬入口に至るまで長い行列ができていた。しかし、回転が速いため、それほど長時間待つわけではない。

「龍味」のサンマーメンとギョウザ

さっそくサンマーメンを注文する。何と550円という安さだ。ラーメンに至ってはワンコインでおつりがくる。この安さもまた人気の秘密なのだろう。あまりの安さに、ギョウザも追加注文してサンマーメンの到着を待つ。

ボリューム満点

運ばれてきたサンマーメンは、その安さからは想像できないほどのボリュームだ。「玉泉亭」同様、しょうゆ味のスープに塩味のモヤシあんがのる。「玉泉亭」同様スープの色はやや濃いめだ。しかし、味はあっさりと優しい味付け。あんとともに強い自己主張はない。

スープの色はやや濃いめ

あんにはしっかりととろみが付いている。あんを押しのけ、麺を引き出す。麺もまた奇をてらわないごく普通の中華麺だ。しかし、スープ、具、麺ともに主張しないこの組み合わせがなんとも絶妙なのだ。素直な味付けだからこそ、何度も食べたくなるのだろう。少し酢を垂らして酸味を効かせると、俄然味が華やいでくる。

あんがスープに馴染んでくる

食べ進むうちにどんどんあんがスープに馴染んでくる。スープを飲み干す意識はなかったが、具をすべて食べきろうとしているうちに、すっかりスープも飲み干してしまった。なんともシンプルイズベストな味わいだった。

シンプルイズベストな味

タンメンでもない、モヤシラーメンでもない。サンマーメンの証と呼べるのはあんのとろみだけかもしれない。このシンプルで、絶妙のバランス感こそサンマーメンの魅力なのだろう。

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