群馬県は、県別の豚の飼育頭数で、鹿児島、宮崎、北海道に次ぐ全国第4位、本州では1位(農林水産省「畜産統計」、2019年2月1日現在)を誇る「豚肉王国」だ。銘柄数も30以上ある。生産だけでなく、もちろんよく食べる。県内のあちこちにおいしい豚肉料理が点在する。その一つがもつ煮だ。
豚の白もつを、名産のこんにゃくなどと一緒に煮込み、味噌やショウガで味付けする。もつ煮というと「酒の供」のイメージが強いが、群馬県では「飯の友」としても愛され、群馬県民のソールフードとも呼ばれている。
伊勢崎市の「日の出食堂」、高崎市の「だるま食堂」など県内各地に人気店が存在するが、その中でも特に人気店として知られるのが、渋川市の「永井食堂」だ。国道17号線が、関東平野を抜け上毛三山へと差し掛かる山坂道の途中にあるモツ煮の専門店だ。広い駐車場を有するが、開店とともにすぐにいっぱいになり、昼時には長い行列ができることでも知られる。
駐車場こそ広いが、店内はカウンターだけ。多くのファンが、肩が触れ合うようにしてもつ煮をほおばる。もつ煮定食はお盆に乗せて供されるが、横向きにするのはNG。縦置きされたお盆を横向きに置きなおすと、元に戻すよう「警告」が発せられる。狭いテーブルに一人でも多く座れるようにとのことだろう。
材料は白もつとこんにゃくのみ。根菜類は入らない。ここに別添えの刻みネギを添え、七味唐辛子をふりかけていただく。甘い味噌味だが、ニンニクの風味が非常に強い。これが食欲を増す。
もつの軟らかさは出色だ。じっくり軟らかく煮こまれているのにも関わらず、もつの内側にはしっかり脂も残る。味噌と合わさった濃厚な味わいが楽しめる。安居酒屋では、煮すぎてひからびたようになってしまったもつに出合うこともあるが、そこは人気店、ていねいに調理されている。
驚かされるのが、定食の白いご飯のおいしさ。そして煮込みのたっぷりの汁が、ご飯のおいしさをさらに引き立てるのだ。ふと隣の席に目をやると、煮込みの汁をまるでお茶づけのようにたっぷりかけて食べている。「郷に入っては、郷に従え」。ご飯に汁ごとたっぷりともつをのせて食べる。
これが抜群のおいしさだ。プリン体の多いもつ、しかも水溶性のプリン体がどっぷり溶け出た煮汁は、高尿酸血症患者にはおすすめできないが、この味を覚えてしまうと避けて通ることができなくなりそうだ。中毒性の高い「禁断の味」だ。
テレビ番組で「もつ煮の自動販売機」が話題になったが、併設された売店で、袋入りのもつ煮を買って持ち帰ることもできる。要冷蔵なので、持ち帰り用にクーラーボックスを持ってでかけたい。
日曜日は食堂が定休日。売店で持ち帰りのみの販売だが、それでも開店前から行列ができていた。大変な人気店だ。とはいえ、そうまでしてでも食べたい味であることは間違いない。