うどんとご飯のダブル炭水化物 「豊橋カレーうどん」

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どて煮、みそかつなど八丁味噌を多用したり、コーヒー1杯でゆで卵やトーストが食べられる喫茶店のモーニングなど、愛知県の食文化は独特だ。そんな「愛知の味」のひとつにカレーうどんがある。名古屋市内には「若鯱家」はじめ、多くのカレーうどんの店がある。一方で、東三河地方の中心都市・豊橋にも名古屋とはひと味違った個性的なカレーうどんがある。豊橋カレーうどんだ。

東三河地方の勇壮な手筒花火

東三河地方は古くから、温かいかけうどんの上に、かまぼこ、刻んだ油揚げ、茹でた青味野菜、花かつおをのせた「にかけうどん」で知られる。2009年に、地元活性化を図るため、豊橋観光コンベンション協会、豊橋商工会議所、豊橋麺類組合有志、市などが連携し、豊橋の新たなご当地グルメを模索する。その中から生まれたのが豊橋カレーうどんだ。

福神漬けまたは壺漬け・紅しょうがを添える

豊橋カレーうどんの必須要件は、①自家製麺を使用すること、②器の底から、ご飯、とろろ、カレーうどんの順に入れること、③豊橋産うずらの卵を使用すること、④福神漬けまたは壺漬け・紅しょうがを添える、⑤愛情を持って作る――の5つだ。ご当地グルメブームを背景に、全国各地で新たな創作メニューが次々と誕生、しかしそもそもなじみがない、地産地消にこだわったが故の高コストなどで、その多くが瞬く間に姿を消した。そんな中で生き残り、定着した数少ない存在が、豊橋カレーうどんだ。

うずらの卵は必須

その最大の特徴は、とろろご飯とうどんの二重構造。かけうどんなど、汁物の麺は、つゆを残しがちだが、カレーはそもそも、日本の家庭ではご飯と一緒に食べるもの。そこで残しがちなカレーうどんのカレーをご飯と一緒に残さず食べてもらおうというのが、発想の原点だ。ちなみに、うずらの卵は、豊橋市が市町村別の生産高で日本一を誇る特産品だ。豊橋の象徴としてトッピングに採用された。

うどんとご飯のダブル炭水化物

美味しさのポイントになっているのがとろろの存在。まず丼にご飯を盛り、その上にとろろをかけてから「カレーうどん」を盛るのだが、とろろがカレー汁からご飯を防御する役割を果たしているのだ。カレー汁がご飯に混ざり合わないようにすることで、カレーうどんはカレーうどんとして、そのままの味で食べてから、改めてカレーライスを味わえるようになっている。とろろがないと、うどんを食べ終える前に、ご飯がカレー汁の中に混じってしまうのだ。

「玉川」の豊橋カレーうどん

実際に豊橋を訪れて、地元の豊橋カレーうどんを食べてみよう。歴史が浅いにもかかわらず、豊橋カレーうどんの提供店は約40店にも及ぶ。いかに地元に定着したかが分かるだろう。まずは戦前から「勢川」と並び、にかけうどんの老舗として知られる、1909(明治42)年創業の老舗「玉川」を訪れた。

エビフライをトッピング

「玉川」の豊橋カレーうどんは、老舗にもかかわらず、非常にバリエーションが豊富だ。デフォルトでは、うずらの卵の他に野菜の素揚げとチキンカツがトッピングされているが、エビフライやロースカツ、牡蠣フライなどフライや天ぷら、からあげ類を好みで選んでトッピングできる。

まずはカレーうどんとしていただく

愛知県らしく、エビフライをトッピングしてみた。一般的にカレーうどんのカレーは、だしにカレー粉を入れ、片栗粉で軽くとろみをつける程度だが、豊橋カレーうどんのカレーはしっかりルウだ。なので、天ぷらよりもフライの方が相性がいいと感じだ。まずはエビフライをかじりながら、うどんをすする。

(写真:下にはとろろご飯)

うどんを食べ終えると、カレー汁の下から、うっすらとろろが見えてくる。さぁ、カレーライスの始まりだ。とろろの存在は、単にカレー汁からご飯を保護するだけではない。シンプルなカレーライスにはない、味の膨らみをとろろが与えてくれる。それが、単なる「カレーうどん+ライス」ではない、豊橋カレーうどんの存在感だ。

「つるあん」の豊橋カレーうどん

もう1軒、2023年に豊川市初の道の駅としてオープンしたばかりの「道の駅とよはし」内にある「つるあん」で豊橋カレーうどんを食べてみた。「つるあん」の豊橋カレーうどんの最大の特徴は、東三河のお祭りには欠かせない手筒花火を模したトッピングだ。これまた、豊橋土産の定番であるちくわに、地元特産の水菜などを詰めて揚げた天ぷらがのっている。かなりのボリュームだ。添えられた福神漬けは、手筒花火の火花がモチーフだそうだ。創作ご当地グルメらしく、地元色をこれでもかと打ち出した演出だ。

豊橋名物のちくわ

ただでさえ、うどん+ご飯のダブル炭水化物、それだけでお腹いっぱいは必至だが、その上にこのボリューム満点の「手筒花火」だ。食後は、満腹感に苛まれること請け合いだ。「つるあん」で豊橋カレーうどんを食べるに際しては、じゅうぶんにお腹を空かせてから訪れることをおすすめする。

菜飯田楽

豊川は、明治以前からの伝統的な郷土食である菜飯田楽で知られるが、若者を中心に、豊橋カレーうどんの人気は菜飯田楽に勝るとも劣らない。とはいえ、地元以外ではなかなか食べることができないのが現状だ。何かの機会に豊橋を訪れることがあったら、ぜひ一度食べてみてほしい。

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