知られざる「ご当地焼肉」~二大焼肉好きのまち 長野県飯田市VS北海道北見市~

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ご当地ラーメンやご当地やきそばをはじめ、全国には個性的なご当地グルメが様々あり、地元の人が愛するご当地グルメは旅の楽しみの一つになっています。

ところで「ご当地焼肉」をご存じでしょうか。神戸牛や松阪牛に代表される高級ブランド和牛ではなく、地元の人が日常的に食べる、いわば庶民の焼肉。となれば、もちろんロースやカルビもありますが、ホルモン系やハラミ、タンといった内臓肉が主役。安くてうまい焼肉・ホルモンというわけです。

焼肉日本一のまち 長野県飯田市

まだあまり知られていない「ご当地焼肉」ですが、焼肉のまちとして密かなブームになっているまちがあります。一つは長野県飯田市。焼肉日本一のまちとして、度々メディアに登場していますが、何が日本一かというと、人口当たりの焼肉店舗数。ある意味で日本一焼肉が好きなまちとも言えます。

鉄板で焼く飯田焼肉
鉄板で焼く飯田焼肉

飯田焼肉の一番の特徴といえるのは、「ゆでホル」と呼ばれる、事前に茹でたホルモンが一般的なこと。ホルモンは焼きあがるのに時間がかかりますが、ゆでホルは火が通っているので、ちょっと焦げ目がつくくらいですぐに食べられます。柔らかく、適度に脂を残したゆでホルは、もともと工事関係の労働者の「仕事終わりに早く食べたい」という希望に応えて、「徳山」というお店で出したのが始まり。初代が市内の焼肉店に下ごしらえを教えたため、飯田ではそれが当たり前になったようです。

黒モツは表面がサクサクになるまで焼いて
黒モツは表面がサクサクになるまで焼いて

また通常焼いただけでは固くて食べられない「黒モツ」が日本で唯一食べられます。ホルモンで人気のミノですが、ミノは通常、黒くてかたい部分はそぎ落とすのですが、黒モツは黒い部分ごとミノをゆで上げることで、その触感も楽しめます。現在では黒モツを除く生のホルモンもありますが、地元ではゆでモツが人気です。

カーリングだけじゃない 北海道北見市

もう一つは北海道民には焼肉のまちとしてよく知られている北見市。カーリングのロコ・ソラーレの活躍で、全国的にも知名度が高い北海道のまちの一つです。北海道では人口当たりの焼肉店舗数1位。全国でも飯田に続いて2位になっており、焼肉店を日常的に居酒屋代わりに使う、やはり焼肉好きのまちです。

網の上で塩コショウを振る
網の上で塩コショウを振る

北見焼肉の一番の特徴は、その食べ方。焼肉といえば塩かたれで食べますが、北見ではたれのかかっていない肉に塩コショウを振り、それを焼いてからたれをつけて食べるのが一般的。ちょっとエッジが立つような印象で、地元の方の食べ方が楽しめます。

白モツは一つずつではなくまとめて
白モツは一つずつではなくまとめて

ちなみに東京では焼鳥や串焼きで食べる豚の白モツ(豚の腸)ですが、北見では焼肉店のメニューに当たり前のようにあります。やはり塩コショウを振り、まとめて網に乗せて豪快に焼き、たれでいただきます。

どちらも「ご当地焼肉」ですが

両地域の共通点として、メニューに羊肉があることにちょっと驚きます。羊はジンギスカン専門店食べるイメージですが、焼肉店ではあまり聞いたことがありません。北海道や長野では、昔から羊を食べる文化がありますが、焼肉好きが多いのは、もしかするとそうしたことも関係しているのかもしれません。

一方でたれはそれぞれ個性的。もちろん店ごとの違いはありますが、飯田市では醤油ベースでにんにく・唐辛子をたっぷり使い、野菜・果物なども加えたさらっとしたたれ。半年から1年熟成したものを使います。

元祖店「徳山」の甘ダレと辛ダレ

対する北見では醤油ベースで野菜や果物のすりおろしなどを合わせ、火入れをしないので賞味期限が4日ほどの通称「生だれ」と呼ばれます。

老舗店「四条ホルモン」の生だれ

「熟成だれVS新鮮だれ」という違いがありながら、どちらも地域でも当たり前の「焼肉のたれ」。ご当地焼肉の奥深さが垣間見えます。

<二大ご当地焼肉:標準的特徴の比較>

  長野県飯田市 北海道北見市
たれ 半年から1年熟成
醤油ベースににんにく・唐辛子
賞味期限4日程度
野菜果物すりおろしフルーティ
肉の種類 牛・豚・羊 牛・豚・羊
部位 ゆでモツ(黒モツ)・豚カシラ ハラミ・豚白モツ
焼き台 ガス台にスリット鉄板 七輪炭火に網
食べ方 大量の野菜とともに食べる 塩コショウを振ってからタレで

ご当地焼肉とは

ところで「ご当地焼肉」というからにはその地域性を知りたいところ。違いはたれの味や主に食べる肉の種類や部位にもあるのですが、茹でてあるもつを食べたり、塩コショウを振ってからたれで食べたりという、いわば「作法」や「掟(おきて)」ともいうべき食べ方の特徴にも面白さがあります。

また各地域の焼肉店で独自に進化したメニューの存在もユニーク。例えば岩手県の盛岡冷麺やB-1グランプリで有名になった青森県の十和田バラ焼きや岡山県の津山ホルモンうどんなど。現在では食堂などにもあるメニューですが、もともとは焼肉店の締めのメニューとして親しまれているものです。

盛岡冷麺は粉やスープが韓国の冷麺とも違います。十和田バラ焼きは焼肉の締めご飯のおかずとして、米軍基地に関係する食文化の一つ。津山ホルモンうどんは焼肉・ホルモンを網ではなく鉄板で焼くことから、最後に麵を入れて残った肉や野菜と炒めた締めメニューです。

〆の十和田バラ焼きは牛肉のだしを吸った玉ねぎでご飯を食べたのが始まり
〆の十和田バラ焼きは牛肉のだしを吸った玉ねぎでご飯を食べたのが始まり

こうしたことから「ご当地焼肉」とは、「たれ、肉の種類や部位、食べ方、締め方、独自メニューなどを含めた、地域性を持つ焼肉・ホルモンの文化」と定義できます。

上述の盛岡冷麺や十和田バラ焼き、津山ホルモンうどんなどは、単品メニューのご当地グルメとして知られていますが、これらが焼肉店で誕生したメニューであることは意外に知られていません。

人気店「三枝」の津山ホルモンうどんは鉄板で
人気店「三枝」の津山ホルモンうどんは鉄板で

焼肉のご当地性はほとんど世の中に注目されていませんが、そもそも焼肉に地域性があると思われていないことで、店ごとの違いはあっても地域性があるかは意識されず、また地元の人にとっても当たり前すぎることで、特徴が発信されることが少ないのが、その理由かもしれません。

ちなみに地元の人と一緒に行かなければ、飯田でゆでたホルモンを頼むことも、北見で塩コショーを振って焼き、たれで食べることもしていなかったでしょう。地域外からのビジネスマンや観光客が、普通に焼肉店として食べていても安くておいしいので、そうした地元の食べ方を知らぬままの人も、きっと少なくないのだと思います。

地元ならではの「作法」や「掟(おきて)」から〆方までを知って楽しむ「ご当地焼肉」。その面白さが知られてくれば、コロナ後のご当地グルメの注目株になるかも知れません。

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