屋台と言えば誰もが九州を思い浮かべるだろう。福岡・中州をはじめ、小倉や久留米にも目抜き通りに屋台が軒を連ねる。一方、四国で屋台と言えば高知だ。高知市の歓楽街、追手筋に交差するグリーンロードには、夜7時頃から屋台が営業を始める。その明かりは深夜まで絶えない。酒好きのパラダイスだ。
高知の屋台の名を全国に知らしめたのは餃子だ。人気の屋台はいずれも餃子を売り物にする。単に屋台と言うより、「高知屋台餃子」の名で知られていると言っても過言ではないだろう。実際に高知を訪れ、屋台で一杯やってみよう。
まず訪れたのは、高知屋台餃子の中でもトップクラスの人気を誇る「安兵衛」だ。JR高知駅からはりまや橋方面に向かい、高知橋を渡った先を右に入ったところに「安兵衛」はあった。博多や久留米の屋台のように、ガラス戸やビニールで囲まれた空間を予想していたのだが、意外や意外、オープンスペースの屋台だった。
元々は駐車場だったのだろうか。塀に囲まれたアスファルトの上には常設の屋根もある。その下に、仮設の店舗がしつらえられていた。調理台部分はまさに屋台だが、その奥には広大なテーブル席まで作られている。訪れたのは南国とは言え2月。上着を脱いで呑んでいるとさすがに寒かった。
メニューは実にシンプル。看板メニューの餃子の他はおでんとラーメンのみだ。腰を据えて呑もうと思っていたが、地元の人も長尻はしない。驚かされたのは、「安兵衛」に限らず、シメではなく最初からラーメンを頼む客も多いことだ。さっと呑んで食って、席を空ける。
調理スペースは手前から餃子を包む工程、背後に餃子を焼くレンジ。おでん鍋、ラーメンの調理場と連なる。メニューが限られるので、完全分業体制だ。それぞれに専任者が貼りつく。目にも止まらぬ早さで餃子を包む。作り置きせず、包み立てをすぐさま焼く。
餃子を焼くのはフライパンだ。包みたての餃子を焼き、仕上げに油を投入する。餃子を揚げ焼きにするのだ。たっぷりの油を注いで加熱し、最後に油を切ってから皿に盛る。福島の円盤餃子や千葉のホワイト餃子にも似た調理法だ。
西日本らしく、たれは餃子のたれ。すでに調合済みだ。ここにラー油を好みで投じる。餃子が焼き上がってきた。サイズは思ったより小さい。たっぷりの油を使うので、餃子の半分以上が「揚げ」られた状態になっている。
皮が非常に薄いので、油で揚げられた皮の食感がカリカリで、これがビールによく合う。揚げワンタンにも似た感覚だ。あんは野菜が勝る。特にニラの香りが鼻腔をくすぐる。この後もう1軒、屋台餃子をはしごしたが、やはり高知の餃子のカギはニラにありそうだ。
色々食べてみたかったのでラーメンは避けたが、おでんは食べておきたい。高知ならではのおでんだねがすまきだ。関東でよく見かける紅白の蒲鉾を、板付きではなく簀巻きにしたもの。中心部は白く、周囲はピンク色だ。簀の子で巻くので、表面が段々になっている。プリプリした食感で、薄味のおでんだしで炊くといい酒のつまみだ。
後から隣に座った若者は、すでにラーメンをすすっている。一瞬味見してみたい衝動に駆られたが、ここでラーメンに手を出してしまってはそこで「シメ」だ。ぐっと我慢して席を立ち、近隣の屋台をもう少し覗いてみる。少し歩くと、やはり人気店という「松っちゃん」が眼に入った。「安兵衛」とは対照的に、周囲は厚いビニールで囲まれている。博多スタイルの「クローズド屋台」だ。
さらにはりまや橋方面に歩くと「じゅんちゃん」に至った。こちらもクローズドスタイルだ。しかも入り口は引き戸になっている。確かに仮設なのだが、かなり常設に近い建造物だった。
屋台を囲むようにカウンター席があり、その周りにはテーブル席もある。カウンターに腰掛け、目の前のおでん鍋をのぞき込む。色とりどりのおでん種が、ぎっしりと並ぶ。すまきはすでに「安兵衛」で食べていたので、牛すじ盛りを注文する。牛すじは東日本ではあまりなじみがない、西日本ならではのおでんだねだ。
まずはその量に驚かされた。牛すじのみが山盛りだ。やはり薄味のだしで煮込まれており、酒の供には抜群だ。
もちろん餃子は欠かせない。「安兵衛」よりもやや大ぶりだ。基本揚げ焼きだが「揚げ具合」はやや控えめだった。食感が柔らかい分、あんの味が引き立つ。こちらもニラだ。明らかにニラが立っている。ちょっとかじってあんを確かめると、緑色のニラが明らかに目に付く。やはりビールが進む餃子だ。
福岡の屋台とは違い、明らかにメニューのバリエーションが少ないのが高知の屋台の特徴と言えそうだ。餃子、おでん、ラーメンがその基本だ。しかし、メニューが少ないが故に、特に餃子の個性が際立っている。高知を訪れた際には、ぜひ屋台の餃子を食べ比べてほしい。