噛みしめるうまみ、濃厚な卵 「奥久慈しゃも」

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茨城県北部、福島県との県境にある八溝山を源流に、茨城県を縦断して太平洋に注ぐ久慈川。その源流域は奥久慈と呼ばれ、日本三名瀑のひとつに数えられる袋田の滝や、紅葉の名所としても知られる竜神峡などの景勝地に恵まれている。山に囲まれ、寒暖の差が大きい気候から、奥久慈では古くからしゃもの飼育が盛んに行われてきた。

奥久慈しゃもの串焼き

しゃもは漢字で「軍鶏」と書く。その名の通り闘鶏専用の品種だったが、食味に優れることからやがて食用として飼育されるようになった。同地のしゃもは、「奥久慈しゃも」のブランドで知られているが、これは茨城県内から選抜された穏やかな性格のしゃもを、「肉の味を最高に、産卵率・育成率を高く」のコンセプトで、名古屋コーチン、ロードアイランドレッドを交配して誕生したものだ。

むね肉をサラダに

闘鶏をルーツに持つ気性の荒いしゃもを、中山間地域の静かな環境で、ストレスをかけずにブロイラーの3倍もの時間をかけて飼育する。動物性タンパク質を使わず、穀物や青菜を中心とした、ヨモギなどの滋養成分や海藻由来の天然ミネラル等を配合した低カロリーの専用飼料を与える。これによって、緻密でしっかりとした肉質、ジューシーな肉汁、加えて脂肪分が少なく歯ごたえがあり、香りが良いなど、高い肉質を実現。88年には、全国鶏肉消費促進協議会が開催する「全国特殊鶏(地鶏)味の品評会」で全国10種の地鶏の中から第1位に選ばれている。

調理前、座敷に運ばれてきたしゃも肉

さぁ、実際に奥久慈しゃもを食べてみよう。訪れたのは、水戸駅そばにある「五鐵夢境庵」。店名は鬼平犯科帳に登場するしゃも鍋屋「五鐵」に由来する。うなぎ、あんこう鍋も人気だが、店名からも分かるように、しゃも鍋が看板メニューだ。鍋は板場で調理するのだが、その前に座敷に肉が運ばれてきて、奥久慈しゃもの新鮮さを見せつける。レバーなども入って、いかにも新鮮そのもの、この後の鍋が楽しみになる。

しゃものレバーをパテに

先付けはレバーのパテをバケットにのせたもの。まずはこれをつまみにビールで喉を潤す。サラダにもあっさりとしたむね肉が添えられている。むね肉は食感も柔らか。まずは、濃厚なレバーの味とさっぱりむね肉でその味わい深さを確かめる。

しっかりした歯ごたえの焼きしゃも

焼き物は手羽ともも肉だ。サラダのむね肉とは対照的なしっかりした歯ごたえだ。とはいえなかなかかみ切れない「親鳥」のような硬さではない。ブロイラーでは体験できない、適度な歯ごたえだ。肉の密度の高さを感じ取ることができる。しかも脂っこくない。アスリート系の肉とでも言えるだろうか。しっかりと動き回り、時間をかけて飼育したからこその歯ごたえと味わいだ。

「五鐵夢境庵」のしゃも鍋

低脂肪と歯ごたえの良さは鍋に最適だ。鶏ガラだしのスープでも、しっかりしたしゃも肉は煮崩れることがない。スープの味わいを適度に肉に取り入れる。味の染み込んだ野菜と一緒に食べれば、肉のうまみとスープの味わいが口の中で渾然一体になる。

最後は雑炊に

マッチョなしゃも肉は、鍋の終盤になってもスープが脂っこくなることはない。そもそものスープの味わいに肉のうまみが加わり、味がどんどん膨らんでいく。それを最後に雑炊にしていただく。たっぷりめのスープで食べる雑炊は、シメというよりは、スープを残さず飲みきるための手段のように思える。

「道の駅奥久慈だいご」の奥久慈しゃも親子丼

地鶏をごはんもので食べるならやはり親子丼だろう。翌昼、奥久慈しゃもの地元、久慈川上流の大子町を訪ねた。「道の駅奥久慈だいご」内にある「だいご味レストラン」で奥久慈しゃも親子丼を注文する。運ばれてきた親子丼は、黄身の濃い色合いがそそられる。

米粒に黄身がまとわりつく

だしがしっかり効いたつゆだくのご飯に濃厚な味わいの黄身が流れ出る。それを歯ごたえとうまみが両立するしゃも肉をのせてしゃもじですくい取る。かなりのつゆだく具合だが、それがなんとも味わい深い。お茶漬けを流し込むかのように、親子丼を掻き込んでしまった。

奥久慈しゃもの親子コロッケ

「だいご味レストラン」では、奥久慈しゃもの親子コロッケも食べてみた。しゃも肉のコロッケの中に、奥久慈しゃもの卵が入っている。箸を入れると、半熟の黄身が流れ出してくる。奥久慈しゃもの魅力は肉だけではない。卵の、特に黄身の濃厚さは、肉以上に味にパンチがある。

「玉屋旅館」のしゃも弁当

奥久慈の中心駅、JR水郡線の常陸大子駅には奥久慈しゃもを使った駅弁もある。しゃも弁当だ。駅弁といいながら実はしゃも弁当、歴史は浅い。1987年、茨城県内で科学万博「つくば’85」が開催された際、奥久慈地方の観光PRを兼ねて運転されたSL奥久慈号に合わせてつくられた駅弁だ。調理・販売するのは、駅前にある「玉屋旅館」。宿泊客にはしゃも料理が提供されるが、弁当なら予約さえすれば、宿泊しなくても食べることができる。そもそも弁当だが、希望すれば店内で食べることもできる。

ゴボウとしゃも肉のマリアージュ

駅弁らしく冷めても美味しい点がうれしい。歯ごたえの強い肉は冷めると食べにくくなりがちだが、冷めてなお、地鶏特有のうまみが味わえる。臭みが出やすい脂の少なさが、弁当でもその持ち味を発揮している。また、肉の下に敷かれたゴボウが、肉のうまみをさらに引き立てる。そぼろ卵で奥久慈しゃものもう一つの魅力である卵の美味しさも合わせて味わえる。

卵もまた奥久慈しゃもの魅力の一つ

奥久慈の中心街である常陸大子駅周辺をはじめ久慈川沿岸の多くのお店で、卵焼きなど様々な奥久慈しゃも製品に出合える。国道118号線沿いには、奥久慈しゃも生産組合の直売所もあり、多彩な部位の奥久慈しゃも肉を購入することができる。しゃも鍋のたれも購入して、自宅でもしゃも鍋を味わった。都心からならじゅうぶん日帰り圏内の奥久慈。週末にドライブがてら、奥久慈しゃもを味わいに出かけてみてはいかがだろうか。

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