水俣から久留米へ ご当地ちゃんぽん巡礼の旅(初日)

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「食文化を旅する」では、これまで何度かご当地ちゃんぽんについてご紹介してきた。明治時代に長崎で誕生したちゃんぽんは、そこから近隣各地へ伝播していく中で、その土地の暮らしぶりや食材に合わせて、少しずつその姿と味を変えていった。それぞれどう違うのか、どんな魅力があるのか……。東京から九州へと向かい、各地のちゃんぽんを食べ歩いた。今回は番外編として、ちゃんぽん以外の各地の名物料理も合わせて、九州食べ歩きの旅の魅力をご紹介したい。

「いづみ」の鉄鍋餃子

最初に降り立ったのは北九州市八幡西区のJR黒崎駅。翌朝からのちゃんぽん巡礼の旅に備えて小倉に宿を取った。黒崎駅は、九州各地で人気の鉄鍋餃子発祥の地。駅に近い「本店鉄なべ」で誕生した。今回は、地元で人気が高いという「いづみ」を訪ねた。鉄板で焼いた餃子は、焼き面を上にして提供される。食べ進むうちに本来白い部分にも鉄板で焼き目が付いてくる。このカリカリでビールが進む。

「角打ち丸和前」のラーメン

シメは小倉でラーメン。「角打ち丸和前」は、旦過市場の大火を奇跡的に生き残ったお店だ。ちゃんぽんに挑む前に、白濁とんこつスープと細麺の福岡らしいラーメンを味わった。「角打ち丸和前」は、おでんも人気だ。

「角打ち丸和前」の春菊おでん

大火の際には店の外に運び出して守ったという秘伝のだしが魅力だ。「おでんで熱燗」の誘惑に駆られたが、翌朝からのハードな食べ歩きに備えて、九州ならでは春菊のおでんをつまむにとどめた。

「鶴岡食堂」の特製ちゃんぽん

ご当地ちゃんぽん巡礼の旅、小倉からまず向かったのは、鹿児島県に隣接する熊本県水俣市だ。一気に南下し、そこから北上する計画だ。まずは、丸島漁港にある「鶴岡食堂」を訪れる。場所柄、漁業関係者がターゲットなのだろう、特製ちゃんぽんは、澄んだスープだが、肉体労働仕様で非常に塩辛い。しかし、その味は抜群だ。

「喜楽食堂」のチャンポン

続いて中心市街地に移り、「喜楽食堂」の暖簾をくぐる。「喜楽食堂」は水俣を代表する名店で、ちゃんぽんに限らず、定食なども充実する。水俣市民なら一度は食べたことがある、まさに「水俣の味」だ。最大の特徴は白い麺。スープはとんこつ100%ながら、くどさがない。

こだわりの「セパレート調理」

具とスープ、そして麺を一緒に煮込むのがちゃんぽんの基本。丼にスープを張り、麺を入れて具をのせるラーメンとは調理法が違う。とはいえ、主人の三牧賢治さんは、中華鍋の中で肉とキャベツ、モヤシ、麺を別々にして決して混ぜない。そうしないと、具と麺が絡み合ってしまい、盛りが美しくならないのだそうだ。大量調理には不向きなやり方だが、このこだわりこそが「喜楽食堂」が地元で愛され続ける秘訣なのだろう。

「又兵衛」の餃子

水俣から九州道を一気に福岡県久留米市まで北上する。久留米はご当地ちゃんぽんに限らず、多種多様なご当地グルメで知られるまちだ。ちゃんぽんの前に、まずは久留米の美味しいものを堪能する。まずは、「又兵衛」から。地元では大人気の餃子とやきとりの名店だ。

包みたてを焼く

「又兵衛」は席に着くやいなや「何人前焼きますか?」と問われるほどの餃子の名店。カウンターでは常に餃子の皮であんを包み、それを焼く。あえて皮をしっかり閉じず、食べる際に微妙にあんが飛び出るところが美味しさの秘訣だ。野菜たっぷりで数を食べてもくどくない。

「又兵衛」のダルム

やきとりも餃子と並ぶ「又兵衛」の人気メニューだ。久留米では、串焼きをすべて「やきとり」と呼ぶ。鶏でなくとも、魚介でも野菜でも串に刺して焼けば、それがやきとりだ。そんな久留米やきとりを代表する一品がダルムだ。豚の腸、いわゆる白もつを久留米ではダルムと呼ぶ。ホルモン焼きの白もつとは対照的に脂を徹底的にそぎ落として塩焼きにする。

「ロヂウラ酒八利」の甲府とりもつ煮

もう少し呑んでからシメのちゃんぽんとしよう。「又兵衛」を後にして向かったのは、西鉄駅そばの、地元で人気の立ち飲み店「ロヂウラ酒八利」だ。主人の豆津橋渡さんは、久留米の食文化のエキスパート。久留米やきとりでまちおこしに取り組む中で知り得た全国のご当地グルメを地元から取り寄せ、地元の味のまま提供する。ここに来れば、全国津々浦々の美味しいものが一堂で堪能できる。

「ロヂウラ酒八利」の津ぎょうざ

さぁ、シメのちゃんぽんだ。惜しまれつつ閉店した「光華楼」をはじめ、久留米にもちゃんぽんの名店は多い。味も多様だ。人気の屋台ちゃんぽん「武ちゃん」は後継者の下で復活した。多くの名店の中から今回訪れたのは「川村食堂」。ちゃんぽんだけでなく、定食など多くのメニューで久留米市民に愛される名店だ。

「川村食堂」のちゃんぽん

「川村食堂」の久留米ちゃんぽんは、あっさりしたスープで野菜もたっぷりだ。関東などちゃんぽん不毛地帯に住む者には、ちゃんぽんといえば白濁スープを連想させるが、実はそれほど白濁していない場合が多い。しかも全体的にあっさり目が多い。ラーメンのこってり具合とは対照的だ。野菜など具の調理にラードを使うので、スープまでこってりさせるとくどくなってしまうからだろう。

久留米では屋台でもちゃんぽんが堪能できる

少し長くなった。ちゃんぽん巡礼の旅2日目の模様は次回紹介するとしよう。

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