かつて鉄道が交通の中心的役割を担っていた時代、幹線が分岐する駅は、多くの人が働く巨大駅だった。東北方面へ向かう東北本線と長野・新潟方面に向かう高崎線が分岐する大宮駅や、長崎本線と鹿児島本線が分岐する鳥栖駅などは、乗り換えはもちろん、大きな貨物操車場もあり、たくさんの鉄道関係者が働いていた。福井県の敦賀駅もそんな拠点駅のひとつで、そこには働く人々の空腹を満たす独自のスタミナ食も誕生している。敦賀ラーメンだ
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今でこそ、北陸本線の一駅に過ぎない敦賀だが、戦前は中国大陸、そこから欧州までつながる国際航路への乗換駅だった。日本が中国大陸へと勢力を拡大させていた時代は、多くの人たちがここで船へと乗り換え、中国大陸へと向かっていた。拠点駅としての敦賀駅の繁栄は終戦後も続く。
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現在、敦賀ラーメンを代表する存在として知られる「一力」は、1958年に、敦賀駅前で屋台として開業した。駅で働く多くの鉄道関係者の空腹を満たすためだ。そのスープには、スタミナの付く豚骨、豚の脂が使われている。鶏ガラ、鶏の脂とともに、敦賀の地下水を使ってスープを作る。強い火力で、スープが吹きこぼれるほどに加熱しながらも、煮詰めないようにだしを取り、最後はしょうゆで味を調える。スープは見た目ほどにこってりはしていない。麺は、最高級の小麦粉を使用、かん水にもこだわる。製麺会社と毎日協議をしながら麺を仕上げるという。
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現在は、敦賀市役所そばの店舗で営業を続ける「一力」。地元の人気は高い。開店と同時に多くの客が押し寄せ、すぐに行列になる。とんこつ特有の濁ったスープはいかにもスタミナ満点だ。はじめから添えられている紅ショウガからも、九州のとんこつラーメンを想起させる。しかし、レンゲですくって口に入れると、その濁り具合に似合わず、けっこうさっぱりとしている。
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モチモチとした食感の、ほぼストレートな多加水中細麺とコショウの刺激が後を引く。麺とスープとのマリアージュが絶妙だ。興味深かったのはにんにくそば。おろしにんにくではなく、みじん切りにした生にんにくを入れた丼に熱々のスープを注ぐ。おろしにんにくの力強い刺激ではなく、スープにほんのり優しく、にんにくのうまみが溶け込む。最後、丼に残ったスープをレンゲですくうと、そこにみじん切りのにんにくが姿を現す。
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「一力」は常設店舗での営業となったが、夜の敦賀駅周辺には、依然、屋台の伝統が残る。敦賀駅から北陸の大動脈である国道8号線に向かうと、国道がひときわ広がっている所に出くわす。あまりの広さに、端は駐車場のようになっている。そこに屋台がいくつか軒を連ねている。
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その中でも、最も人気なのが、北陸銀行前で営業する「池田屋ごんちゃん」だ。午後7時を過ぎた頃から、国道8号線界隈では、いくつかトラックが横付けされ、屋台開業の準備が始まる。ラーメンの提供が始まる頃には、すでに空き席を待つ行列すらできていた。メニューはシンプルに普通盛りのラーメンとラーメン大盛りのみ。まずは、注文をして番号札を受け取り、席が空くのを待つ。
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ラーメンのみのシンプルなメニュー構成なので、長尻の客はいない。しばし待てばすぐに席が空く。席が確保できれば、セルフサービスの水を取りに行く。コップを持って席に戻る頃には、ラーメンが運ばれてきた。
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しょうゆでちょっと茶色くなった白濁スープには、チャーシューとメンマ、そして薬味のネギがのっている。非常にシンプルなラーメンだ。濁り具合は「一力」より若干濃い印象。スープの表面には脂もけっこう浮いている。
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驚いたのはチャーシュー入れ放題サービスだった。ラップがかかったタッパウエアに切れ端だろうか、チャーシューが入っている。これを「はい」と渡された。隣のテーブルを見ると、ラーメンの上に、そのチャーシューをのせている。もちろん遠慮はしない。箸で2つかみほど。チャーシュー麺とでも呼べそうな、チャーシューたっぷりのラーメンになった。
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紅ショウガは自分で入れる。やはりとんこつスープには紅ショウガがよく合う。麺はほぼストレートな中細麺で、持ち上げるといい感じにスープの脂がまとわりつく。こってり目の敦賀ラーメンがお好みなら「池田屋ごんちゃん」がおすすめだ。
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せっかくなので、もう1軒、屋台をはしごしよう。国道8号線を駅の方に向かって戻り、アルプラザ敦賀前で営業していたのは「おかや」だ。店舗での営業もしているそうだが、屋台ではやはり普通盛りラーメンと大盛りのシンプルなメニュー構成だった。
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「池田屋ごんちゃん」ほどの混雑はなく、すぐ席を確保できた。運ばれてきたラーメンのスープは、これまでの中で最も濁りが希薄。すすってみるとかなりあっさりだった。鶏ガラがメインなのだろうか。一方、ほぼストレートの麺は、上記2店同様で、敦賀ラーメンの典型的なスタイルだった。紅ショウガは自分で入れる。とはいえ、全体のあっさり感は、こってりの「池田屋ごんちゃん」、ややこってりの「一力」とは対照的だった。
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全国各地で屋台のラーメンが姿を消しつつある中で、中心市街地で屋台ラーメンの文化を保っていることは、非常に好感が持てた。行列を見ても市民に愛されていることが実感できた。なかなか降り立つ機会も少ないかもしれないが、もし夜の敦賀に立ち寄ることがあれば、ぜひ屋台でラーメンをすすってほしい。