ナポリタンなど「日本のスパゲッティ」は、本場イタリアのパスタ料理とはやや異なるスタイルで全国へと広がっていった。そんな「日本のスパゲッティ」の代表格とも言えるのが、名古屋を中心に中京地区で愛されるあんかけスパゲッティだ。
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中華料理のようなとろみの強いソースを茹で上げではなく、茹でおいたものを油炒めして温めたパスタにかけて食べるあんかけスパゲッティは、1961年に名古屋で誕生した。ホテルの洋食部門のシェフ、横井博さんが、うどんのイメージに近く、日本人が馴染みやすいと思われるスパゲッティとして、イタリアンパスタの定番とも言えるボロネーゼソースと、自身が得意とする洋食のデミグラスソースをアレンジして考案した。
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こうして編み出したあんかけスパゲッティを手に、1961年、親類との共同出資で「そーれ」を開業。63年には、独立して「スパゲッティハウスヨコイ」をオープンする。当初はなかなか人気が出なかったと言うが、次第に地元の人々の間に広がっていく。
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そして今や「名古屋めし」の一角を占めるほどの人気メニューになった。もちろん「スパゲッティハウスヨコイ」以外の店でも食べられるが、やはり元祖店に敬意を表し、名古屋駅前KITTEの地下にある支店で「ヨコイ」のあんかけスパゲッティを食べてみた。
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「ヨコイ」のホームページによれば、ソースの材料は、大きく分けて野菜7、トマト2、肉1の割合だという。それを2日がかりで、焦げつかないようにかき混ぜながら煮込んだ後、冷蔵庫で1週間熟成させる。これによって具材のうまみがソースに染み込み、味が締まるとともになめらかさとコクが加わるという。
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調理の際には片栗粉を加え、絶妙のとろみをつける。このとろみによって、麺により味が絡むとともに、冷めにくくなる。舌をやけどするほどの熱さもまた、あんかけスパゲッティのおいしさの秘訣なのだ。
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そしてそのとろみ以上に、あんかけスパゲッティの味の決め手となるのがスパイスだ。ひとくちなめればすぐに分かる。かなりスパイシーなソースなのだ。さぞかし様々なスパイスを使っているのだろうと思いきや、使っているのは何と黒コショウのみという。細かく挽くことでソースとうまく絡み、それでいてソース本来の持ち味を凌駕することもなく、実に爽やかな辛みが口の中に広がる。
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麺もまた個性的だ。イタリア料理のパスタは茹で上げが基本だが、あんかけスパゲッティに限らず、東京の「ロメスパ」も沼津のあんかけスパゲッティも茹で上げではなく、茹でおきのスパゲッティを使う。しかもやや太めのスパゲッティだ。これをラードや油で炒めてソースと絡めるのが「日本のスパゲッティ」なのだ。「ヨコイ」では、家庭用のあんかけスパゲッティを調理する際も、茹で上げた麺をわざわざ冷水で締めてから炒めることを推奨している。
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「ヨコイ」に限らず、あんかけスパゲッティは、基本のソースあんがあり、これに様々な具材を加えることで、メニューのバリエーションを作り出している。シーフードからとんかつ、ピカタ、名古屋ならではのエビフライなどそのバリエーションは豊富だ。その中でも基本ともいえる具材がウインナー・ハム・ベーコン・マッシュルームの「ミラネーズ」とオニオン・ピーマン・マッシュルーム・トマトの「カントリー」。そして、この2種を合わせていいとこ取りをしたのが、イチバンの人気メニュー「ミラカン」だ。
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粉チーズやホットスパイスなども使いなから、麺に具とソースを絡めながら食べ進める。本格イタリアンパスタではなく「日本のスパゲッティ」だ。食べ方にルールはない。自分が最もおいしいと思う食べ方で口に放り込んでいく。
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「スパゲッティハウスヨコイ」の他にも「スパゲティハウスチャオ」など、名古屋には喫茶店も含めて多くのあんかけスパゲッティを売り物にする店がある。しかし、全国にチェーン展開している店はなく、名古屋から離れるほどに、あんかけスパゲッティを食べられる店は少なくなる。
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かつては、名古屋から全国に展開したカレーチェーン「Coco壱番屋」の系列店「パスタ・デ・ココ」が東京・新橋で営業していたが、残念ながらここも閉店してしまった。台湾ラーメンや手羽先から揚げ、味噌カツなどの有名店が次々に全国展開しているが、逆に、あんかけスパゲッティは、より「名古屋めし」の「純度」が高まっている。
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「スパゲッティハウスヨコイ」のレトルトあんかけソース、乾麺は、スーパーなどで比較的手に入りやすいが、やはり本場の味となると、名古屋まで出かけて食べることになる。名古屋まで行ってしまえば、都心部に食べられる店は多い。ぜひ食べてみるべしだ。