暑さを氷で吹っ飛ばせ 長瀞の天然氷と熊谷の雪くま

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埼玉県は、関東圏はもちろん、国内でも有数の「暑い県」だ。2018年7月23日に、県北部の熊谷で、静岡県浜松市と並ぶ日本観測史上最高の気温41.1度を記録している。そんな夏の埼玉の名物がかき氷だ。特に夏の秩父・長瀞では、涼を求める多くの埼玉県民たちが、急流を水しぶきを上げて走り抜ける川下りを楽しみ、天然氷のかき氷に舌鼓を打つ。

多くの観光客でごった返す「阿左美冷蔵」
多くの観光客でごった返す「阿左美冷蔵」

天然氷は、機械による冷凍ではなく、冬の寒さでできた天然の氷を、氷室で保存しておいたものだ。不純物や空気が入りにくいため、見ほれるほどの透明度になる。自然の温度変化の中で、長い時間をかけてゆっくりと凍結するため、驚くほどふわっと、柔らかい食感にもなる。

「阿左美冷蔵」の「秘伝蜜スペシャル」
「阿左美冷蔵」の「秘伝蜜スペシャル」

その違いは、最初のひとくちで実感できる。一般にかき氷は、しゃりしゃりとした食感、つまり氷を砕いたような感覚があるものだが、天然氷は口の中で氷が「ほどける」感覚がある。舌の上で「天然氷」がすっと「天然水」に戻る感じだ。

秘伝蜜に秩父の緑が映り込む
秘伝蜜に秩父の緑が映り込む

長瀞の天然氷といえば、1890(明治23)年創業の「阿左美冷蔵」が名高い。本店は、木造の店舗で、そのたたずまいには歴史と伝統を感じる。人気の「秘伝蜜スペシャル」をいただく。ふんわり積み上げた天然のかき氷に、「秘伝蜜」をかけ、あずき、白あん、抹茶あんを好みで加えて食べる。

天然のかき氷に秘伝蜜をかける
天然のかき氷に秘伝蜜をかける

「秘伝蜜」は、和菓子にも使われる和三盆を煮詰めて作ったシロップで、ソフトな甘さが特徴。かき氷のシロップというと一般には甘みが強く、食後に水がほしくなるほどだが、「秘伝蜜」だけなら、水は不要だ。

あずきや抹茶あんを好みで加えて
あずきや抹茶あんを好みで加えて

明治以来の歴史を誇る老舗を感じさせられるのが、かき氷に添えられた梅干しだ。食後にこの小さな梅干しを口に放り込むと、見事に甘さがリセットされる。いかにも老舗らしい心遣いだ。

最後は梅干しでさっぱりと
最後は梅干しでさっぱりと

「阿左美冷蔵」の天然氷は、夏の長瀞を訪れた際にはぜひ味わってほしい美味だが、残念ながらあまりの人気で、特に週末は、かき氷待ちの行列が尋常ではない。道路にまで行列が連なる本店はもちろん、寶登山道店も店裏に長い行列が見える。つかの間の涼を求めて行列しているうちに、熱中症で倒れそうなほどだ。訪れる際には、事前の暑さ対策は忘れないようにしたい。

喫茶「山草」
喫茶「山草」

もちろん、「阿左美冷蔵」以外の店でもかき氷は堪能できる。今回は「阿左美冷蔵寶登山道店」にほど近い、喫茶「山草(さんそう)」を訪れた。同店のかき氷は、様々なフルーツを使った自家製のシロップが人気だ。

日本いちじくのかき氷
日本いちじくのかき氷

まずは、めっきり食べる機会が少なくなってしまった日本いちじくのシロップだ。優しい甘さを味わえる。いちじくを漢字で書くと「無花果」。花が目立たずに実が大きくなることに因む。雌花が実になるので、日本のいちじくの多くが雌株しかなく、ほとんど品種改良が進んいない。そのため、在来種は、ほとんど市場に出回らない。

木なり完熟と4種の梅のかき氷
木なり完熟と4種の梅のかき氷

もうひとつ、木なり完熟と4種の梅のシロップもいただく。完熟梅を使った濃厚な味わいが特徴。梅ならではの和の味わいが印象的だ。

熊谷の「シノン洋菓子店」
熊谷の「シノン洋菓子店」

冒頭で熊谷の暑さに触れたが、その熊谷には、厳しい暑さをきっかけに誕生した、新たなかき氷もある。雪くまは、熊谷市が2006年にスタートした「あついぞ! 熊谷」事業に伴って誕生したメニューだ。①熊谷のおいしい水を使った氷を使っていること、②氷の削り方に気を遣い、雪のようにふんわりした食感であること、③オリジナルのシロップや食材を使っていること――が雪くまの条件だ。

イタリアンなティラミス
イタリアンなティラミス

JR高崎線籠原駅に近い「シノン洋菓子店」で雪くまを食べた。まずはティラミス味のソフトクリーム入り。たっぷりのココアパウダーやチョコパウダーがふんわりとしたかき氷の表面を覆い尽くしている。かき氷の山の頂には生クリームがのり、中にはたっぷりのソフトクリームも詰まっている。イタリアンテイスト満点だ。

和風の黒みつきなこ
和風の黒みつきなこ

一方で黒みつきなこは純和風の味わいだ。頂には粒あんをいただく。山梨の信玄餅や亀戸のくず餅など、黒みつときなこの組み合わせは、日本人の舌にはぴったりだ。

かき氷を食べ進むと下にソフトクリームが潜む
かき氷を食べ進むと下にソフトクリームが潜む

雪くまは地元でも結構な人気のようで、「シノン洋菓子店」でも、店内に携帯の電話番号を書き、店の前の駐車場で席が空くのを30分ほど待った。それは「まもなく夕食どき」という時間帯まで続いた。「阿左美冷蔵」ほどではないにしても、この時期、埼玉でかき氷を食べたければ、やはり暑さ対策は欠かせないようだ。

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