福島県の喜多方は、言わずと知れた「蔵とラーメンのまち」。札幌のみそラーメン、博多のとんこつラーメンと並び「日本3大ラーメン」と称されるほどで、同地を訪れたからには、やはり「ラーメン食べよう」となるだろう。しかし、「坂内食堂」や「まこと食堂」など、喜多方の人気ラーメン店の多くが「食堂」を看板に掲げる。ということは、人気店、名店ではラーメン以外のメニューがあるのではないか、地元の人たちは、実はラーメン以外のメニューにも舌鼓を打っているのではないか――。そう思えてきた。それを確かめるべく、喜多方を訪れた。
![喜多方ラーメンの元祖「源来軒」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/037dd4c315b79d2d14b570e8ff60f95a.jpg)
まず立ち寄ったのは、喜多方ラーメンの元祖と言われる老舗「源来軒」。喜多方ラーメンの生みの親は、中国浙江省生まれの藩欽星(ばん・きんせい)さん。日本で働こうと長崎へ移り住み、その後東京や横浜を経て、1927年に喜多方へやってくる。鉱山で働くことが目的だったが、あいにく職に就けず、仕方なく、中華麺を打ち、屋台でラーメンを売り、生計をたてることにしたという。
![「源来軒」のラーメン](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/a79342aff159260a467fe1d6162bbe1d.jpg)
藩さんから受け継いだ「源来軒」のラーメンは、鶏ガラだしの非常にオーソドックスなラーメン。見よう見まねで藩さんが作ったという平たく太い縮れ麺は、今では喜多方ラーメンのアイデンティティーと言っていい。
![「食堂なまえ」のやきそば](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/8ad1563ae750adae58e02d6ca4734376.jpg)
もちろん「源来軒」の元祖のラーメンをいただいたが、実は目をつけていたのはやきそばだった。喜多方では、特徴的な喜多方ラーメンの麺を炒めてやきそばを作る店がいくつもある。以前、喜多方でラーメンの人気店を食べ歩いていた際にも「食堂なまえ」でやきそばを食べた写真が残っていた。あの「平・太・縮」の麺がそのままにやきそばになっていたのだが、ラーメンばかりに気をとられ、味の記憶を失っていた。それを確かめるべく今回「源来軒」を訪れたのだが、やきそばは平日限定と言うことで食べることができなかった。週末に訪れる観光客は、やはりラーメン目当てが多いのだろう。
![「食堂いとう」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/8c0d266a90d6db6d7be69d2946bed482.jpg)
次に訪れたのは、「食堂いとう」。喜多方ラーメンの地元提供店が集まり作った「喜多方老麺会」の加盟店だが、炒めそばを名物メニューとしてかかげている。この炒めそばがまさに、「平・太・縮」の麺を炒めたものなのだ。中華そばと合わせて、食べ比べてみる。
![「食堂いとう」の中華そば](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/ef053cc50f967a02db18835072825c66.jpg)
中華そばはとんこつと鶏ガラに野菜を加えただしを使ったやさしいスープに、これまた歯触りやさしいソフトな歯ごたえの麺を合わせたラーメン。腰の強くない麺が好みの人にはおすすめしたいラーメンだ。
![「食堂いとう」の炒めそば](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/64528e4caac39bb7dc952c6c5fba4682.jpg)
炒めそばは、この麺をフライパンで肉やキャベツとともに炒めてソースで味付けをしたものだ。スープも添えられる。まず気になったのが、その「つゆだく」だ。もちろんソースが大量に入っているわけではない。少しだしを加えて、ソースの味の強さを和らげているようだ。軟らかいソース味とソフトな麺の食感が絶妙だ。
![炒めそばにはスープが添えられる](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/fcc938244efb243257df6bc1d33bc448.jpg)
発見だったのは、ラーメンの麺を炒めて食べるというだけでなく、そこに添えられていたスープだった。ラーメンのスープと驚くほど味が違うのだ。聞いてみると、だしもかえしもラーメンと同じものを使っているという。麺を入れ、ナルトやチャーシューといった具をのせていくと、その味がラーメンスープにも移るのだそうだ。ラーメンという料理が、スープと麺、そして具がすべて合わさって完成されるものだということを改めて知らされた気がした。
![喜多方駅前の「桜井食堂」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/abcee0c3ee876eedc0885a87baa74ddb.jpg)
もう一軒、やきそばの味を確かめておこう。訪れたのは、JR磐越西線喜多方駅前にある明治37年創業の老舗「桜井食堂」。同店は、喜多方では珍しい味噌ラーメンをメニューにラインナップすることで知られている。
![「桜井食堂」のやきそば](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/1ff31cebcb4dd4e4f75a3ff6ff1339d0.jpg)
「桜井食堂」のやきそばは、「食堂いとう」とは対照的に、しっかりした歯ごたえの麺だ。そして、この食感とモヤシのシャキシャキ感が実にいい組み合わせになっている。肉も麺の形状に合わせて切られている。夕食時の訪店だったこともあるが、ビールによく合う味だった。
![「桜井食堂」の鳥もつ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/cbcaafda71070d99aec1b6d01f1955c8.jpg)
「桜井食堂」では、塩川鳥モツの際にも紹介したが、鳥もつがゼッピンだった。鳥皮に加え、レバーも入っている。そしてモヤシも。やきそば同様に、モヤシが実にいい食感を生み出している。提供直前に加えるというすりおろしたにんにくの辛みにビールが止まらなくなってしまった。ビールでおなかが膨らんでしまい、シメのラーメンをギブアップせざるを得ないほどだ。喜多方の食堂で、ラーメンを食べずに満足して店を出てしまった。
![「まこと食堂」の中華そば](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/8d0e1a01adab78c217770b0a9fc7280b.jpg)
喜多方で「坂内食堂」と人気を2分する行列店「まこと食堂」も、地元ではカツ丼のおいしい店として知られている。観光客にも有名なようで、店内ではラーメンと並んでカツ丼が人気メニューとなっている。しかも、卵とじの煮込みカツ丼と会津ならではソースカツ丼と2種類のカツ丼を提供する。
![「まこと食堂」のソースカツ丼](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/5a1c0753ed47a60bd52518c7c7191f99.jpg)
まずは会津らしいソースカツ丼から。ソースカツ丼というと会津若松に有名店・人気店が多いが、いずれもソースをたっぷりとまとわせる店が主流だ。中には、追いがけ用のソースを用意する店もあるほど。これに対し「まこと食堂」は、ソース控えめなソースカツ丼だ。カツも会津若松では厚さや面積で人気を集める店が多いが、「まこと食堂」はごく一般的な大きさだ。味もこれぞソースカツ丼といった感じの味わいだ。
![「まこと食堂」の煮込みカツ丼](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/6efbd42dd3b9ea9ed4ed34270ae187bc.jpg)
会津若松では卵とじのカツ丼もソース味で出す店もあるが、「まこと食堂」の煮込みカツ丼は、オーソドックスなしょうゆ味。あえて違いをいえばちょっと甘めだ。2種類のカツ丼の他にカツライスもメニューにのせており、カツそのもののおいしさが堪能できる味付けになっている。
![「坂内食堂」の肉そば 下が見えない](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/d881580fc5f691af162b8b1c30153ec7.jpg)
さて最後は「坂内食堂」だ。食堂を名乗るものの、ラーメンに添えるライス以外は、ラーメン類とビールなどの飲み物しかメニューにかかげていない。同店は、麺が見えないほどにチャーシューをたっぷりと盛る「肉そば」発祥の店として知られる。そして、その味はチェーン店の「喜多方ラーメン坂内」にもつながっている。喜多方に行ったことがない人でも、チェーン店の味を通して喜多方ラーメンを知っているという人も多いだろう。ただ、実際に喜多方を訪れて何軒かラーメンを食べ比べてみると、あの味は「坂内」の味であって、喜多方ラーメンの味というわけではないということがわかるはずだ。
![「坂内食堂」の透明感の高いスープ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/93058d49eeca73add02376b3792d119f.jpg)
あの透明で、なんとも味わい深いスープのベースはとんこつ。九州の白濁スープのイメージが強いとんこつだが、煮立たせないでだしをとったのが「坂内」の味だ。これまで紹介した店からもわかるように、各店とも鶏ガラ、魚介など、各店各様のだしでスープを作っている。元祖店の「源来軒」が鶏ガラスープだったように、店それぞれにその店のラーメンがある。
![冷やしラーメンは魚介系のだし](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/a02cb16254bc8728139baa5b0d55d9a7.jpg)
そして、実は「坂内食堂」も、冷やしラーメンだけスープが違う。脂が冷えて固まるのを嫌ったのか、魚介系のだしだ。あの「坂内食堂」の違った一面を垣間見た気がした。
![「食堂なまえ」はモチモチの麺が魅力](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2021/09/0ceebd9076b9181c34c255e786aae70b.jpg)
もちろん、喜多方を訪れたら、まずはラーメンを食べることをおすすめする。しかしもし、胃袋に余裕があるようなら、もう少し冒険してみてはいかがだろうか。特に炒めそば、やきそばは、喜多方ラーメンのもうひとつの魅力を掘り当てたような愉しみがある。一度ならず、二度三度と足を運び、食べ比べることで、喜多方の魅力がさらに高まることになるはずだ。