第3回(全4回)
デミグラスソースのかかったカツ系ご当地メニューは全国にいくつかあります。長崎のトルコライス、北海道根室市のエスカロップが知られていますが、これらのご飯部分はカレーピラフやバターライスなどの味付きライス。洋風カツ丼と呼ばれている新潟県長岡市と福岡県大牟田市は、どちらも白飯にカツをのせ、デミグラス系ソースのかかった “カツ丼”なのになぜか皿盛りです。意外なことにカツ丼として、丼スタイルになっているのは岡山のデミカツ丼だけなのです。
岡山デミカツ丼はどんぶりにとんかつがのり、デミグラスソースがかかる、というシンプルな共通点以外、茹でまたは千切りキャベツをのせるかのせないかがあるくらいのもの。しかし、デミグラスソースはそれぞれのお店でかなり個性があります。
デミカツ丼発祥「味司野村」
デミカツ丼発祥である「味司野村」は1931(昭和6)年創業。昭和初期に帝国ホテルのシェフから学び、創意工夫で生み出した、というほんのり苦みのあるコク深い本格派のデミグラスソースなのですが、ご飯に合うように工夫されています。この特製のソースに生ではなく茹でキャベツと合わせたというのは、とんかつがポークカツレツであったころ、温野菜を付け合わせにしていたことを想起させます。
お店は割烹のような佇まいですが、現在はカツ丼専門店となっており、こちらでのメニュー名は「ドミグラスソースカツ丼」。ロースとヒレが選べ、大きさも大盛り、並盛り、2/3盛り、1/3盛りから選べます。また卵とじカツ丼もあり、同様に選べます。メニューは多国語のものも用意されており、コロナ禍以前には外国人も多く訪れていたようです。
現在の店主は4代目ですが、味を受け継ぐのには3代目も、4代目もそれぞれ何年もかけたそうです。もうすぐ90年に迫る味のバトンをこれからも引き継いでいってもらいたいものです。
■味司野村
- 岡山県岡山市北区平和町1-10 野村ビル 1F
- 086-222-2234
- 月曜定休(祝日の場合翌日休)
- 11:00~14:30、17:30〜21:00
※コロナ禍で定休日・営業時間が変更になっている場合があります。来店の際は事前にご確認ください。
老舗日本料理店「雅芳」
1952(昭和27)年創業の雅芳(がほう)は、もともと老舗の日本料理店で、2011年にリニューアルオープンしました。デミカツ丼は四半世紀近く前から出されているそうですが、こちらのデミカツ丼は岡山県産米を使用。そしてさすが、とんかつの美味しさに惹かれます。
写真提供:おかやまデミカツ丼応援隊
豚は山形県米沢市産ブランド豚「天元豚(てんげんとん)」。国内では6%程度しか流通していないイギリス原産でケンブリッジ大学とエジンバラ大学という名門が生み出した黒豚25%配合のケンボロー種という豚を、こだわりの餌と環境で育てたというもの。
赤身がおいしいと聞いていた種ですが、脂が甘くてさっぱりして美味い。カツ丼は卵とじならその一体感で味わってこそ美味いので、極端な話カツが薄っぺらでも美味いものは美味いのです。しかしソースの場合、カツだけでも際立って美味いと感じるものがありますが、こちらのとんかつ、かなり美味いです。
そしてデミグラスソースは牛テール・牛すじ・鶏ガラの出汁で3日かけて作るこだわりのソース。ケチャップ、ソース、醤油を少し加え味の調えられたソースはカツともご飯とも、相性抜群です。
■雅芳(がほう)
- 岡山県岡山市北区表町1-7-1
- 086-222-5560
- 火曜定休
- 11:00~15:00(LO14:30)、17:00~21:00(LO20:30)
※コロナ禍で定休日・営業時間が変更になっている場合があります。来店の際は事前にご確認ください。
和風デミグラスソース「やまと」
中華と洋食を提供する人気の食堂「やまと」は創業1948(昭和23)年の老舗で、看板メニューの中華そばとともに、デミカツ丼の名店としても知られています。個性的なデミクラスソースは和風の香りが食欲をそそる逸品。和風のデミグラスソースとはかなり珍しいですが、その秘密は自慢の中華そばのスープを使っているから。
人気の中華そばは、たっぷりの昆布と削り節のだしと豚骨・豚の皮を一緒に煮込んだスープの和風とんこつ醤油。このベースのスープに、ケチャップやソースなどで味を決めています。少し辛みもあるようで、酸味や甘みのあるソースは優しくもありながら、輪郭がしっかりしている印象です。
カツはヒレとバラ肉の二種を揚げたもの。ヒレ肉だけ、バラ肉だけという希望にも応えていただけるそうです。半ラーメン、半カツ丼というメニューもあり、デミカツ丼はもちろん、是非中華そばも併せて食べていただきたいものです。
■やまと
- 岡山県岡山市北区表町1-9-7
- 086-232-3944
- 火曜定休(祝日の場合は翌日休)
- 11:00~19:00
※コロナ禍で定休日・営業時間が変更になっている場合があります。来店の際は事前にご確認ください。
ウスター系デミグラスソース「だてそば」
メニューがカツ丼と支那そば(ラーメン)のみという老舗「だてそば」。1955(昭和30)年創業で前出の「やまと」と「天神そば」とともに、老舗ラーメン御三家などと呼ばれることもあるとか。寿司屋としてスタートしてからほどなくして今のメニューに。2代目となる女将さんが引き継ぎ、近年体調を壊され休まれることもあったようですが、コロナ禍の現在でも無事営業しています。
だてそばのカツ丼のデミグラスソースは、さらっとしたソースでどちらかといえばウスターソースを感じさせるもの。たっぷりとのったカツにデミグラスソースがかかり、生卵を落として食べます。
今でこそ半ラーメンや半カツ丼がありますので、どちらかメインのセットや半々セットなどがあります。しかし以前はフルサイズしかなく、どちらも魅力的で片方を選べず、結局2食分食べたということがよくありました。
それほど中毒性のある両メニュー。スープは共通で、ラーメンは鶏ガラスープメインの醤油味の黒いラーメン。デミカツ丼の紹介メインではありますが、やはりこちらの支那そばも是非合わせて食べていただきたいものです。
■だてそば
- 岡山県岡山市北区表町2-3-60
- 086-222-6112
- 火曜水曜定休
- 月木金:11:30~15:00、土日祝:11:30〜17:00
※コロナ禍で定休日・営業時間が変更になっている場合があります。来店の際は事前にご確認ください。