ニンニクがごろごろ入った分厚い豚ロース肉のステーキは、切れ目が入ってまるでグローブのよう。見るだけでも「精が付く」ような気がする。これは三重県四日市のご当地グルメ、四日市とんてきだ。
工場で働く人のエネルギー源
![ニンニクごろごろ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2019/11/8682854172dda2704fdb1d846741d554.jpg)
残念なことに、四日市という都市名を4大公害病と合わせて記憶している人は少なくないだろう。それは、高度経済成長期に工業都市として大きく発展したことの裏返しだ。
![戸畑のチャンポンはハイカロリー](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2019/11/3aeb3c0bb41722dd1225cacc0023f8c5.jpg)
工場がたくさんある町には、そこで働く人たちのエネルギー源となる独自のご当地グルメが存在するケースが多い。製鉄のまち、戸畑では、長崎に近いにも関わらず、チャンポンがこってりとんこつスープになり、具には揚げ物がのるハイカロリー仕様に。浜松でぎょうざが好んで食べられるのも工業都市ならではだ。四日市のとんてきも、まさに、工場で額に汗して働いていた人々のエネルギー源になっていた。
豚なら週イチ、ステーキが食べられる
![分厚い豚ロース肉](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2019/11/7855603fd57195193e57b3d174c0e50c.jpg)
三重県といえば、松阪牛のお膝元。なぜ、牛ではなく、豚だったのか。それも、工場のまちが故だ。
高度成長期、工場で働く人々の生活は決して豊かではなかった。精が付くステーキは食べたいが、牛肉はやはり値が張る。「たまのぜいたく」でしか食べられない。一方豚なら、週に一度くらいは食べられる。とんかつでもいいが、やはり「ステーキ」の語感には「ご褒美感」がある。
![居酒屋でとんてきをつまみに一杯](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2019/11/87c130f25983225c52bca68586f533dd.jpg)
四日市とんてきが誕生したのは戦後。市内の中華料理店「来来憲」で修業を積んだ、現在の「まつもとの来来憲」の店主が独立、看板メニューとして人気が高まり、市内の多くの店に広まった。ステーキというとレストランを想像するが、そもそも中華料理店から誕生したメニューだけに、ラーメン店や居酒屋など多くの業態の店で食べられる。
音で焼き加減を調整
![脂身の部分がつながった「グローブ型」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2019/11/dc331b0fbd3613fbf290b0679544db9f.jpg)
使う肉は肩ロース、1枚250グラム。ショウガ焼きよりはるかに厚く、ポークソテーをも上回る厚みを持つ。「グローブ型」のカットも四日市ならではだ。脂身の部分はつながったまま、赤身の部分に縦に切れ目が入る。
![四日市とんてきを焼くのは「鍋」](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2019/11/cdfced476606eba7da07ea1faef86a76.jpg)
「ステーキ」というと鉄板焼きを思い浮かべるが、四日市では、とんてきを中華鍋やフライパンで調理する。肉が厚いため、火をしっかり通しつつ、硬くならないようにするのがプロの技だ。フライパンが発する焼き音で、火が通り切る寸前を見極めるという。
「四日市」といえば「とんてき」
![ソースと相性抜群の千切りキャベツ](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2019/11/ed5773030a977ab2dfb35fda8b906ed4.jpg)
ソースがベースの味付けも四日市ならでは。しょうゆを使う店もあるが「まつもとの来来憲」はじめ多くの店がソース味だ。そしてたっぷりのニンニク。増量も可能だ。添えられるのは、千切りキャベツ。ソースベースのたれに千切りキャベツが合わないはずがない。
![四日市とんてき協会](https://www.gastronomy.town/wp-content/uploads/2019/11/3fe4e18aefb187af5246ee263bd1fb3e.jpg)
2010年から、市民団体・四日市とんてき協会がB-1グランプリに出展、四日市とそのとんてきの魅力を発信し続ける。彼らの願いは、全国津々浦々で、四日市といえば「ぜんそく」ではなく「とんてき」と言ってくれるようになることだ。