岐阜のソウルフード 冷やしたぬきと天ぷら中華

投稿日:2026年2月27日 投稿日: (更新日:

うどん、そば、ラーメン…日本人は麺類好きだ。たぬきそばやきつねうどん、ラーメンなどは全国各地で食べられている「全国版」の人気麺料理だ。とはいえ、山形の冷やしラーメンや北東北のざるラーメン、長野のとうじそばなど、その土地の暮らしぶりから、他のまちとはちょっと食べ方が変わり、それが長く愛され続けてソウルフードとまで呼ばれるケースが多々ある。岐阜では、ひやしたぬきと天ぷら中華が、地元民に愛されるソウルフードとなっている。

たぬきときつねのダブル主演

まずは冷やしたぬきだ。冷たいつゆで食べる、天かすがのったそばは全国どこにでもあるではないかという声もあろう。しかし、岐阜の冷やしたぬきには岐阜ならでは特徴がある。天かすだけでなく、油揚げも入っているのだ。つまり、東京で言うたぬきときつねのダブルが基本になっている。

よく混ぜて食べるのがお作法

そして、つゆが濃く、やや甘い点。東京などでは、かつおぶしなどから取っただしにかえしを加えたしょっぱいつゆだが、岐阜は色、味ともにけっこう濃い。さらに甘さも加わる。加えて、夏だけでなく、真冬でも1年じゅう冷やしたぬきを食べることも岐阜ならではだ。

老舗の風情たっぷりの「更科」

実際に岐阜を訪れて冷やしたぬきそばを食べてみよう。最初に訪れたのは、冷やしたぬきそばを編み出したという、市役所そばにある創業100年を誇る老舗「更科」だ。創業当初、「油揚げと天かすを一緒に楽しみたい」という客からの声を反映させたことが、冷やしたぬきそば誕生のきっかけだという。

「更科」の元祖冷やしたぬきそば

その人気の高さは開店前の行列に表れていた。午前10時半の開店15分位前から行列ができはじめ、あれよあれよという間に大行列になってしまった。店に入った常連客は、間髪を入れずに注文する。そして、老舗とは思えないほど、驚くほどのスピードで料理が運ばれてくる。

漆黒のつゆ

老舗のそば店だけにそばの美味しさが光る。つゆは見るからに濃い。しかし、事前に予想していたほど甘くはなかった。ほんのり甘い程度だ。ボリュームは控えめだったが、常連客からはダブルやうどんとの相盛りを頼む声が多く聞こえた。老舗らしく結構お年を召した方も多かったのだが、みんな冷やしたぬきそば好きのようだ。

「冷やしたぬき天国川原町店」の冷やしたぬきそば

続いて訪れたのは、「冷やしたぬき天国川原町店」。老舗そば店「めん処堀川」の2代目が、日ごろ食べ続けてきた冷やしたぬきそばに改めて注目、始めた専門店だ。やはり老舗の流れを継ぐだけにそばが非常に美味しい。ただし、「更科」とは違いボリュームが凄い。つゆも麺もキンキン冷やされていて、それが、麺の歯ごたえを生み出している。江戸時代の町屋風の店構えもお洒落だ。

麺も細めで非常にあっさり味

お次は、天ぷら中華だ。天ぷらそばや天ぷらうどん、さらにはラーメンも全国どこにでもあるメニューだろう。しかし、ラーメンに天ぷらがのるケースは、愛媛県西条市などごく一部の地域に限られる。その一つが岐阜市なのだ。特徴は、非常にあっさりした和風のラーメンに天ぷらが載っているという点だ。

海老天のたっぷりの衣がスープにとろける

岐阜でも本格中華の店やラーメン専門店に天ぷら中華はない。ラーメンも扱っている食堂のメニューなのだ。東京の大衆食堂でも天丼などのどんぶり物に加えてラーメンも扱っている場合があるが、さすがに天ぷら中華は見たことがない。岐阜では同じ調理場にある、天ぷらとラーメンが、当たり前のように合体してしまうのだ。しかもスープがあっさりとしてるので、天ぷらそば・うどんのような感覚で、まったく違和感なく食べられる。

2階に大食堂が入る岐阜市役所新庁舎

しかし一時、岐阜の天ぷら中華は消滅の危機を迎えたことがある。2020年に、岐阜市内の食堂に天ぷらを卸していた業者が廃業、仕入れ先を失った多くの店が、天ぷらを使う料理をメニューから消してしまったのだ。そこで、天ぷら中華を愛する一部の市民が立ち上がり、多くの人が集まる市役所の食堂での天ぷら中華の提供を直訴、市役所もそれを受け入れ、消滅の危機を逃れることになった。

老舗食堂「志のだや」

まずは、古くから天ぷら中華を扱う老舗食堂「志のだや」を訪れた。ラーメンと言えば、チャーシューがつきものだが、海老の天ぷらと中華麺がこれほどまでに相性がいいというのは驚きでもある。その橋渡しをするのがあっさりとしたスープの存在だ。薄味で透明度が抜群で、ラーメンスープというよりは、そばだしに近い味わいだ。そこに海老天の衣がとろけると絶妙な味わい。

海老天がスープに浸っているのが「志のだや」ならでは

そして、とろけた天ぷらの衣と薄味スープのマリアージュが、これまた何とも中華麺にぴったりなのだ。海老天と並ぶチャーシューも結構な厚みがあり、和の天ぷらそばの要素と中華のラーメンの魅力とが見事に融合したイメージだ。ただ、最初に訪れた日は臨時休業中で、今回も老夫婦のオペレーションだったこともあり、今後が少し心配だ。

「金光食堂」でも天ぷら中華はあった

梅林公園そばの「金光食堂」は、メニューにこそ「天ぷら中華」の文字はなかったが、中華そばと天ぷらうどんがあり、試しに注文したところ、何の違和感もなく天ぷら中華が配膳されてきた。ここでも、たっぷりの衣をまとった海老天があっさりスープの上に鎮座していた。

「市役所大食堂」の天ぷら中華

最後に天ぷら中華の救世主となった「市役所大食堂」を訪れた。2021年に運用が始まったばかりのピカピカの新庁舎の2階にあり、市民にも広く開放された食堂で、メニューに地元の味も多く取り入れている。丼からはみ出るほどの大きな海老天が特徴だ。

「市役所大食堂」の冷やしたぬきそば

ちなみに「市役所大食堂」、地元の味にこだわるだけあって、冷やしたぬきそばもメニューに載っている。麺が見えないほどの大きな油揚げとたっぷりの天かす、そしてワカメがのっている。麺のボリュームもかなりのもので、腹を空かせていかないと食べきれないほどだ。

岐阜市民のソウルフード

冷やしたぬきそばも天ぷら中華も、全国どこにでもありそうで、なかなかお目にかかれない岐阜ならではのメニューだ。そしてそれが、市民に深く愛されていることが実感できた。岐阜を訪れた際には、ぜひこの二つのソウルフードを味わってみてほしい。

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