抜群のうまみ、歯ごたえ 鹿島灘・九十九里のはまぐり

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あさりやしじみとともに、日本では古くから愛されてきた二枚貝、はまぐり。現在では、その大半が中国産で、国産のはまぐりは貴重品だ。産地として知られるのは茨城県鹿島灘から千葉県の九十九里浜にかけての太平洋沿岸と三重県だ。中でも、鹿島灘~九十九里浜の水揚げが多く、はまぐりの産地として名高い。

小ぶりなものは佃煮に

鹿島灘~九十九里浜で漁獲されるはまぐりは、チョウセンハマグリという品種だ。一見外来種のような名前だが、これは「朝鮮」ではなく、稚貝の時期に貝殻に頂紋(ちょうもん)とよばれる2本線が見られるためで、つまり「頂線」がその名前の由来だ。

大きな鹿島灘はまぐり

特に茨城県鹿島市、鹿島灘の沿岸部は砂地が続くため、稚貝の成長にストレスがなく、大人の握りこぶし大を超えるような大きさにまで成長する。その品質は高く、漁では貝を傷つけないようゆっくりと網を曳いたり、選別も手作業で行うなど、品質を損なわない漁法、流通過程で出荷する。これを、外来種と混同されやすいため、チョウセンハマグリではなく、「鹿島灘はまぐり」としてブランド化している。

「浜茶屋はましょう」

代表的な料理は潮汁、焼きはま、酒蒸しなど。はまぐりには、うま味成分のひとつであるコハク酸が豊富に含まれているため、そのうまみをいかに引き出すかが調理のポイントになる。実際に地元で鹿島灘はまぐりを食べてみよう。国道51号線沿いにある「浜茶屋はましょう」を訪ねた。隣接するはまぐりの専門店「やましょう水産」直営の食堂だ。

運ばれてきたはまぐりを焼き網にのせる

各テーブルには焼き台が置かれ、はまぐりをはじめとした新鮮な魚介類を「浜焼き」しながら食べられる。はまぐりは、いけすから取り出して、ボウルに入れてテーブルまで持ってきてくれる。これをトングを使って焼き網にのせる。焼きはまは、焼きすぎないことがポイントだ。特に鹿島灘はまぐりは大ぶりのため、焼きすぎて硬くなると噛み切るのに難儀する。まだ早いかな、というタイミングで味わいたい。

熱が入って貝が開く

熱が入って貝が開いてきたら慎重に取り扱わないと、せっかくのうまみをたっぷりと含んだ汁が炭の上に落ちてしまう。焼き上がったら、トングで汁をこぼさないように、慎重に皿に移す。机上のたれをかけて、熱々をいただく。なかなかに食べ応えのあるサイズだ。ひとくちで食べるには少し大きすぎると思ったが、噛み切ろうにもしっかりした歯ごたえがそれを許さない。結局、大ぶりのはまぐりをそのままほおばった。

はまぐりの潮汁

隣の「やましょう水産」で鹿島灘はまぐりを買って帰り、自宅で潮汁を作ってみた。潮汁を作るときは、水から煮出すことがコツだという。はまぐり特有の強いうまみをじっくりと煮出して味わった。はまぐり自体にも塩味が付いているので、塩を入れすぎないように要注意だ。

はまぐりの酒蒸し

酒蒸しも作ってみた。ごま油ではまぐりをフライパンで炒めて、頃合いを見て日本酒を注ぎ、蓋をして貝の口が開くのを待つ。最後にしょうゆをさっとかければできあがりだ。日本酒に染み出たはまぐりのうまみを存分に味わいたいので、しょうゆをかけすぎないことがポイントだ。

「漁師料理の店ばんや」

九十九里浜にも出かけてみた。九十九里有料道路の真亀インターチェンジを降りた先は、まっすぐな通り沿いにいくつも浜茶屋が並ぶ。選ぶ店を迷ってしまうほどだ。その中の人気店「漁師料理の店ばんや」を選んだ。はまぐりに限らず、天丼や刺し身など、九十九里の新鮮な魚介が、これでもかとメニューに載る。

「漁師料理の店ばんや」の焼きはま

まずは焼きはまから。「漁師料理の店ばんや」ではキッチンで焼いた焼きはまが運ばれてきた。鹿島灘に比べて小ぶりではあるものの、何と1人前が9個。ずらりと並んだはまぐりが圧巻だ。プロが焼いてくれるので、焼き加減は完璧だ。やや小ぶりな分、歯にも優しい。

貝の底に残った汁が抜群の美味しさ

プロの調理には、味付けというメリットもある。鹿島灘ではたれのかけ具合がとても難しかった。たれの味が濃いめだったこともあり、かけ具合によっては貝のうまみにしょっぱさが勝ってしまうからだ。「漁師料理の店ばんや」の味付けは完璧。貝の底に残った汁をすすると、えもいえぬ幸福感を味わえる。

はまぐりフライ

その味に驚かされたのは、はまぐりフライだ。運ばれてきた丸いフライを目にして、焼きはまにくらべて随分と大ぶりなはまぐりだなと感じた。でも、それは錯覚だった。はまぐりを丸のままパン粉をつけて揚げたものとばかり思っていたのだが、中身ははまぐりのミンチだった。そう、はまぐりメンチなのだ。

中ははまぐりのミンチ

これが抜群に美味しい。齢60を超えた歯では、柔らかい焼き加減であっても、はまぐりが歯に挟まってしまったりしていた。しかし、細かく叩かれたミンチなら、貝のうまみそのままでとてもソフトな歯触りになる。大型魚や肉と違って脂がないので、とてもあっさりとソフトにはまぐりならではのうまみが楽しめる。脂っこくない分マヨネーズと一緒に食べると、コクが深くなった。これは、わざわざ食べに行く価値のある味だ。

はまぐりのクラムチャウダー

やはり九十九里のはまぐりを買って帰り、自宅でクラムチャウダーを作ってみた。やや小ぶりな九十九里のはまぐりは、煮込んでも固さを感じない。しっかりと貝のうまみをスープに出しつつ、はまぐりそのものも美味しく味わえた。

ぜひ地元で

自宅で調理して味わうのもいいが、やはり産地で浜焼きしたはまぐりの美味しさにはかなわない気がする。鹿島灘も九十九里浜も都心からはそう遠くはない。鹿島灘はたこの美味しさでも知られている。九十九里ならアジのなめろうも有名だ。ぜひ、現地に足を運んで地元の魚介を味わってみてほしい。

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