外カリ・中もちの個性的な皮 野田のホワイト餃子

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千葉県最北のまち、野田市。細長い三角形の地形が、野田発展の歴史を物語っている。市の最北端で利根川と江戸川が分流し、南端はこの二つの河を結ぶ利根運河と、川に囲まれている。かつては水運が大量輸送の主流だったことから、陸路では運びづらい、重い液体であるしょうゆがここで作られ、水運を通じて江戸へと運ばれていた。そう、野田といえばキッコーマン。そして、そんな野田市民のソウルフートと呼ばれているのが、ホワイト餃子だ。

野田本店で食べたホワイト餃子

実はホワイト餃子、ソウルフードと言いつつ、提供しているのは1店の個店に過ぎない。工場を兼ねたホワイト餃子野田本店が1店舗あるだけだ。にもかかわらず、野田市民のソウルフードとまで呼ばれているのだから、その愛され方は半端ではない。餃子といえば、中華料理の定番中の定番だが、それでも個店の1メニューが愛されているということは、それだけ個性が強いということでもある。

餃子といえば半月型が一般的

餃子といえば半月型が一般的だ。由来は、馬蹄銀(ばていぎん)と呼ばれる中国の貨幣。その形を模したものだという。本場中国では、金運の願いを込めて餃子を食べていた。しかし、ホワイト餃子はちょっと違う。丸いまんじゅう型で、しかもパンパンに膨らんでいるのだ。

中国では水餃子がデフォルト

本場中国では、餃子といえば水餃子が一般的だ。日本の焼き餃子は、食べ残した水餃子を貧しい人々が焼き直して食べた中国東北部の人々の食習慣が由来となっている。そう、日本の餃子は「満州移民」が持ち帰ったものなのだ。なので、各地で見られるご当地餃子の多くは戦後発祥だ。ホワイト餃子も昭和30年代の創業だ。

福島餃子

基本的には焼き餃子だが、ホワイト餃子は一見揚げ餃子のようにも見える。福島餃子と同様に、小さなフライパンに餃子を一杯に敷き詰め、まず熱湯で厚めの皮を十分にゆでてから、多めの油を入れて焼くことから、焼き面だけでなく、側面や上の部分にまで油が回り、まるで揚げたような焼き上がりになる。

小さな揚げパンのよう

見た目は、まるで小さな揚げパンのようだ。皮からタネまですべて手作り。厚めのもっちりした皮は、破れることがなく、皮や餡の水分が、高温の加熱で気化し、焼き上がるまでにはパンパンに膨らむのだ。なので皮の表面ははパリパリ、サクサクだが、内側はもっちりとした食感を残した、とても個性的な食感になる。

シンプルな餡

一方で、中の餡はシンプルだ。最大の特徴はニンニクを使わないこと。しかし、香辛料で工夫しているのか、けっこう深みのある味わいだ。餡は、白菜やキャベツなど野菜が中心。パンパンに膨らんでいてボリュームがありそうだが、中はけっこう空洞なので、さほど重くはない。ホームページには原材料が表記されている。野菜は、白菜、キャベツ、タマネギ、ニラ、ネギ、肉は豚肉、食物油脂、グリンピース、大豆、粒状植物性たんぱく、チキンエキス、干ししいたけ、海老、チーズが加わり、アミノ酸や塩などで調味している。

白(パイ)さんが名前の由来

これまた個性的な名前の由来は、創業者が、中国を訪れた際に「白(パイ)さん」と知り合い、それが餃子作りのきっかけになったから。と言うわけで、「パイ餃子」として誕生したが、分かりやすく英語で「ホワイト」と名付けたという。

うちで食べるホワイト餃子

たった1軒での提供にもかかわらず、野田市民のソウルフードにまでなった理由は「持ち帰り」だ。生餃子を持ち帰り、家庭で焼いて食べるのだ。冷凍餃子もある。店舗での飲食は、営業日・営業時間が短く、飲食スペースも限られている。どちらかといえば、「うちで食べる餃子」としてホワイト餃子が愛されている。

住宅街に忽然と現れるホワイト餃子野田本店

早速野田本店を訪れてみよう。定休日は水曜日だが、飲食は土日祝日も休みになる。月・火・木・金の4日間の営業で、しかも店内で飲食できるのは、夕方5時から夜7時までのたった2時間だけだ。この限られた時間帯に野田市民が集まるため、混雑必至だ。限られた飲食スペースの周りには、空き席待ちのベンチも用意されている。個室もあるが、有料になっている。事務所のような殺風景なスペースで、皆黙々と餃子を頬張る。

潔いメニュー

メニューは、餃子と漬物、そして飲み物のみ。ライスすらない。以前は漬物盛り合わせだったようだが、そこには紙が貼られ、胡瓜古漬けとなっていた。とにかく、餃子にひたすらに立ち向かうのがお作法のようだ。餃子は1人前8個。席に案内され、ビールと胡瓜古漬けを前に餃子の焼き上がりを待つ。

たれは、酢、しょうゆ、ラー油を好みで混ぜる

たれは関東スタイルで、酢、しょうゆ、ラー油を好みで混ぜる。トウガラシも用意されている。表面が油でコーティングされているので、けっこうタレをはじいてしまうのが難点だ。かといって、皮を破ってしまうと、餡がゆるゆるなので、タレまみれになってしまう。なかなか食べ方が難しい。

ホワイト餃子小岩店

野田本店の他にも、各地に「ホワイト餃子」の看板を掲げる店がある。これらは、支店あるいは技術連鎖店と呼ばれ、支店は、本店で所定の技術を取得の上、のれん分けの形で営業する店舗だ。技術連鎖店は、同様に技術を取得するものの、環境や立地条件などから餃子専門店としての経営が難しいため、メニューの一つとしてホワイト餃子を扱う店舗だ。のれん分けの運営は各店舗に任されているので、例えば、小岩店なら定食も提供している。

小岩店の焼餃子わかめスープ定食

外カリ・中もちの個性的な皮の食感は、なかなか他の餃子で味わうことはできないだろう。油をまとった揚げ物のような味わいは、ビールにも相性がいい。餃子好きなら、一度は味わっておくべきだろう。

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