色鮮やかな祝いの食 「富山のかまぼこ」

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富山湾は、変化に富む海底の地形、海流から、「天然のいけす」とよばれるほどに水産資源が豊かだ。かまぼこなどの魚のすり身を使った加工品は、コールドチェーンが発達する以前に、とれすぎた魚介を有効活用するために編み出された食文化で、富山では、その豊かな水産資源を背景にかまぼこづくりが発達した。

色鮮やかな富山の細工かまぼこ

富山湾は、日本海側では列島の中央部に位置し、若狭湾に次いで大きな湾になる。一方で深度では、太平洋側の駿河湾や相模湾と並ぶ日本でもっとも深い湾のひとつだ。また、大陸棚が狭く、深い海が海岸の近くまで迫っていることも大きな特徴で、「藍瓶(あいがめ)」と呼ばれる16もの海底谷もあり、それが魚にとっては住みやすい環境になっており、日本海に分布するとされる約800種のうち約500種の魚介が住んでいるという。

富山のかまぼこは昆布巻き

そんな魚介の豊さを背景に、富山ではかまぼこづくりが発展、消費量も多い。総務省統計局が発表した2020~22年平均の家計調査でも、都道府県庁所在市及び政令指定都市の中で、仙台市、長崎市に次ぐ全国第3位のかまぼこ消費量を誇る。全国的には「板付きかまぼこ」が一般的だが、仙台は焼きかまぼこ、長崎の揚げかまぼこが好まれ、富山では昆布や赤い皮で巻かれたかまぼこが主流だ。

昆布締めは富山を代表する味

その背景になるのは、江戸時代の主要な交通路であった北前船だ。大阪から瀬戸内海を経て関門海峡を抜けて日本海を回り北海道までの物流を担った船だ。このルートで北海道産の昆布が流通したため、関西の出しの基本が昆布になった。北前船の船主の多くは北陸を本拠としており、富山でも昆布が広く普及した。

軍艦巻きにも昆布が

かまぼこ製造の際には、すり身を加熱する必要があるが、板の上にのせて蒸したり、ちくわのように焼いたり、あるいは揚げ油に投入するなどして成形するのが一般的だが、富山はその形や製法に特徴がある。富山では、弾力を増すために成形後しばらく置く「坐り」と呼ばれる工程を省くため、すり身を昆布で巻くことでソフトな食感を保ちながら形を保つのだ。そもそも昆布という味の要と合わせることから、単に成形用だけだけでなく、調理、味を豊かにする側面も備えている。

鶴亀に鯛、富士山とおめでたい図柄がいっぱい

さらに富山のかまぼこ文化を豊かにした背景になっているのはお祝い事だ。富山では、特に婚礼の引き出物に、かまぼこが欠かせない。かつて縁起物として重宝された鯛が不足した際に、かまぼこで鯛の形を摸し、代用したのがルーツという。本物の鯛は細かく切り分るわけにはいかないが、かまぼこなら頭でも尾でも同じ味で切り分けることができ、かつ日持ちがするため、次第に代用品から祝いの席の引出物の定番となったようだ。

かまぼこの籠盛り

鯛を形取ったかまぼこをはじめ、紅、白、鶴、亀、富士、宝船、浦付、結などおめでたい図柄9種の細工かまぼこを集めて籠に盛る。結納の際には花嫁家が、婚礼の際には花婿家が、それぞれの相手の両親に2セット、本人に1セット、仲人に2セット、かまぼこの籠盛りを用意するという。これを家に持ち帰り、近所へお裾分けするのが富山ならではのならわしだそうだ。

色鮮やかで食べても美味しい

その鮮やかさは一見の価値がある。富山駅や中心街の土産物店に行けば、富山ならではの色鮮やかな飾りかまぼこの数々を目にすることができる。東京なら、日本橋や有楽町にある富山県のアンテナショップでもその一端を垣間見ることができる。もちろん、目で楽しむだけでなく、食べてもおいしいのが富山のかまぼこだ。

梅かまミュージアム「U-mei館」

色鮮やかな飾りかまぼこづくりは、市内水橋にある梅かまミュージアム「U-mei館」で見学することができる。駅やバス停からはちょっと離れた場所だが、クルマなら気軽に立ち寄り、ガラス越しに細工かまぼこづくりが見学できる。

すり身に着色

調理台には色とりどりの色素が容器に入れられ並べられている。真っ白な魚のすり身に色素を入れてへらで馴染ませていくと、あっという間に色鮮やかなすり身ができあがる。それをキャンバスのような土台となるかまぼこの上に絞り袋を使って、図柄を描いていく。ひとつひとつ手作業だ。

ていねいに手作業で描く

鯛や「祝」の文字を描くだけでなく、季節を描くことも。今回は2月上旬に訪れたが、その際はひな祭り用の絵柄が描かれていた。以前、夏の終わりに訪れた際は、花火の絵柄だった。機械ではなく職人の手仕事なので、ニーズに応じ、臨機応変に描き分けることもできる。

夏には花火の絵柄

そもそもが工場なので、見学コースの一角には工場で生産されている様々な意匠の、色とりどりのかまぼこを手に取って、買って帰ることができる。予約をすれば、細工かまぼこ作りの体験も可能だ。

春にはひな人形

魚種の豊富な富山湾だけに、原料はスケソウダラに限らず、商品によってはグチ、ハモ、南ダラなども原料に加わる。これにによって味に変化が生まれ、見た目だけでなく、味のバリエーションも楽しめる。さらには北前船由来の良質な昆布に加え、黒部の名水など、富山は水にも恵まれている。美味しいかかまぼこを作るには最適の土地柄だ。富山を訪れた際には、ぜひ地元産のかまぼこにも注目していただきたい。

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