たくあん入りのお好み焼き 「浜松の遠州焼き」

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お好み焼きと聞くと、多くの人は大阪の「混ぜ焼き」、あるいは広島の「重ね焼き」を思い浮かべることだろう。しかし、砂肝が入る広島県尾道市、牛のミンチ肉を入れて牛脂でカリカリに焼く同府中市、薄焼きにして箸に巻き付ける東北地方など、地域によって結構バリエーションが豊かだ。ある意味、東京や群馬のもんじゃ焼きも同類項といえる。そんなご当地お好み焼きの一つが、静岡県浜松市で愛されている遠州焼きだ。

砂肝が入る尾道のお好み焼き

遠州焼きは具を混ぜてから焼く「混ぜ焼き」スタイルだが、その最大の特徴は具にたくあんを使う点にある。浜松市では三方原(みかたがはら)地域でダイコンの栽培が盛んで、たくあんもよく食べられる。手に入りやすかったたくあんが、自然とお好み焼きにも使われるようになった。

富士宮やきそばのルーツも駄菓子屋の鉄板

静岡県は、駄菓子屋が多いことでも知られる。学校そばには必ずと言っていいほど駄菓子屋があり、そこでは菓子だけでなく、小腹を満たせる軽食メニューも提供された。串に刺して手で持ちながら食べる静岡おでんも駄菓子屋発祥で、富士宮やきそばも駄菓子屋にある鉄板でお好み焼きとともに焼かれたのがルーツだ。

たくあんをみじん切りにして入れる

遠州焼きのルーツもやはり駄菓子屋。戦後の食糧不足の時代に生まれた「一銭焼き」からスタートした。ここに手に入りやすかったたくあんが入ってお好み焼きとなった。遠州焼きという呼び方は、浜松以外の人がたくあんの入らない一般的なお好み焼きと区別するために名付けた。なので、地元の人は遠州焼きとは呼ばずに「お好み焼き」と呼ぶ。

キャベツより「薬味」が目立つ

小麦粉と卵を使った生地は大阪のお好み焼きと同様だが、キャベツは少なめで、紅ショウガ、刻みねぎ、そしてみじん切りにしたたくあんが入る。しかし、たくあんの存在は、あくまで紅ショウガや刻みねぎと同じ「薬味」のレベル。キャベツも少なめなので、クレープのような薄いお好み焼きになる。これを2度3度とたたみ、ソースをかけていただく。

紅ショウガ、ねぎと肩を並べる役回り

実際にお店で遠州焼きを食べてみよう。訪れたのはまず、東海道新幹線の線路沿いにある相生公園そばに店を構える「お好み焼大石」だ。いかにも昔ながらのお好み焼き屋といったたたずまいで、飲食スペースは最小限。近所に住む人たちが、電話で注文して持ち帰って食べる、そんな雰囲気のお店だ。

看板は「お好み焼」

メニューに載っているのは、もちろん「遠州焼き」ではなく「お好み焼き」だ。念のため「いわゆる遠州焼きですよね?」と確認してから注文する。入り口を入ってすぐの所に鉄板があり、そこで調理する。

生地に具材を入れて鉄板に広げる

生地に具材を入れて混ぜ、鉄板に広げる。具はやや控えめで、生地も水分が多いため、鉄板の上に薄く広がる。大阪のお好み焼きよりは広島の重ね焼きの最初の部分に具が入っているようなイメージだ。

折りたたんでからこてで切る

焼き上がると刷毛でソースを塗り、折りたたんでから皿に盛る。非常に薄く、柔らかいので簡単にたためる。「足りなければかけてください」とソースとともに運ばれてきた。まずはそのまま食べてみる。

最大の特徴はたくあん

食べてみて分かったことは、遠州焼の最大の特徴はたくあんだが、たくあんは主役ではないということ。脇役なのだ。注意しながら食べないとたくあんの存在に気づかないほど。立ち位置は刻みねぎや紅ショウガと同格と感じた。具少なめ、生地薄めのお好み焼きをほおばると、時にカリッと歯に触る。それが紅ショウガだったりたくあんだったりというイメージなのだ。控えめに、お好み焼きに食感を添える。

「柿ノ木茶屋」

念のため、もう1軒訪ねてみよう。浜松駅から遠州鉄道に乗り、八幡駅で降りて向かったのは「柿ノ木茶屋」。住宅街に佇むお好み焼き屋だ。もちろんここでも看板、メニューともに「お好み焼き」。「遠州焼き」を確認してから注文する。

紅ショウガの赤とねぎの緑、黄色いたくあん

シンプルに具は野菜のみで注文した。ボウルで溶かれたたねが鉄板に広げられる。最も目に付くの紅ショウガの赤とねぎの緑だ。よく目をこらすと、ところどころに黄色いたくあんが見える。そのレベルの存在感だ。

たくあんはどこだ?

ひっくり返すと、そこにはたくあんの存在が判別できなくなっていた。紅ショウガの赤とねぎの緑が生地の下からその存在を主張するのに対し、たくあんの黄色は生地に埋もれてしまっているのだ。やはりソースを塗って折りたたんで皿に盛られた。

折りたたんで皿に盛る

「柿ノ木茶屋」では、マヨネーズも好みでかけて食べる。シンプルなので、マヨネーズのパンチがうれしい。食べてみると、「お好み焼大石」よりもたくあんの存在感が明確だった。とはいえもちろん主役級ではない。あくまでも「薬味」の役割以上の主張はしない。しかし、そのカリッとした食感は、柔らかいお好み焼きにはいいアクセントだ。

マヨネーズをかけて

そばまで入った広島のお好み焼きが晩ご飯なら、薄くてシンプルな遠州焼はおやつ感覚だ。2軒連食も可能な量だった。まさに駄菓子屋で小腹を満たすために食べるものと言える。舌にも胃にも強くアピールするモノではないけれど、いつでも気軽に食べられる庶民の味。それが遠州焼なのだろう。

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