大分県日田市は県西部、福岡県と熊本県に隣接し、周囲を阿蘇、くじゅう山系や英彦山系の山々に囲まれ、そこから流れた豊富な水が合流し、盆地を形成する。北部九州のほぼ中央に位置し、古くから各地を結ぶ交通の要衝であったことから、江戸時代には幕府直轄地=天領として栄えた。
海から遠く、川も比較的上流のため、捕れる魚も小さい。一方で、天領として人口も多かったことから古くからタンパク質に乏しい土地柄だった。しかも、周囲を山々に囲まれた地形は、牛や豚などを運び込むのが難しかったという。そんな日田で愛されてきた動物性タンパクが鶏だ。家庭では、鶏が飼われ、ハレの日には、それが食卓に上った。そもそもタンパク質の乏しかった日田では鶏は貴重な食材で、食肉処理した鶏は余すことなく食べたという。
そんな日田の鶏肉食の象徴とも言えるのがもみじだ。見た目からそう呼ばれるが、要するに鶏の脚だ。日田を流れる三隈川は、筑後川の上流に当たる川だが、筑後川流域のまちでは、もみじを食べる地域が多いという。
見た目こそちょっと抵抗があるが、食べてみるとそのおいしさに驚かされる。パリッとした皮の下にはトロリとしたゼラチン質。しょうゆ味のたれで甘辛く煮つけてあり、酒の供にはもちろんだが、地元では子供のおやつとしても愛されてきたという。
そんな日田の鶏肉食の魅力を味わうべく訪れたのは、JR日田駅と同市最大の観光スポットでもある豆田町のほぼ中間にある「食事の店そのだ」だ。一見大衆食堂風の店構えだが、2階の座敷では、要予約の軍鶏料理がコースで味わえる。
提供する軍鶏は生きたまま店にやってきて、食べるその日の朝に食肉処理されるという。鮮度は抜群だ。まずは、もつを刺身でいただく。足の速い部位だけに、鮮度の良さがおいしさに直結する。
そして正肉。胸肉ともも肉が一緒盛りになっていて、食感と味の違いを堪能できる。心地よい歯ごたえと深い味わいは、ブロイラーとの違いが鮮明だ。ちなみに盛られた皿は、日田ならではの陶器・小鹿田(おんた)焼だ。
そしてがめ煮。もつや肉はもちろんだが、店内で食肉処理するため、魚料理で言う「あら煮」のようにして、様々な部位を食べる。ここでいよいよ、もみじの登場だ。ただし、この日は7人でお邪魔したが、当然のことながら、脚は2本しかない。日田市外からの来訪と言うことで、よく取り合いになるというもみじをいただいた。歯でこそげ取るようにして食べる。
がめ煮で食べ残した骨の部分は、炙って、ふぐのひれ酒のように熱燗に浸して呑む。本当に、余すところなく、軍鶏を食べ尽くす、味わい尽くす。
焼き物はホイル焼きと串焼きだ。軍鶏をまるまる1羽食べようとするとけっこうな量になるのだなと改めて感じた。
皮の酢の物はちょうどいい箸休め。酒の供にぴったりだ。
満腹感にさいなまれながらも唐揚げまでたどり着く。デザートのイチゴが添えられており、いよいよこれで打ち止め、と思ったのが甘かった。
唐揚げの後に鍋が登場した。小分けにされた土鍋の中には焼き餅も入っている。鶏の量もスゴいが、コース全体の量がものすごい。
さらに鍋を食べ切ると、美味しい出しを最後まで味わってほしいと、土鍋をいったん引き取り、そこにはあふれんばかりのそばが入って食卓に戻ってきた。日田のおもてなしの奥深さを痛感させられた。何より、鶏をまるまる1羽食べることがどれほどのごちそうなのかを改めて自覚させられた。
日田の人々の鶏肉食への貪欲さは「食事の店そのだ」1軒だけでは終わらない。長くなってしまった。いったん筆を置き、続きは次回、改めて紹介することにしたい。