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米も麦も餡も 埼玉のいがまんじゅう

投稿日:2026年10月2日 投稿日: (更新日:)

荒川と利根川に挟まれ、広く平野が続く、鴻巣市、加須市、羽生市といった埼玉県北西部の一帯は米どころとして知られる。さらに、古くから、米の収穫後の裏作として小麦の栽培が非常に盛んで、米どころでありながら、農家の日常食としてうどんなど麦食が盛んな地域だ。そんな、米と麦に恵まれた地域ならではの食べものがいがまんじゅうだ。

いがまんじゅう
いがまんじゅう

「朝まんじゅうに昼うどん」。いかに麦をよく食べるか、埼玉県北西部の食文化を端的に表した言葉だ。いがまんじゅうは、現在の鴻巣市で誕生したと言われるハレの日の郷土料理で、田舎まんじゅうを覆うようにまぶされた赤飯が、栗のいがのように見えることから、いがまんじゅうと名付けられた。

鴻巣の「木村屋製菓舗」は創業100年を超える老舗
鴻巣の「木村屋製菓舗」は創業100年を超える老舗

誕生の経緯には諸説ある。もち米が高価だったため、かさを増すために赤飯の中に田舎まんじゅうを入れたという説や、農家の主婦が手間を省くため、赤飯と田舎まんじゅうを一緒にせいろに入れて蒸したところくっついてしまった――などだ。いずれにせよ、普段から麦と米を盛んに食べていたからこそできあがった食に違いない。

鴻巣ではこしあん(左)とつぶあんを用意

基本は、ハレの日の食だ。春、夏、秋のお祭りや祝い事の縁起物として家庭で作られ、食べられてきた。現在は、鴻巣市、加須市、羽生市などの地域で、郷土の味として和菓子屋でも販売されている。実際に各市の中核駅を下りると、徒歩圏内に何軒ものいがまんじゅうを扱う和菓子屋に出くわすことになる。

「かぶせ型」と「包み込み型」
「かぶせ型」と「包み込み型」

美味しく味わうには、できたてをその日のうちにそのまま食べることだが、冬は常温で、夏は冷蔵で2~3日保存も可能だ。翌日以降に食べる際には、まわりの赤飯が少し固くなっているので、軽くレンジで温めると美味しくなるという。さらには、冷凍すれば長期間保存も可能だ。

「大和屋製菓」
「大和屋製菓」

実際に足を運んでみよう。いがまんじゅうが誕生したのは、鴻巣市の北部、旧川里町だと言われている。農業などの1次産業の人口の割合が多く、行事食として農家で食べられていたようだ。JR高崎線の鴻巣駅を降りて、旧川里町方面へ向かうと、たて続けに2軒の和菓子屋に出くわす。看板メニューは、いずれもいがまんじゅうだ。

「大和屋製菓」のいがまんじゅう
「大和屋製菓」のいがまんじゅう

「大和屋製菓」は、駅から続く大通りから少し住宅街に入ったところにある和菓子店だ。店の奥には工房があり、いがまんじゅうをはじめ和菓子やご飯物はすべて手作り、毎朝できたてを店頭へ並べる。いがまんじゅうはこし餡とつぶ餡の2種類を用意する。餡を選べるのはこのあと紹介する「木村屋製菓舗」も同様だ。

「木村屋製菓舗のいがまんじゅう
「木村屋製菓舗」のいがまんじゅう

「木村屋製菓舗」は1905(明治38)年創業と100年を超えた歴史を誇る老舗だ。駅東口のロータリーを出れば、店舗は目の前。老舗ならではのロケーションだ。いがまんじゅうはやや大ぶり。たっぷりの赤飯をまとって、中の田舎まんじゅうは見えない。赤飯の色の鮮やかさも各店のいがまんじゅうの中では出色だった。

「御菓子司まつのや」のいがまんじゅう
「御菓子司まつのや」のいがまんじゅう

羽生市は、武州正藍染とも呼ばれる青縞(あおじま)の生産で知られたまちだ。「御菓子司まつのや」は、駅から少し離れた中心街に店を構える。1865(慶応元)年創業の老舗だ。たっぷりのこし餡は甘さ控えめ。柔らかめに炊き上げた赤飯との相性が絶妙だ。仕上げにぱらりと散らされた白ごまがいいアクセントになっている。

「御菓子司阿良川屋」店頭の看板
「御菓子司阿良川屋」店頭の看板

東武伊勢崎線羽生駅のすぐそばに位置するのは「御菓子司阿良川屋」。こちらも1930(昭和5)年創業とまもなく100周年を迎えようかとする老舗だ。まちの一角の古い小さな菓子店が100年企業だったりするのは、さすがは古くから繊維産業で栄えたまちだけのことはある。店頭には「えが」まんじゅうの看板が掲げられていた。

「御菓子司阿良川屋」のいがまんじゅう
「御菓子司阿良川屋」のいがまんじゅう

「御菓子司阿良川屋」のいがまんじゅうは、「赤飯部分のせ」スタイル。店によって、田舎まんじゅうを赤飯で包み込むようにするタイプと、田舎まんじゅうの上に赤飯をのせるタイプがある。これは後者だ。ひっくり返すと、薄皮のまんじゅうの中にうっすらと餡の姿も見える。

「新井家菓子店」
「新井家菓子店」

埼玉県の北東端に位置する加須市は、埼玉県の市町村では唯一、北関東の栃木、群馬、茨城の3県全てに隣接する。利根川に加え渡良瀬川、さらには渡良瀬遊水地と水が豊かで、米の生産・作付面積では県トップ級。さらには、小麦の生産も盛んで、名物料理は加須うどんと、まさにいがまんじゅうに最適の環境と言える。

「新井家菓子店」のいがまんじゅう
「新井家菓子店」のいがまんじゅう

「新井家菓子店」はまちの中心街に位置する明治創業の老舗だ。同店のいがまんじゅうは、小豆は北海道産にこだわり、田舎まんじゅうの皮には加須産の小麦「あやひかり」を使用する。自慢の小麦を作った田舎まんじゅうを赤飯の合間から少しのぞかせているのが特徴だ。

「たかのチェーン」加須店
「たかのチェーン」加須店

東武伊勢崎線加須駅から「新井家菓子店」のある中心街へ向かって伸びる通り沿いにあるのは、「たかのチェーン」の加須店だ。チェーンといいながら店舗は、加須の他は東大宮、白岡といずれも埼玉県内で、商品もいがまんじゅうを取り扱うなど地元色を打ち出している。

「たかのチェーン」加須店のいがまんじゅう
「たかのチェーン」加須店のいがまんじゅう

興味深かったのが、そのスタイル。ひっくり返すと、そのまま田舎まんじゅうなのだ。いがまんじゅうの成り立ちが一目で分かるフォルムになっている。小麦の田舎まんじゅうが、赤飯の間から見えるスタイルは加須の「新井家菓子店」も同様だったが、ここまではっきりとまんじゅうと認識できるのは、今回訪ねた6店の中で唯一だった。

贅沢の極み
贅沢の極み

田舎まんじゅうと赤飯、甘味と塩味という一見ミスマッチな組み合わせが、不思議な中毒性を持ついがまんじゅう。米も麦も潤沢にとれるからこその、贅沢の極みのような味だ。その証拠に、いがまんじゅうを食べるのは水に恵まれた地域のみだ。同じ埼玉県でも、狭山など武蔵野台地の火山灰地にはない。水に恵まれた地域の豊かさを象徴する食文化と言える。

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