素材の持ち味にそっとうまみ添える 富山の昆布締め

投稿日:2026年7月24日 投稿日: (更新日:

関西の味の基本は昆布だしだが、その産地はほぼ北海道だ。江戸時代から明治にかけては、北海道産の昆布が日本海回りで大阪まで運ばれていた。運んだ船は北前船と呼ばれ、単に北海道と大阪を結んで物流を担うだけでなく、日本海沿岸の各都市で商品を売り買いしていた。現代で言うところの総合商社だ。山形の紅花が京都の呉服の染料として用いられたり、米の豊かな秋田が南国でしか収穫できない砂糖を多く料理に使ったりと、多様な商いと文化の交流を生んだ。富山の昆布締めもそんな北前船が生んだ郷土食だ。

富山の昆布締め

昆布締めは、新鮮な刺身などを昆布で挟んで作る調理法。そもそもは、冷蔵技術が普及していなかった時代に、鮮魚の日持ちを良くするために、干した昆布を使って余分な水分を吸収したことから生まれた。一方で、昆布の旨みが染み込んだ魚は味わいが深くなり、身は熟成され程よい弾力が生まれるなど、美味しさも加味されることから、冷蔵技術が発達した現代でも、富山湾の豊かで美味しい魚を味わう調理法として受け継がれている。

昆布の浅漬け

北前船の寄港地は、日本海沿岸に幅広く点在するが、その中で特に富山で昆布締めが発達した背景には、明治時代に開拓のため北海道へ移住した富山県民の多くが羅臼地方に住み、そこで町の特産品である羅臼昆布を富山にいる親戚などへ送ったことがあると言われている。昆布締めに使う魚種は「サス」と呼ばれるカジキが定番だが、タイやヒラメといった白身魚、富山名産のシロエビやホタルイカなども使われる。

昆布の煮物

早速富山に向かい昆布締めを食べてみよう。高岡市は、富山県北西部に位置し、県庁所在地の富山市に次ぐ都市規模を誇る。そんな高岡市金屋町の町屋を再生し、昆布を楽しむための様々なしかけを集めた施設「KOMBUHOUSE」の中で営業する「クラフタン」を訪れた。「昆布専門店」を謳い、富山の豊かな昆布文化を現代の暮らしに寄り添うかたちで提案する。だし昆布やとろろ昆布をはじめ、昆布の魅力を生かした多彩な食品が並ぶ。

鮮魚の昆布締め

今回は5000円のおまかせコースで注文した。前菜は、昆布をたっぷり効かせた白菜漬けと昆布の煮物だった。いきなりの昆布づくしに期待が高まる。次に登場したのが、昆布締めのプレートだ。右には定番の鮮魚の昆布締めが並ぶ。ザシ(かじき)とふくらぎ(ぶりの幼魚)、たらの子付けだ。ねっとりとした舌触り、そしてうっすら昆布の味わいが、いかにも昆布締めの刺し身だ。しょうゆと日本酒の煮切りが添えられていたが、昆布締めを味わうには淡い日本酒の煮切りの方が適していると感じた。

野菜やきのこの昆布締め

左側は野菜やきのこの昆布締めだ。かりっとした食感を残しつつ、少し舌に粘り気を感じるニンジンなど、どれも繊細な味わいばかりだ。豆腐も昆布締めにされていたのだが、ほんのり香る昆布がなんとも言えない味わいだった。そして、ミョウガ。香りの強いミョウガが昆布と合わさると何とも上品な味になる。

鶏のたたき

続く鶏のたたきも昆布の上にのせられて登場した。表面に軽く火を通す程度の仕上げは、繊細な昆布の味わいを覆い隠さないための工夫だろうか。とはいえ、続いて登場したやきとりも、事前に昆布締めしたものを焼いたものだったが、しっかり火を通しつつ、繊細な昆布のうまみも味わえた。つくづくだしとしての昆布のポテンシャルの高さを味わうことができた。

やきとり

すり身揚げには、とろろ昆布が添えられていた。ここに来て、昆布のうまみをダイレクトに味わえる調理法の登場だ。揚げ物特有のパンチの効いた味わいにも負けないとろろ昆布の味が、昆布づくしコースの中の一品であることを強く主張していた。

すり身揚げ

続いて登場したのは、せいろに昆布を敷いて蒸した野菜だった。長崎・チョーコー醤油のゆず醤油かけぽんでいただく。最初の生野菜の昆布締めにはない、昆布のうまみの入り方を味わえた。やはり、ミョウガと昆布の相性の良さを強く意識した。一度、ミョウガを刻んで昆布と和えて酒のつまみにしてみようと思った。

昆布を敷いた蒸し野菜

最後は豚ロース肉のソテーだ。焼く前に昆布締めにして、さらに、焼き上げに刻んだ昆布と合わせていただく。脂の強い豚肉なので、昆布との相性はいかがなものかと思ったが、なかなかどうして。昆布を伴わない肉にはないであろう、独特のうまみが加わっていた。

豚ロース肉のソテー

お酒は、最初こそクラフトビールを添えたが、昆布締めプレート以降は日本酒のオンパレードとなった。この繊細なうまみと香りは、スモーキーなウイスキーや甘みの強いチューハイでは、その魅力を引き出せないと感じだ。地酒を口に含みながら食べると、昆布の繊細な味わいが増幅されるような気がする。

こだわりの「薄い」みそ汁

店主のこだわりはシメのご飯とみそ汁にも現れていた。まるですまし汁のようなみその薄いみそ汁は、あえてみそではなく、昆布のだしを味わってくれと主張するかのような味わいだった。冷たい刺し身から、火の通った肉、生野菜の昆布締め、野菜の昆布蒸し、そして最後にだし…、様々な調理法でそれぞれに適した昆布のうまみを味わうことができた気がする。この体験は、決して東京ではできないだろう。

高岡の昆布専門店「クラフタン」

「クラフタン」のコンセプトは、「富山の豊かな昆布文化を現代の暮らしに寄り添うかたちで提案する昆布専門店」だ。店名の「クラフタン」には、「クラフト&○○○」という思いも込められているという。伝統工芸や職人技、手作りの品へのこだわりだ。しかも、それは昆布特有の強すぎない、優しいうまみだ。漫然と食べていては、その魅力に気付かないまま食べ終えてしまう危険性もある。感性を研ぎ澄ませて味わいたい料理の数々だった。

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