浜名湖の名物と言えば、まずウナギをあげる人が多いだろう。日本の養鰻は1879(明治12)年に、服部倉治郎が東京深川に養殖池を作ったことが始まりとされている。その後の1891(明治24)年に、倉治郎が現在の湖西市に養殖場を作ったのが、浜名湖の養鰻の源流と言われている。現在もウナギは浜名湖を代表する味ではあるが、いかんせん「夏の食べもの」のイメージが強い。そこで、浜名湖界隈のウナギ屋がオフシーズンのお薦めとして編み出したのが牡蠣カバ丼だ。

浜名湖は、遠州灘と幅約200メートルの今切口でつながる、日本有数の汽水湖として知られる。海水の流入量が多く、塩分濃度が高いため、ウナギ、アサリ、牡蠣、のりなどの水産資源が豊富で、独自の生態系を持つ。ウナギの旬が夏なら、冬はまさに牡蠣のシーズンだ。同じ浜名湖の恵みながら、その旬が異なる点が、ウナギのオフシーズンの名物に選ばれた背景にある。

浜名湖の牡蠣養殖の歴史は、1887(明治20)年ごろ、東海道本線の建設工事とともにスタートしたと言われている。浜名湖に鉄橋を架けるために、円筒形や箱型のかごに石材を詰めた蛇篭(じやかご)や石を設置したところ、その間に天然のかきが育っているのを発見。鉄橋近くの水深の浅い湖底に砂利を敷き並べて、そこに幼いかきを置く地蒔(ぢまき)式という方法で養殖を始めたことが由来と言われている。その後、かき養殖業者が次第に増え、浜名湖はかきの産地として知られるようになった。

浜名湖の牡蠣は全て加熱用で、殺菌の時間を置かず、殻から剥がしてすぐに出荷するため、新鮮で、身の黄色っぽさとふっくらとした見た目を保って、火を通しても縮みづらい特徴がある。そのため地元では、焼いたり蒸したり天ぷらにしたりと様々な方法で加熱して食べている。

牡蠣カバ丼を提供するのは、浜松市内の舘山寺温泉や弁天島周辺のウナギ屋だ。店の看板メニューであるウナギのカバ焼きのタレで、地元産の牡蠣を味付けしたもの。これに、篠原町のタマネギや浜名湖ののり、三ヶ日みかんの皮などを、どんぶり飯にトッピングしたものだ。主に11月から4月にかけて提供され、多くの店舗で個性豊かな牡蠣カバ丼が楽しめる。

まず最初に訪れたのは、舘山寺に向かうバス停を降りて舘山寺まで延びる参道の手前に位置する「松の家」だ。好立地とともに、人気テレビ番組「孤独のグルメ」で紹介された店ということで非常に人気が高い。午前10時半の開店を前に、店頭に置かれた順番表に名前を記入して隣の待合場所で待っていたのだが、10時半まで待っていたら、危うく席を確保できないところだった。それほどの人気ぶりだ。

配膳されてきた牡蠣カバ丼定食には、かなり大ぶりの牡蠣が5つものせられていた。白いミルキーな牡蠣の身が、カバ焼きのタレで漆黒に染まっている。そして牡蠣の上にはいろどりの良い三ヶ日みかんの皮が細かく刻んで添えられている。漆黒の上のオレンジ色が実に鮮やかだ。

牡蠣の向こう側には、カバ焼きのタレにこれまた染まったタマネギが身を寄せ合っている。カバ焼きのタレが持つ甘さとタマネギが加熱されると出てくる甘みとが見事にマッチしている。そして、それが、牡蠣とよく合うのだ。今回他にも何店か牡蠣カバ丼を食べてみたが、タマネギは必須のようだ。

ウナギのカバ焼きのタレなので、味は濃厚。しかし、牡蠣のうまみはそれに負けていない。タレに負けない濃厚なうまみなのだ。そして、牡蠣を頬張ると、自然とタレの染みたご飯がよく進むのだ。アタマだけでも酒のつまみにはなりそうだが、やはりご飯と一緒に食べるのが望ましいと感じた。

もう1軒、舘山寺の境内のすぐ下に位置する「舘山寺園」でも牡蠣カバ丼を食べてみた。こちらはいろどりにカイワレ大根が添えられていた。ミカンの皮のオレンジ、カイワレ大根と刻みネギの緑が、ともすると暗くなりがちが色濃い丼に華を添える。タレの色は「松の家」に比べやや薄めに感じた。

しかしその味は、やはり濃厚。牡蠣のうまみとカバ焼きのタレの甘さとがダブルパンチで口の中で広がっていく。もちろん、牡蠣の下のご飯にはタレがしっかりと染みている。そのご飯がまたうまいのだ。ついついご飯を食べ過ぎてしまう味付けだ。

浜松駅を中心とした市街地にもウナギ屋は多いが、まちなかのウナギ屋では、なかなか牡蠣カバ丼を見かけることはできなかった。牡蠣カバ丼を提供する店は湖に突き出た庄内半島とその先、海へと通じる弁天島地区に多く集中していた。庄内半島のほぼ先端にある「はままつフラワーパーク」内にある「食事処のたね」では、牡蠣カバ丼をテイクアウトできる。

注文をすると、店員さんが調理する前の牡蠣をわざわざ見せてくれた。「今年は凄く大きい」とのこと。確かに大ぶりの牡蠣がたっぷりとご飯の上にのせられていた。舘山寺温泉の2店に比べてもさらに大きいと実感できるサイズだった。かといって、決して大味ではない。

最後に弁天島まで続く湖上の橋を南下し、弁天島にある「浜菜坊」前の自動販売機で、冷凍の牡蠣カバ丼の具もゲットした。牡蠣とウナギのカバ焼きが好きな人だったら、間違いなくはまる味だ。浜名湖を訪れた際には、ぜひ舘山寺温泉や弁天島に足を運び、冬の浜名湖の美味を味わってほしい。




