ねっとりとした濃厚な甘さ 山梨の桃

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農林水産省が発表した2024年の作況調査(果樹)によれば、桃の収穫量は全国で10万9700トン。県別では、山梨県の3万1500トン(シェア29%)がトップだ。次いで、福島県の2万9100トン(同27%)、長野県の1万1400トン(同10%)、山形県の1万300トン(同9%)と続く。桃と言えば桃太郎、岡山県のイメージが強いが、その収穫量は、上位4県、さらには和歌山県の後塵を拝する。つまり統計的には、甲信越から南東北までの山間部が、桃の主たる産地ということになる。

たわわに実った桃

桃の原産は中国といわれ、日本では、弥生時代の遺跡からももの種が見つかっている。中国では、桃を食べた仙人が不老不死となったとの説話があり、花や葉、枝にも邪気をはらう効果があると考えられてきた。日本でも鬼を恐れさせるといわれ、それが桃太郎伝説につながったとの説がある。

太陽をいっぱい浴びて実る

とはいえ、いにしえは主に観賞用として栽培されていたという。食用としての歴史は意外に浅く、明治以降のことだ。最も一般的な品種である白桃(はくとう)は、1899年に岡山県の大久保重五郎氏が発見したもので、日本の桃の元祖とも呼ばれている。20世紀半ばごろまでは、岡山県など西日本の温暖な地域が主要な産地だったが、その後、涼しい地域での栽培も盛んになった。

耐寒性、耐暑性にも優れる

桃は、耐寒性、耐暑性にも優れるため、寒暖差の大きな地域でも栽培しやすく、さらに寒暖差は糖度の上昇にもつながる。1本の木に500個ほどの実をつけるため、剪定や摘果などで、生育させる実の数を調整する必要がある。また、その実はデリケートで病害虫にも弱く、薬剤の散布や袋かけなどの対策も必要になる。そうした手間のかかる作業を経て、美味しい桃が結実する。

山梨県は桃の県別桃収穫量でトップ

山梨県で桃の生産が盛んになったのは、昭和30年代。背景にあるのは、養蚕業の衰退だ。桑畑が桃やぶどうなどの果樹園に変わり、桃の栽培が急速に普及、その結果1966(昭和41)年には、県別の桃収穫量でトップに立った。さらに1989年には、全国に先がけて、収穫した桃を糖度別に正確かつ高速に選別できる光センサーを開発するなど美味しい桃の生産に力を注いできた。

甲州市や山梨市、笛吹市に果樹園は多い

桃の旬は夏。秋を呼ぶブドウに先がけて山梨県内では、桃狩りが盛んだ。主な生産地は山梨市、甲州市の塩山、笛吹市の春日居町、一宮町、御坂町、八代町、南アルプス市の櫛形・白根などだ。特に甲州市や笛吹市は、東京都心からも近いことから、夏は桃狩りをはじめとした桃の観光が盛んだ。

熟していない桃は黄色い

今回桃狩りに訪れたのは、笛吹市にある「御坂農園グレープハウス」。東京方面から中央本線に乗り、山深い郡内地方を抜けると、勝沼ぶどう郷駅から先は甲府盆地が広がる。この周辺が、果樹生産の盛んな地方だ。なだらかに広がる山の斜面から平地にかけて、あちこちに果樹園が広がる。

桃の食べ放題

なので、「御坂農園グレープハウス」に限らず、果樹園は、鉄道や高速道路などの交通の便に恵まれていて、都心方面からの絶好の観光地だ。おおよそお盆の時期までが桃狩りで、お盆を過ぎるとぶどう狩りが始まる。この手の観光農園の売りものは、桃やぶどうの食べ放題だ。

ねっとりとした完熟の桃

まず果樹園に向かい、木の枝に実った桃を一つ選んでもぐ。これはお土産用で、実は桃、鮮度を保つためには、収穫は朝採りが基本だ。熟れた桃は1個ずつ、赤みや熟度を手で確認しながら収穫する。食べ放題は、別途食堂でもいでおいたものを食べるシステムになっていた。テーブルの上にはねっとりした完熟の桃から、黄色い、身の固い桃まで数多くの桃が用意されていた。その中から好みのものを選び、テーブルで皮を剥いて食べる。

食べ頃の桃

まずは食べ頃の桃だ。ももは種側よりも皮に近い部分のほうが甘みが強い。なので、おいしく食べるには、皮をできるだけ薄く剥くことが求められる。また、桃の甘みと香りを堪能するには、冷やしすぎないことも大切なポイントだという。冷蔵庫に入れるのは、食べる30分から1時間ぐらい前が望ましい。氷水で30分ほど冷やすのがベストだ。用意されていた桃はいずれもほんのり冷たかった。

あふれ出る果汁

桃の魅力はなんと言ってもその身の柔らかさ、そしてジューシーさだろう。身が柔らかいので、よく磨いだナイフでないと上手に皮が剥けないのだ。皮が剥けたらかぶりつく。歯にまとわりつくような柔らかさだ。噛んだその部分から、どんどん果汁があふれ出てくる。すぐに手が果汁でベトベトになる。柔らかい果肉なので、どんどん食べ進められる。あっという間に1個を食べ尽くし、2個目に手を伸ばした。

完熟からは想像もできないしっかりした歯ごたえ

試しに身の固い、黄色い桃も食べてみた。熟した桃の柔らかさからは想像できないほどのしっかりした食感だ。かじるとかりっと音がするほど。りんごや梨よりもしっかりとした、例えて言うなら熟し切っていない柿のような食感だった。ただし、熟していない分、甘みは少なく、さっぱりとした味が特徴だ。

100%桃果汁のジュース

食堂に併設された売店では、100%桃ジュースも販売していた。口当たりはさらっとしつつ、ねっとりとした甘さが、やはり桃ならではだ。山梨の桃は終盤だが、より北の福島では、まだしばらく桃狩りが可能だ。暑さが厳しいだけに、さっぱりとした甘さの梨やすいかに気持ちが動きがちだが、濃厚な甘さながら果汁の多い桃も魅力的。是非とも旬の味を旬のうちに味わってほしい。

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