夏の涼味として、日本人にはとてもなじみが深いすいか。いよいよすいかのシーズン到来だ。政府の令和5年産野菜生産出荷統計によれば、すいかの県別生産は、1位が熊本県の4万3800トン、2位が千葉県の3万4700トン、3位が山形県の2万5200トンとなっている。それぞれ代表的な産地は、熊本県植木町、千葉県富里市、山形県尾花沢市だ。特に富里は、大消費地である首都圏内にあり、さらに隣接する八街市も全国でトップクラスのすいか生産量を誇っており、日本有数のすいかの町と言える。

すいかの原産地はアフリカで、高温・乾燥・日照の多い環境を好む。日本には1500~1600年ごろに渡来し、その後全国各地に広がった。明治に入ると、ヨーロッパやアメリカの優良品種が改めて導入され、改良が進んだ。富里市の位置する北総台地の火山灰土の軽い土壌は、水はけが良く水田には適さないが、すいかには好適だった。千葉県農業試験場で、富里の地質に適した品種が開発され、すいかの栽培が盛んになる。1935(昭和10)年には富里村西瓜栽培組合が発足、翌年には皇室にスイカを献上、栽培の統一、検査出荷の共同化などにより、すいかの一大産地となった。

すいかの3大産地は、地理的な条件もあり、植木が3月から6月頃まで、富里は6月から7月頃、尾花沢は8月と、まるでバトンタッチするかのように旬が移っていく。このため、暑くなりはじめから夏の終わりまで、長くすいかが楽しめることになる。ただ、富里の旬は梅雨の長雨の時期と重なるため、必ずしもすいかにとって好適な環境とは言いにくい。そのため、富里市では「トンネル栽培」と呼ばれる、主にビニールトンネルや不織布などを使って、スイカを雨や寒さから守り、育てる方法がとられている。

海に囲まれた千葉県ながら、富里市はは内陸に位置し、昼と夜の寒暖差が大きい。昼夜の温度差は、果物の糖度を上げることから、富里のすいかは甘い、糖度が高いことで知られている。とはいえ、夜はトンネルを閉めて温度が下がりすぎないようにし、昼は開けて温度が上がりすぎないようにする。結実後も摘果することで、大きなすいかに育てていく。さらに、果皮をむらなく着色させるため、すいかの着地面を入れ替える「玉返し」を収穫まで2~3回行う。しっかりと手間をかけたからこそ美味しいすいかができあがるのだ。

そんな富里のすいかシーズンの幕開けを告げるのが、富里市すいかまつりだ。2025年は、6月22日(日)に、富里市役所内にある富里中央公民館前駐車場で開催された。開会は午前9時からなのだが、会場内には8時過ぎにはもう大行列ができあがっていた。行列の先は、格安のB・C級品のすいかの販売だ。果肉のすきや変色などあるものの、味は変わらないすいかが格安で買えるのだ。事前に行列の整理券が配布されるほどの人気ぶりで、8時半過ぎに会場入りした際には、すでにMサイズは売り切れていたほどだ。

日本を代表するすいか産地だけに、地元のすいか熱はヒートアップしていた。会場に隣接した会議室内には、品評会で入賞したすいかがずらり並んでいた。目を見張るほどの大玉や、黒いすいかなど様々なすいかが並ぶ。入賞したすいかは、昨年は東京の大田市場で競りにかけられ、千葉県知事賞のすいかは10万円で、富里市長賞のすいかは5万円で落札されたという。

会場内には、タイの伝統工芸で果物や野菜を専用のナイフで彫刻し、装飾するフルーツカービングが施されたすいかも展示された。すいかの皮に細かく切れ目が入り、表面の緑と皮の白、そしてその下の赤い果肉が美しい模様を描く。非常に微細な細工で、このまま朽ちてしまうのが惜しまれるほどのできばえだ。

開会後は、B・C級品販売コーナーの隣にも長い行列ができはじめた。富里すいかの試食コーナーだ。小さく切った赤玉、黄玉のすいかが無料で配布される。驚かされたのは黄色いすいかの驚くほどの甘さだ。食べ終わった手をそのままにしていたら、糖分で手がベタベタになるほどの甘さだった。

聞くと「金色羅皇(こんじきらおう)」という「日本一甘いすいか」と呼ばれている品種だそうだ。一般的に黄玉のすいかは、赤玉に比べて味が薄いといわれるが、一般的なすいかが、糖度12度を超えると甘いと呼ばれる中にあって、金色羅皇は15度を超えるものが多く、中には20度を超えるものさえあるという。果肉は鮮やかな黄金色で、8キロほどにもなる大玉の品種だ。

試食程度ではなく、しっかり頬張りたい、そう強く思うほどの甘さだった。即座に、会場に隣接する直売所「JA富里市旬菜館」に走った。すいかまつりは展示が主で、販売は直売所でとのことだった。直売所に着くと、開店前にもかかわらず、すでに店前の駐車場は満車。店頭には開店を待つ行列ができていた。

金色羅皇は希少品種とのことで、売り切れ必至。まず商品を確保してレジ待ちの行列に並んだ。並んだ人たちは、皆大量にすいかを購入する。その場から宅配便で送る人も多い。その頃には、会場付近の道路は大渋滞で、駐車場に入れない車が、さらに渋滞を呼ぶような状態だった。富里のすいか、恐るべしだ。

持ち帰った金色羅皇は、しっかり冷やしてからいただいた。試食で少し食べた際は気付かなかったが、中心部分がとりわけ甘い。写真で見ると皮側から少しずつ色が淡くなっていくが、種より上のちょっと柔らかく見える部分がとりわけ甘いのだ。まるで、甘い果実だ。とはいえ、色の濃い部分の味わいは淡泊で、その色味と相まって、すいかがメロンと同じ瓜の仲間であることが実感できた。

富里は都心からはそう遠くないが、冒頭で述べたとおり、すいかのシーズンは思いのほか早く終わる。6月末から7月一杯がメドだ。せっかく近隣で、おいしく、お手頃に手に入れられるのなら、ぜひ富里を訪れて、産地ならではの味に舌鼓を打ってほしい。