野菜たっぷり酢をかけて 「近江ちゃんぽん」

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九州・長崎で誕生した長崎ちゃんぽんは、手に入る食材や、その土地の暮らしぶりを映して姿を変えながら九州全土へ、そして本州・四国へと広がっていったことは、これまで何度か紹介してきた。その中でも特に、関門海峡を渡り本州へと広がっていったちゃんぽんは、本来のちゃんぽんの姿ががかなり薄れてしまっているものが多い。滋賀県彦根市の近江ちゃんぽんもそんなちゃんぽんのひとつだ。

「ちゃんぽん亭総本家」のちゃんぽん

近江ちゃんぽんの特徴は、①ちゃんぽん麺ではなく、普通の中華麺を使う、②白濁スープではなく、和風だしのスープ、③魚介は入らず、野菜がたっぷり入る、④お酢を入れて食べるのが一般的――の4点だ。そんな近江ちゃんぽんを語る上で、決して外すことのできない店がある。「ちゃんぽん亭総本家」だ。

「近江ちゃんぽん亭彦根駅前本店」

「ちゃんぽん亭総本家」は、1963年に彦根で創業した食堂「麺類をかべ」がルーツだ。近江ちゃんぽんはここで誕生した。うどんやそばなど幅広く麺類を提供していたが、とりわけ人気があったのがちゃんぽんだった。あっさりとしたスープ、手軽にたくさんの野菜が食べられると評判になり、老若男女に愛され、やがて彦根市内に広がっていく。ちなみに「麺類をかべ」の看板が、今も「近江ちゃんぽん亭彦根駅前本店」に掲げられている。

中太のストレート麺

「ちゃんぽん亭総本家」のだしは、近江の「丸文醤油」と開発した、削り節や国産昆布などの素材を鈴鹿山系の地下水でだしを取り、熟成しょうゆで味を調えたもの。黄金色のスープは和風そのものの味わいだ。麺は、滋賀県産小麦「びわほなみ」を使い、しっかり熟成させた麺。中太のストレート麺だ。もっちりとした食感とつるりとしたのどごしを併せ持つ。

手鍋でスープとともに煮込む

カギを握る野菜は、滋賀県産をはじめ、全国の産地から旬の物を選んで仕入れている。野菜は各店内で刻み、鮮度にこだわる。これを中華鍋ではなく。手鍋でスープとともに煮込む。あっさりスープに中華麺というと、ちゃんぽんではなくラーメン、タンメンに近いものと思われがちだが、麺とスープ、具を別々に調理して丼で合わせることの多いラーメンだが、具材をスープで煮込むことが、ある種ちゃんぽんの証だ。

ひときわ大きな酢のボトル

そして酢。麺に酢をかけて味変するのがお約束だ。あっさりスープ。軽めの麺に酢の酸味が非常に良く合う。

巨大な「ちゃんぽん亭本店」

とにかく滋賀県内をうろうろしていると、あちこちで「ちゃんぽん亭総本家」にでくわす。それくらい店舗数が多い。彦根でも「麺類をかべ」の看板を掲げる彦根駅前本店の他に、2011年には国道306号線沿いに巨大な「ちゃんぽん亭本店」をオープンさせている。

「らーめん本気」

もちろん近江ちゃんぽんは「ちゃんぽん亭総本家」だけのメニューではない。彦根市内、さらには滋賀県内の多くの店で食べることができる。そんなお店のひとつ「らーめん本気」を訪ねた。駅近くの繁華街にある小さなお店だが、ランチタイムを前に行列ができていた。

「らーめん本気」のちゃんぽん

ちなみに「ちゃんぽん亭総本家」の店舗では「近江ちゃんぽん」の料理名を掲げているが「らーめん本気」では単に「ちゃんぽん」のみだ。これは、この後うかがった「麺類まるいし」も同様だった。彦根では、この和風あっさりちゃんぽんこそがちゃんぽんということなのだろう。

細めの麺

「らーめん本気」の近江ちゃんぽんは実にシンプル。一見モノトーンにさえ見えるほどラーメンどんぶりをキャベツが支配する。しかもこのキャベツをはじめとした野菜をあまり煮込みすぎず、キャベツが本来持つシャキシャキとした食感を生かす調理をしている。店内の常連とおぼしき家族連れからは「野菜柔らかめで」との注文もあったほどだ。

酢が良く合う

細めの麺と相まって非常にあっさり感が強い。しかし、スープにはほどよく脂が浮いており、コクがあり、あっさりしすぎていないところに好感が持てた。これ以上あっさりだと本当にタンメンになってしまう、そう思うほどだった。そしてやはり酢が非常に合う。

「麺類まるいし」

「麺類まるいし」もやはり行列ができていた。「らーめん本気」では、あんかけちゃんぽんやキムチあんかけちゃんぽんなど、ちゃんぽんにこそバリエーションがあるものの、他は中華そばやめしなど、かなりストイックなちゃんぽん専門店といったよそおいだったが、「麺類まるいし」はラーメンの種類も豊富、うどんのメニューも充実しており、まさに「麺類をかべ」を惹起させるメニュー構成だった。

「麺類まるいし」のちゃんぽん

運ばれてきたちゃんぽんは、野菜が山盛りだった。隣席の客が注文した大盛りは非常に驚かされた。とにかく盛りがいい。そして、野菜がカラフルだ。キャベツも緑色の部分が多く使われており、きくらげも入って、モノトーンの「らーめん本気」とは対照的な色合いだった。

野菜が山盛り

一方で、麺は非常に細く、まるでそうめんのようだった。これに酢をかけて食べるとなんとも言えぬほど良く合う。一方で、テーブルには「麺にソースをかけるとやきそば風の味わいになる」との張り紙があり、試してみた。たしかに焼きそばっぽくはなるものの、これだけ麺が細いと、やはり酢の方が合うと思った。

やはりお酢がおすすめ

一時は、関東でも「ちゃんぽん亭総本家」の店舗が多く見られたが、最近は東日本ではすっかり食べられなくなってしまった近江ちゃんぽん。野菜たっぷり、スープもあっさりでヘルシー、女性にもおすすめ。滋賀県を訪れた際には、ぜひ食べてみてほしい。

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